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第3話「これが私の生きる道」

「もう、マルテちゃん! こんなに冷たくなって……本当に心配したんだから!」


「ご、ごめんなさい。おかあさ……お母様」


 危ない。「お母さん」って言いそうになっちゃった。こっちでは、「お母さん」じゃなくて「お母様」。


 私が倒れた後、屋敷は大騒ぎになったらしい。

 医者が何人もやってきて、かわるがわる私を診た。

 そのうちに私は起きて、徐々に事態を把握し、今に至る。


 お母様が私を抱きしめる。

 お兄様が心配そうに私を見つめ、お父様が困った顔で私を見ている。


 お医者様が言うには、体に異常はないらしい。

 ただ、まだ体力が少ないので、本をたくさん読んで疲れたんだろう、ということだった。

 ……だが、本当の理由は違うだろう。


 魔法を使ったせいだ。

 まだ魔法の仕組みはよくわからないが……魔法を使った瞬間、何かが体から抜けていくのが分かった。

 たぶん、あれが魔力と呼ばれるやつだ。

 おそらく、あれを使い切ると気絶してしまうのだ。


「聞いたわよ、マルテちゃん。先生に、難しい本を読んでもらったんですって?」


 ひとしきり私を抱きしめた後、お母様は言った。

 心なしか、顔つきが険しい気がする。


「は、はい」


「それでこんな本に興味を持って、一人で書斎に行ったのね……」


 私の手の中には、”ミイス魔導物語・第一巻・始まりの魔法”がある。どうやらここまで持ってきてしまったようだ。


「明日先生が来たら、厳しく言っておかないと。まだマルテちゃんにはこの本は早いって。ああ、いっそのこと別の先生に変えようかしら……」


 あ、ヤバい。なんか誤解されてる。

 先生を助けなければ。


「ち、違うの、お母様。私が先生にもっと難しい本をって、頼んだの」


「……そうなの? マルテちゃん、でもこれはもっと大きい子向けの本よ?」


「だ、大丈夫! お母様、私、その本も先生の本も、全部読めたから!」


「ええ? でも……本当……?」


「ほら、ここはこう書いてあって、ここはこうで……ね? ちゃんと読めるでしょ?」


 私が内容を説明すると、家族の顔が明るくなると共に、俄かにざわつきだした。


「え、本当に読めるのか……? すごいな、普通に大人が読む本だぞ、これ」


 お兄様が喜色をあらわに本をぺらぺらとめくった。

 お父様もお母様もうれしそうだ。

 えへへ。なんかこういうの、私もうれしいな。


 私が本を読めることでその場は盛り上がり、本当の秘密がばれることはなかった。

 私が魔法を使えることは、まだ隠しておいたほうがいいだろう。

 止められると嫌だし……なんかお母様まで気絶しちゃいそうだから。



***



 その事件があったことで、私とバルダー家の三男との引き合いはとりあえず先送りとなった。

 やっぱり私にお見合いはまだ早い、家でゆっくり静養させようということだった。


 図らずも狙った通りになった。

 魔法を使ってみて良かったと思う。

 そして、あれから変わったことが一つ。


「むふふ……」


 目の前に、新しくて立派な本がある。

 ”ミイス魔導物語”、全十巻のうち、一巻から三巻までがここにある。

 お父様におねだりして、買ってもらった。


 これは私にとっては退屈を紛らわす物語であり……教本でもある。

 昼の授業が終わり、夕食までの空いた時間。

 両親に頼んで、誰にも邪魔されない”読書の時間”をもらった。


 私はここで本を読むふりをしながら……魔法の練習をするのだ。

 ”ミイス魔導物語”は、子供のころのミイス王女の魔法の練習から、大人になって魔法使いとして大成していくまでの道程が描かれている。これは私にとって好都合だった。


 つまり、ミイス王女のように魔法を使っていくことができれば……私はいずれ、大魔法使いとして君臨することができる。そうなれば、つまらない貴族生活に縛られることなんてない。意気揚々と魔法使いとしての青春を謳歌してみせる。そしてゆくゆくは、ミイス王女のように勇者様と結ばれるのだ……!


「……なんてね」


 結ばれるかはともかく、選択肢が増えるのは確かだ。

 私としては、たくさんのいい男性と巡り合えることを期待したい。

 よし、今日も修行に励もう。


 まずは、おさらい。

 この前やってみたように、”光の精霊”を呼び出してみよう。

 あれが幻だったとしたら、私の計画は最初から練り直しだ。

 手をかざし、願いを込めて……


「”光の精霊よ、顕現せよ”」


 ぎゅるん、と体から何かが引き出される。

 この前と同じように、小さな光球が出現した。


「あはっ。やっぱりできた……!」


 うれしい。魔法なんて、漫画かゲームでしか見たことがない!

 それが存在して、自分の手で使える!


「……おっと、いけないいけない。この前はこの後気絶しちゃったんだった」


 浮かれすぎてもいけない。

 うーん……今のところ、この前感じたような気が遠くなる感じはない。


「……もう一個使ってみようかな?」


 本を読み進める。

 ミイス王女は子供のころから結構な数の魔法が使えたようだ。

 今読んでいる場面では、魔法で火を起こして、その辺で捕まえた虫を焼いて食べている。……本当に王女か? この人。


 まあいい。炎の呪文は分かった。私も使ってみよう。

 手を掲げ、集中する。


「……”炎の精霊よ、顕現せよ”」


 ポウッ、と周囲が熱くなるのが分かった。

 小さな赤い光球が、手の中にある。

 できた。炎の魔法も、一回で……!


「……あっ! っとと……!」


 ぐらっと来た。また気絶しそうになったのだ。

 その瞬間、炎の精霊は消えてしまった。


 危ない、危ない……これくらいが今の私の限界らしい。

 また気絶すると厄介だ。


 ギリギリを見極めよう。

 この前は魔法を一回使えて、今日は二回使えた。

 明日はまた増えるかもしれない。

 目指せ、ミイス王女……!

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