第29話「レベルアップ」
「最強の……魔法使い……?」
ホルスを見た。
彼は頷いた。
「あらゆる属性を使える君は、究極的には全ての魔法を封じることが出来る。魔法を極めた君に、勝てる魔法使いはいない」
そうか。
私は闇属性以外の魔法が使える。理論的には、闇属性以外の魔法使いに負けないということだ。
「マルテ君。これから毎日、放課後は僕と魔力錬成の練習をしよう。二人で練習すれば、そのギルギスタって人に対抗できる力が身につくかもしれない」
「う、うん!」
ホルスとの修行が始まった。
「いいかい。僕は”炎の柱”を使おうと魔力を解き放つ。君は自分の魔力を使ってそれを抑え込み、自分の炎の精霊に変えて見せるんだ。いいね?」
ホルスから魔力が放たれる。
それほど多い量ではない。
この魔法が成功したところで、私の腰ほどの高さの炎の柱しか出ないだろう。
私はそれよりほんの少し多い魔力を解き放ち、ホルスの魔力を抑え込もうとした。
「マルテ君、まだ魔力の練りが甘い。その程度の意思の力では、僕の炎を抑え込むことは出来ないよ」
「ぐ、ぐうう……!!」
予想以上の難しさだった。
他人の魔力を制御するというのは……
いつもは自由に形を変えられる魔力が、まるで金属の塊のように硬く感じた。
私の努力も空しく、炎の柱は顕現した。
「マルテ君。最初はもうちょっと魔力を多めに使ってみよう。同じくらいの量で支配してしまうのがベターだが、最初は難しい。多めの量の方が、支配しやすいはずだ」
「わ、わかった!」
今度はうんと多めに魔力を使ってみた。
先程よりも、ホルスの魔力が柔らかい気がする。
よし、あと少し……! 魔力で包んで、私の形に変えて……
「素晴らしい! それだよマルテ君!」
「で、出来た……!」
私の手の中に、大きな炎の精霊があった。
この精霊を構成する三分の一くらいは、ホルスの魔力だ。
「よし、今度は光の魔法でも試してみよう」
「はい!」
修行は順調に進んだ。
ホルスが使う光の魔法を押さえられるようになったら、次は風の魔法。
それも出来たら、次は……
「待ってくれ。僕は炎と光と風しか使えない」
「あっ、そっかあ……じゃあ水と土は練習できないのかぁ……」
その時、アルトに魔法を教えていた先輩が近づいてきた。
「じゃあ、水は私がやろっか。水と風はそこそこ得意なんだよ♪」
「あ、ありがとうございます!」
彼女は四年生で、ミグという名前らしい。
ショートカットの可愛いお姉さんといった感じだ。
彼女の協力もあり、水属性を支配することもできた。
「土属性は俺だな。俺は土しか使えないんだけど、その分練度は高いぜ」
彼も四年生。ミグと同じクラスで、ハインという名前らしい。
すごい。先輩たちのおかげで、どんどん魔法が上手くなる。
これまでの停滞が嘘のように上達していく。
あはっ。魔法を憶えるの、楽しい……!!
「すごいな、マルテ君……あっという間に全属性を支配できるようになってしまった」
ホルスが感嘆した。
「ま、まだまだ小さい魔法しか封じれませんけどね」
「出来るという感覚を掴むことが重要なんだよ。後は努力次第で、いくらでも伸びていくはずだ。じゃあ、次は逆のことをやってみよう。僕が君の魔法を封じようとするから、君はそれに抗って炎の柱を発現させて見せるんだ」
「は、はい。でも、あの……」
「どうかした?」
「いいんでしょうか。私ばっかり、修行に付き合ってもらって……先輩たちもやりたい修行とか、研究とかあるんじゃないですか?」
私の言葉に、先輩たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「いいんだよ。君との修行は、僕たちの修行にもなる」
「そうそう。私、マルテさんのおかげで前より水の魔法が上手くなったよ」
「俺も。土の魔法にさらに磨きがかかったぜ」
「そ、そうですか」
「うん。それにね、僕たちは後輩の成長が楽しいんだ。マルテ君は誰にも負けない魔法使いになれるかもしれないし、リーン君は光と炎の魔法が得意で、僕の後を継いでもらえるかもしれない」
「アルトさんの魔法の才能も素晴らしいわ。たぶん、私よりも水の魔法に適性があると思う」
「バルツはまだまだって感じだけど、手先が器用だよな。魔道具を作らせると、面白いものが出来るかもしれない」
「うん。だから君たちは遠慮しないで、僕たちから学べるだけ学んでほしい。そして君たちも、次の魔法使いが入ってきた時に、同じように鍛えてやってほしいんだ。魔法同盟が無くならないようにね」
私達四人は顔を見合わせた。
「「「「はい!」」」」
***
急速に何かを掴みかけている気がする。
壁を一つ越え、魔法使いとして成長したようだ。
以前とは比べ物にならない精度で魔力を制御できる。
今なら、出来るはずだ。
「”隠者の風よ、欺け”」
風と水の魔力が合わさり、魔法が顕現する。
鏡から、私の姿が消えた。
私はこれまで出来なかった”ミイス魔導物語・第二巻・秘密の書”の魔法に成功した。
合成魔法に、魔力の錬成は欠かせない要素だったのだ。
先輩たちとの修行が、私を引き上げた。
私は第二巻の魔法を全てマスターした。
魔法を解き、階段を下りる。
彼はいつもそこにいる。
澄ました顔で、本を読みながら……
「ギルギスタ」
呼びかけると、彼は本から顔を上げた。
「おや? どうかしましたか?」
言葉では語らない。
私はただ一言、彼に開始の合図を告げた。
「いくわよ」




