第30話「錬成対決」
「いくわよ」
告げるなり、魔力を解き放つ。
椅子に座る彼の周りに、土属性の魔力を錬成し始める。
それと同時に、ギルギスタからも魔力が放たれるのが分かった。
彼の魔力は私の魔力に絡みつき、支配しようと侵食してくるが……
「……ッ!!」
ギルギスタが目を見張る。
私の魔力は彼の魔力をはねのけた。
魔力が一層膨らみ、彼の周りを取り囲んだ。
「……これは……驚きました……!!」
ギルギスタが本を置き、立ち上がった。
私と向かい合う。
「魔力錬成が、様になってきています。いつの間に? 一体どこで学んだのですか?」
彼の言葉に、自分の成長を実感する。
私は不敵に微笑むだけで、何も言わない。
「……いいでしょう。以前より、少しはまともな戦いになりそうですね」
ギルギスタも微笑んだ。
彼から莫大な魔力が放たれるのが分かる。
私の土属性の魔力が侵食されていく。このままでは私の魔力はとりこまれ、彼の物になってしまうだろう。
だが、ここまでは私の予想通りだ。
『話を聴くと、そのギルギスタって人は、炎も風も土も効かなかったんだよね? 今度戦う時は、それ以外の属性の方がいいね』
ホルス先輩の言葉を思い出す。
土属性がダメなことは最初からわかっていたのだ。
いわばこれは、自分の成長を確かめるための小手調べ。
本当の戦いは、ここからだ。
「ふんっ!!」
私は魔力の属性を一転して変化させた。
土属性が光属性へと変わる。
彼に使ったことのない属性だ。
彼が光属性に適性が無ければ、通じるはずだ。
「ははっ、素晴らしい!! 面白い、面白いです、この戦いは……!!」
ギルギスタが目を見開いて笑った。
いつもより凶悪な笑顔だ。
戦慄と共に、緊張感が増していくのが分かった。
彼の魔力の色が変わる。
私の魔力に合わせて、太陽のごとく輝く光の色へと……
「くっ……!!」
やはり、一筋縄ではいかない。
彼は光の属性にも適性があるようだ。
これで彼が使える属性は、四属性。私が見てきた中で、ルゥに次いで使える属性が多い。
だとすると、残る手札は……!!
「ふふふ。攻められてばかりでは、少々癪ですね。こういうのはどうですか?」
彼からさらに魔力が迸る。
今度は光属性に加えて、土属性の魔力を放ってきた。
それらが合わさり、光と土が一体となった魔力が襲い掛かってきた。
(ご、合成した魔力!? 光だけじゃ防げない!? わ、私も!! 光に、土を合わせなければ……!!)
私は慌てて土属性の魔力を放った。
先輩たちとの修行では合成した魔力をぶつけ合ったことはない。
ホルスも、そんな芸当は出来なかったからだ。
だが、このギルギスタは……彼らよりも、数段上の魔法使い!!
ぶっつけだが……やるしかない!!
「あははは! すごい! すごいです、マルテお嬢様! まさかこれについてこられるなんて……予想以上です!!」
ギルギスタが狂喜した。
彼の凄まじい光と土の魔力に、私は対抗するので精いっぱいだった。
「もっと、もっとあなたを試したい……!!」
ギルギスタからさらに魔力が放たれる。
ま、まさか……三つの属性を!? そんなことが可能なのか!?
三つの属性の合成魔法なんて、ミイス王女も使ったところを見ていない!
こ、こいつ……!!
このままじゃ、負ける……!!
私は死力を振り絞り、一つの属性の魔力を放った。
青色の光。水属性だ。
「むっ」
初めてギルギスタの眉が顰められる。
その瞬間、私を遥かに上回る勢いで魔力が放たれ、私の魔力は取り込まれてしまった。
ギルギスタが魔法を完成させ、私の意識は……まどろみに沈んだ。
***
「……はあ。まさか、あれだけの魔力を使ってもダメなんて……」
私は椅子にぐったりと座りこみ、ギルギスタの作ったスープを飲んでいた。
悔しいけど、コイツの料理は美味い。
「気落ちすることはありません。素晴らしい試合でした。私もこれほど胸が高鳴ったのは、久しぶりです」
ギルギスタが厨房に立ちながら言った。
彼は少し遅い昼食を作っている。
「あなたって、本当にすごい魔法使いだったのね……私もレベルアップしたと思ったのに」
「あなたもなかなかのものですよ。まあ、私の足元にも及びませんが」
「ぐう……強くなって、初めてあなたのすごさが分かった気がする……」
「いえいえ。まだまだ分かってないです。私は実力の十分の一も出してませんから」
なんだこいつ。調子に乗りやがって。腹立つ。
「ねえ、さっきは何が悪かったの? どうやったらあなたに勝てた?」
そう言うと、ギルギスタは少しだけ面白くなさそうな顔をした。
「……あなたに落ち度はありませんでしたよ。私が勝てたのは純粋な魔力の多寡によるものでしょう」
「……そうなの? なんか、圧倒的な負け方をしたような気がするんだけど……」
「実を言うと、先程の戦いは本当に惜しかったです。なぜならば、私は水の属性を使えませんから」
「そうなの!?」
「ええ。ですから、最後の魔法が成功していれば、私は魔法を封じることが出来ませんでした。言うと癪なので黙ってましたけど」
「そっか……惜しかったんだ……」
「私も予想外でした。まさかあなたが全属性を使えるとは思いませんでしたから。素晴らしい才能です。大事に磨くことですね」
私は彼の作った料理を食べながら思った。
「……ねえ、あなたってどうして私のお目付け役なの? そんなに凄いのに。それに、遠回しに私に魔法を教えてくれているような気がするし……」
彼は少し黙った後、再び料理に手を付けながら言った。
「始めにエルフラン侯爵からあなたの面倒を見るように言われた時は、冗談かと思いました。エルフラン侯爵は親馬鹿で娘に大魔法使いを付けるような方ではありませんし……」
「あなたが大魔法使いかはともかく、あまり冗談を言う人ではないわね」
「あの方は見る目があります。あなたが一介の貴族の娘としておくには惜しいと思われたのではないでしょうか」
「だったら、どうして魔法の学校に行かせてくれないの?」
「マルテお嬢様。魔法使いは実力の世界です。貴族かどうかは関係ありません。私がいた魔導学院では、あなた程度の使い手は腐るほどいました。そんなところに金持ちのボンボンが入り込めば、容易く潰されてしまう事でしょう。死ぬことすらあるかもしれません」
「……」
「力を付けることです、お嬢様。誰もあなたに敵わないほどに。誰もあなたに意見できないほどに。そうすれば、おのずと魔導学院への道は開けることでしょう」




