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第28話「魔力錬成」

「行ってきまーす」


 家を出る時、本を読んでいるギルギスタを見た。


「ん? どうしました?」


「……別にぃ」


 彼に向けて不敵に微笑んで見せる。

 ふふ。そうやって澄ましてられるのも、今の内だからね……!


 放課後。魔法同盟の秘密の部屋。


「魔法同盟は普段何をしてるんですか?」


「色々だね。魔法に関する情報を交換したり、独自に研究をしてみたり。本棚にある魔導書はほとんど部員の自作なんだ。君たちも好きに書いてみるといいよ」


「わあ、すごい。面白そう……!」


 アルトが顔を輝かせた。

 彼女は本が好きみたいだから、これは嬉しいだろうな。

 誘った甲斐があるというものだ。


「あちこちに置いてある雑貨みたいなのは何ですか?」


 バルツが訊いた。


「それも部員が自作した魔道具。君が持ってるのは開くと水が出る傘。ずぶぬれになるよ」


「開く前に言ってくださーい……」


 バルツがずぶぬれになりながら言った。


「あ、あの! 私、魔法同盟の人に訊きたいことがあってきたんですけど……!」


「なんだい?」


 私はこれまでの経緯を説明した。

 ギルギスタとの戦い。そこで受けた不可解な魔法の技術。

 彼に勝つためにはどうすればいいのか。

 一通り説明を終えると、ホルスは神妙な顔で頷いた。


「……ふむ。聞いた限りだと、そのギルギスタという人はかなりのレベルの魔法使いのようだ」


「はい。全く手も足も出ませんでした」


「……君ほどの魔力を持つ魔法使いを一方的に倒してしまうなんて……おそらく僕でも無理だろう。その人はもしかすると、魔導院の”導師”かもしれないな」


「魔導院の……導師?」


「知らないかい? 国境を越えた魔法使い達の組織、魔導院。その最高位の称号とされる、導師と呼ばれる魔法使いの事を」


「し、知らないです」


「彼らはあらゆる魔法に精通し、魔力は並みの魔法使いの千人分にも勝るという。軍の一個大隊にも匹敵する戦力だとか」


「そ、そんなすごい奴なの……!?」


 完全に想像の範囲外だ。

 そんな人に勝つなんて……とても出来ることとは思えない。

 諦めるしかないの……?


「……とはいえ、僕が見る限り、君にはまだまだ伸びしろがあるように思える。鍛錬を続ければ、導師の頂きに到達することも可能なんじゃないかな」


「ほ、本当!?」


 ホルスは微笑んだ。


「君はこう言ったね。どんな魔法を使っても、直前に力を失ったように消えてしまったとか……」


「うん。大地の剣も、風の刃も、炎の柱も……全部消されちゃった」


「試しに、僕に向かって炎の柱を撃ってごらん」


「え!?」


「いいから。あ、でも威力は弱めにしてね」


「う、うん」


 私たちは部屋の中央で向かい合った。


「”炎の柱よ、立て!”」


 ホルスの足元から炎の柱が立つ。


「”炎よ、我が意となれ”」


 ホルスが唱えた瞬間、炎の柱は吸い込まれるように彼の手のひらに収まった。

 小さな炎の精霊が、彼の手の中にあった。


「そ、それ!! ギルギスタがやったのと同じ!!」


「上手くいって良かった。僕も炎を操るのは得意なんだ」


「一体どうやるんですか!?」


「その前に一つ聞いておこう。君は、魔法とはなんだと思う?」


「え? えーと……」


 改めて問われると、魔法ってなんだろう。

 なんとなく使ってきたから、深く考えたことが無かった。


「ま、魔力が変化したもの?」


「正解。じゃあ、魔力はどうやって魔法へと変わる?」


「そ、それは……呪文を唱えたら?」


「ふふっ。それは半分正解ってところかな。まあ、僕らみたいに魔法を体系的に学んでない人はよく勘違いしてるんだけど」


 ち、違うの?

 じゃあ、魔法って一体……


呪文スペルは、魔法の引き金となる条件付けに過ぎない。本当に重要なのは、魔法という奇跡が起きて欲しいという、”意思の力”なのさ」


「意思の力?」


「君も心当たりがあるんじゃないかな……魔力で人を遠ざけたり、引き寄せたり……そうそう、授業中に僕に魔力で触ろうとしたよね」


「……あっ!」


 そう言えば、魔力は私が思った通りに形を変えた。

 そして魔力で作った手でホルスの体を叩こうとして……止められたのだ。


「思い当たることがあるようだね。そう、魔法は意思の力によってどんな形も取る。強い意思さえあれば、もはや呪文さえ必要ない」


 その瞬間、彼の手の中にあった炎の精霊が、激しく燃え盛る炎へと変わった。

 彼は一言の呪文さえ発していない。それどころか、あれは……元々は私の魔力で作った魔法ではなかったか!?


「意思の力があれば、魔法として形をとる前の魔力を支配することも可能だ。それがたとえ、自分の物でなくともね」


「え? そ、それじゃ……魔法使いと魔法で戦う時は、どうすればいいの? 主導権の奪い合いになっちゃわない?」


「そう。高レベルの魔法使い同士の戦いでは、いかに相手より魔法を確固たるものとして発現させるか。具体的には、敵が練り上げた魔力と、同量の魔力と意思の力があれば、相手の魔法を支配してしまえる。そうさせないために、より早く、強く魔法を発現させた方が勝つのさ」


 そ、そうか……それで私の魔法は、ギルギスタにことごとく無効化されたのか……


「と言っても、この方法にも弱点があってね。自分が使える属性の魔法じゃないと支配できないのさ。僕は光と炎と、風の魔法がちょっとだけ。それ以外の魔法は、別の方法で対抗しないといけない」


「じゃあ、ホルスは水と土の魔法は防げないんだ」


「うん。話を聴くと、そのギルギスタって人は、炎も風も土も効かなかったんだよね? 今度戦う時は、それ以外の属性の方がいいね」


 そっか! ギルギスタも全部の魔法が効かない訳じゃないんだ!

 やっぱり魔法同盟に入ってよかった。こんな重要な話が聴けるなんて……!


「いや、でもこれは無茶な話だったかもしれないな……三属性以上使うなんて、普通の人にはまず無理だ。やっぱり魔力錬成の精度を上げるしか……」


「え? 私、炎と風と土以外も使えるよ?」


「は? でも、四属性使えるなんて、それこそ導師レベルの魔法使いじゃないと……」


「”水の精霊よ、顕現せよ”。”光の精霊よ、顕現せよ”」


 私は各属性の精霊を召喚した。

 五つの色の光球が手の中にある。

 ホルスはそれを見て戦慄いた。

 いや、彼だけじゃない。魔法同盟の先輩たちが、ごくりと唾を飲んで私の魔法を見た。


「き、君は……五つも属性が使えるの!?」


「うん。……え? なんかおかしい?」


「普通の人は、一つの属性を使うので精いっぱいだよ。二つでも多いくらいだ」


 そ、そうなの?

 私もルゥも、同じくらい属性が使えたから、おかしいと思ったことが無かった。

 いや、彼の場合は闇属性も使えたから、私よりも多いんだけど。

 そういえば、ミイス王女も闇属性以外は使ってたな。


「き、君はもしかしたら……最強の魔法使いになれる才能があるかもしれない」

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