第27話「魔法同盟と三人の弟子」
空中に浮かぶように扉が存在している。
その向こうに、書斎のような空間が見えた。
これが、ハイア大貴族学院に隠された、秘密のクラブ。
”魔法同盟”は、確かにあったのだ。
「さっ、早く中へ。誰にも見つからないうちに」
ホルスが手を伸ばしてきた。
私たちはあわてて中に飛び込んだ。
扉はすぐに閉じた。
「すごい……どうなってるの? この魔法」
人が何人も入れる部屋を作り出すなんて。
この魔法は、ホルスら魔法同盟の人が使っているのか。
だとしたら、彼らは私が思っているよりはるかにレベルの高い魔法使いなのかもしれない。
「お前無茶苦茶だな。学校全体を魔力で満たして糸を見つけ出すなんて」
部屋の中にいた小さな男の子が私に言った。
「あ、あなた……同じクラスの!? 確か……マーク君!?」
見覚えのある子だった。
教室では魔法を使える素振りは微塵も見せなかったが……
「君も魔法使いだったんだ。どうして黙ってたの?」
「当たり前だろ。俺達は基本的に魔法の勉強を認められてない。みんな独学で魔法を学んできたんだ。だから秘密のクラブなんだよ」
「そっか」
この学院の生徒はみんな貴族。
おもてだって魔法を勉強する人は少ないわけだ。
「あー、あなたね。中庭ですごい魔法を使ったの。学校ではあんまり大っぴらに魔法を使わないほうがいいわよ。校則で禁止されかねないから」
今度は女の人が話しかけてきた。
知らない顔だけど、私たちより少し年上のようだ。
「魔法の勉強をする機会って言うと、貴族よりも平民のほうが多いくらいだぜ。このままだと、俺はそのうち平民出の魔法使いに権力を取られちまうと思うね」
知らない男の人が言った。
部屋の中にいたのは四人だ。魔法同盟はこれで全員なのだろうか。
「そんな中で、僕らは脈々と魔導の息吹をハイア大貴族学院に息づかせてきたわけだ」
ホルスが言った。
「君ほどの魔法使いならば大歓迎だ。ようこそ、魔法同盟へ」
やった! 魔法同盟に認められた!
これで魔法の勉強ができる! ギルギスタに勝つことができるかもしれない……!
「……しかし、君は招かれざる人たちも連れてきてしまったようだ」
「え?」
「赤毛の子は魔力があるようだが……君と、君。二人は、魔法同盟にはふさわしくない。魔法で記憶を消させてもらおう」
ホルスが指したのは、バルツとアルトだった。
***
バルツとアルトは顔面を蒼白にしている。
彼らの記憶を消すだって?
「ど、どうして? ここを見つけるのに、バルツもアルトもちゃんと力を貸してくれたよ!?」
「これは昔からの決まりなんだ。『魔法同盟は、魔法使いのみその存在を知る』。知られたからには、そのまま帰せない」
「ど、どうやって記憶を消すの……?」
「忘却魔法を使う。魔法同盟の秘伝の魔法だ。大丈夫。ちょっと記憶があいまいになるだけで、体には影響がないよ」
「で、でも、でも……!」
ここしばらく、彼らとはずっと一緒に過ごしてきた。
魔法同盟を探して、勉強して、仲良くなって……
とても楽しかったのだ。
それが、消えちゃう?
消えちゃった後は、どうなるの?
私たちの仲は? 出会う前に戻っちゃうの?
私は目を見開き、ホルスの前に立ちふさがった。
「私が魔法を教えるから! すぐに魔法を使えるようにして見せる! そしたら、みんな一緒に魔法同盟に入ってもいいでしょ?」
「マルテ君。言いたいことはわかるが、魔法の習得には時間が必要だ。それに才能も。時間をかけたところで、彼らが魔法使いになれるとは限らない」
「なれるよ! 私は魔法使いを一人育てたことがあるんだから!」
「本当かい? それが事実だとして、いくら何でも今すぐにとはいかないんじゃないか?」
「……み、三日! 三日あれば、二人を魔法使いにして見せるから! それまで待って!」
「……」
「お、お願いします。ホルス」
「……いいだろう。三日後、ここで待ってる」
***
「た、助かったよ、マルテ……」
「び、びっくりしたぁ~~」
バルツとアルトが息をついた。
「でもマルテ。この二人を魔法使いにするなんて、本気ですの? あなたは才能があったから早く習得できたのかもしれないけど、普通の人は精霊を呼びだすのさえ中々成功しませんわよ」
リーンが言った。
バルツとアルトも不安そうな顔をしている。
「大丈夫! さっきも言ったけど、実は私には魔法の弟子がいるんだから!」
私は胸を張って言った。
「ええ!?」
「本当!?」
「うそでしょ……」
「本当だよ。彼は一日で魔法が使えるようになったの。そしてあっという間に、私と同じくらい魔法が使えるようになったんだから」
「マジかよ!」
「すごーい! マルテちゃん!」
「その子が才能があっただけじゃありませんこと……?」
私はリーンにデコピンした。
「とにかく、私に任せなさい! 絶対に魔法使いにしてあげるから!」
翌日の放課後。四人は私の部屋に集まることになった。
「お、お邪魔しまーす……」
神妙な感じでバルツが家に上がる。
ギルギスタは「おや?」という顔を一瞬したが、すぐに会釈して本に顔を戻した。
「お、おいマルテ。あの人誰だ? 一緒に暮らしてるのか?」
「うん、そうだよ」
「……どういう関係なんだ?」
「あいつは雑用係。私のご飯を作るのが主な仕事」
嘘は言ってないよ。
「……そっか!」
部屋に入ると、三人は興味深そうに中を眺めた。
ううむ……部屋に人を入れるのって、久しぶりで恥ずかしいな……
早速バルツとアルトに魔法を教える。
最初はルゥの時と同じで、”光の精霊”教えることにした。
「精霊は魔力で出来た小さな生き物みたいなもの。すごく少ない魔力で生み出すことができて、それぞれちょっとした能力を持ってるの。”光の精霊よ、顕現せよ!”」
私の手の中に、小さな光の精霊が生まれた。
「「おお~~!」」
「はい、じゃあ二人もやってみて」
「「ええええええ??」」
「マルテ……いきなりはちょっと無謀じゃありません?」
「いいから! だまされたと思ってやってみて!」
バルツとアルトは怪訝な顔をして見つめあった。
だがやがて意を決したように唱える。
「ひ、ひかりのせいれいよ、けんげんせよ!」
「光の精霊よ、顕現せよ~」
だが、何も出なかった。
気まずそうに私を見る二人。
リーンが「ほらね」と言ってため息をついた。
「大丈夫! 今のは呪文を教えただけだから。実は私には、秘策があるのです」
「秘策?」
「ちょっとアルト、体を貸してね」
「えっ? か、体……? ひゃあっ!! マ、マルテちゃん! やめて、そんなところ、触らないで……!」
私はアルトに体を寄せ、服の下から手を突っ込んで直接肌に触れた。
ううむ。めちゃくちゃすべすべで柔らかい。
「あ……あったあった。アルトの魔力、見つけた」
「え、ええ……?」
「アルト。今から私があなたの体に魔力の道を通す。アルトは体を私に任せて、呪文を唱えてみて」
アルトは戸惑っていたが、やがて抵抗をやめ、口を開いた。
「”ひ、光の精霊よ……顕現せよ!”」
その瞬間、私は彼女の体に魔力を流した。
彼女の体を通り、魔力が変質し、その手から放たれ……
「で、出来たっ……!」
光の精霊が、彼女の手の中にあった。
「どう? 魔力の制御は全部私がやったけど、この光の精霊は間違いなくアルトの魔力で出来たものだよ。感覚つかめた?」
「う、うん……! 呪文を唱えた瞬間、魔力が流れる感じがなんとなくわかった……!」
「あ、あり得ませんわ……こんなあっという間に、魔法が使えるようになるなんて……!」
リーンが光の精霊を見ながら戦慄いた。
「ねっ? 言ったとおりでしょ? 前の子もすぐに使えるようになったよ」
「ありがとう、マルテちゃ……うっ!?」
「あっ、アルトは明日まで魔法は使わないでね。今魔力がほとんどないから」
アルトが魔法使いとなり、私は振り返った。
次は彼の番だ。
「さっ、次はバルツだよ!」
彼を見ると、なぜか鼻を押さえていた。
「……は、鼻血が……!」
「えっ!?」
なんでこの場で鼻血が出るの?
私はバルツの鼻にチリ紙を突っ込んだ。
紆余曲折あったが、なんとかバルツも光の精霊を使えるようになった。
彼の場合はアルトよりも大変で、私が触ると体がガッチガチになり、なかなか魔力の源を見つけることができなかったのだ。
おかげで光の精霊が使えるようになるまで期限ぎりぎりまでかかってしまった。
その間、アルトはもう少し先まで進むことができた。
彼女は光の精霊を二つ呼び出せるようになり、水の精霊も一つ呼び出せるようになった。
余談だが、リーンにも進歩があった。
「あ、あの、マルテ……」
恥ずかしそうにするリーン。
「わ、わたくしにも、光の精霊を教えてくださる……?」
「えっ!?」
どうやら彼女は、炎の精霊以外呼び出したことがなかったらしい。
魔力は十分あるのに、基本の精霊を全て使えないとは……
あっ、でも私も闇の精霊は使えないな。
属性には人によって向き不向きがあるのかもしれない。
ともあれ、リーンも光の精霊が使えるようになった。
そして私たちは、アリアデネーの糸の前に来た。
魔力を流すと、扉が現れる。
「よく来たね、マルテさん。後ろの二人は、うまく行ったのかな……?」
「もちろん」
私は自信満々でホルスに告げた。
「「”光の精霊よ、顕現せよ!”」」
二人が光の精霊を呼びだす。
問題なく魔法は成功した。
魔法同盟の人達は目を剥いて驚いていた。
「こ、こんな短期間に魔法を身に着けるなんて……!!」
「い、一体どうやって……!?」
バルツとアルトは魔法同盟に認められた。
これで二人も晴れて魔法使いだ。私は弟子が一気に三人増えたことになる。
えへへ。四人も魔法使いを育てたなんて、もう立派な魔法使いみたいじゃない?




