第22話「魔法披露」
結局、私の総合的な成績は真ん中くらいだった。
いくら算数と国語の成績が良くても、歴史と地理が最下位に近ければ話にならない。
実質23歳の私がこんなちんちくりんの子供たちに負けるとは……屈辱だ。
見てろよ……すぐに追い越してやる……
とはいえ、それは私にとってはおまけだ。
私の本命は魔法なのだ。
魔法なら今すぐにでもこの学校で一番になれる自信がある。
かかってこい! 魔法の先生!
「午後の授業は、貴族のマナーについてです」
……んん?
***
帰宅早々、私はギルギスタに噛みついた。
「ちょっと、どういうこと!? 魔法の授業なんてないじゃない!!」
「あるなんて言ってませんよ」
ギルギスタは愉快そうに言った。
「だって、私はお父様に魔法の学校に行かせてってお願いして、それで通わせてくれるようにしてくれたんでしょ!?」
「……それは、私に勝てたらの話です。お嬢様は、勝ちましたか? それとも、私の魔法が早すぎて、負けたことに気付くこともありませんでしたか?」
「うっ……!」
「ハイア大貴族学院は、貴族としての教養を身に着けるための学校です。魔法科はありません。せいぜい淑女として精進することですね」
「そ、それじゃ、私のお願い、何にも聞いてもらえてないじゃない!」
「とんでもない」
ギルギスタは本から顔を上げ、私を見た。
「エルフラン侯爵はしっかりあなたの希望を聞いてくれてますよ」
「ど、どういうこと?」
「……あなたは、親の都合で結婚させられるのが嫌だったのでしょう?」
「そ、そうだけど」
「あの学校には、国中から有力な貴族が集まってきます。そこで、じっくりいい相手を見つければいいではありませんか。恋愛でもなんでもすればいい」
「そ、そんなんじゃ……私は、魔法を……!」
「おっと。それについては、私に勝てたらの話です。そして、あなたは勝てなかった。だから、魔法の勉強はできないけど、自由に恋愛できる場を与えた。どうです? とってもお優しい父上だと思いませんか?」
「そ、それは……そうかもしれないけど……」
……でも、なんか癪だ。
結局、お父様の掌の上で踊らされているようで。
恋愛できるといっても、しょせんあの学校の中でだけだ。ルゥのような人は、その範疇にない。
私は、それ以上の問答をやめ……手に力を込めた。
魔力の気配を感じ取ったギルギスタが立ち上がる。
「……やりますか?」
「……あなたに、勝てばいいのよね……!?」
「お好きなように」
私は魔力を静かに引き出した。
彼の足元に意識を集中する。
「”大地の鎖よ……”」
ギルギスタの目が輝いた。
「……ほう」
「”縛れッッ!!”」
赤い鎖が床から伸び、ギルギスタの足に絡みつこうとした。
「”土よ”」
しかし、ギルギスタが一言唱えた途端、鎖は消え去った。
「な、なんで……!? やっぱり、ダメ……!!」
「一度見ただけの私の魔法を習得しましたか。素晴らしい成長です」
ギルギスタが目の前から消える。
気づいた時には、真後ろに気配があった。
「でも、まだまだですね」
目の前が真っ暗になった。
***
「むううううう……」
翌日の学校。
私は自席で唸った。
悔しいけど、ギルギスタは私より数段上の魔法使いだ。
これまでのやり方では全く通用しない。
どうにかして勝つ方法はないものか……
「どうしたの、マルテちゃん。怖い顔して」
「アルト。……ねえ、魔法を強くするのって、どうしたらいいのかなぁ……」
「ええっ!? マルテちゃん、魔法が使えるの!?」
「うん。でも、全然勝てない人がいるんだ。その人に勝てないと、私、自由になれないの……」
「そ、そうなんだ。ごめんね、私は全然魔法のことはわからないの……勉強したかったんだけど、お父様に止められちゃった」
「アルトもなんだ。大変だね、貴族って……」
「うん。でも、マルテちゃんは魔法を使えるんだよね? どうやって覚えたの?」
「家にあった『ミイス魔導物語』を読んで、見よう見まねで」
「……ええっ!? あれ、私もちょっと読んだけど、魔法の勉強の仕方は書いてなかったよ!? あれ、ただの伝記小説だよね!?」
「うん。でも、真似したら出来たんだ」
そう言うと、アルトは絶句した。
薄々気づいてはいたが、魔法というものはそう簡単に身につくものではないらしい。ミイス王女の物語は教科書にも載っているくらいだから、それで魔法が身につくのなら、世の中にはもっと魔法使いがあふれている。
「あっ、でも……私は知らないけど、あの人なら……」
「……誰か心当たりがあるの?」
「隣のクラスの子なんだけど。魔法が使えるって噂が……」
「本当!?」
授業が一段落し、お昼休みの時間。
私は手早く昼食を済ませ、隣のクラスを覗き込んだ。
「ほら、あの子だよ。人がいっぱい集まってる」
私と同じように壁からひょっこり顔を出しながら、アルトが言った。
「ふーん。あの子が”炎のリーン”か……」
リーン・フォン・リビスは、バーデクス領の貴族の娘だ。
アルトと年は同じで、私より2つ年上の子になる。
非常に優秀な子で、成績は年少組でもトップクラス。見た目も結構可愛いと男子に評判だ。
だが、それ以上に彼女を有名にしているのは……
「あ、あの……リーンさん」
「……あら? どなたかしら。初めて見る顔ね。アルトさん、あなたのお知り合い?」
「うん。昨日この学校に入ってきた子なの」
「私、マルテ・フォン・エルフラン。よろしくね、リーンさん」
「エルフラン? ああ、あなたがエルフラン侯爵の娘っていう……」
リーンはやや怪訝な顔をした。
だが、私はそんなことには構わなかった。
「ねえ、あなた、魔法が使えるって本当!? 炎の魔法で、竜を追っ払ったって!?」
そう聞くと、彼女は途端に上機嫌な顔になった。
「あら。昨日来たばかりで、もう知られてるなんて……私も有名になったものね」
「ねえ、私も魔法が使えるの! 良かったら、魔法のこと、教えてくれない?」
その言葉に、リーンの眉が顰められた。
「……あなたも? もしかしてあなた、魔法同盟の人?」
魔法同盟? なんだそれ。初めて聞いた。
「う、ううん、違うけど……」
リーンはフッ、と笑った。
「じゃあ、一緒に中庭に来てくださる? あなたのレベルが知りたいわ」
やった!
私はアルトと喜びあった。
魔法のことが聞ける。勉強ができる……!
私たちは中庭に出た。
周りには結構人がいる。
話を聞きつけて、年少組の子が集まってしまったらしい。
「まずは、基本から。”炎の精霊よ、顕現せよ!”」
リーンは炎の精霊を呼び出した。
三体の炎の精霊が現れ、おお、という歓声が巻き起こった。
「あなたにできるかしら? マルテさん」
「うん。”炎の精霊よ、顕現せよ!”」
私はいつも通り炎の精霊を呼び出した。
1、2、3……もっと呼んでみるか。
私は数えきれないくらいの炎の精霊を周りに飛ばして見せた。
周りの歓声に調子づいて、ちょっと呼び出しすぎたかもしれない。
「どう!? リーンさん!」
彼女は固まっていた。
あれ? 微妙だったかな。もっと大きい精霊を呼んだ方が良かったか。
「な、なかなかやるわね。じゃあ、これはどうかしら!? ”炎の柱よ、立て!!”」
中庭に赤々と燃え盛る炎の柱が出現した。
すごい、この魔法も使えるんだ!
ルゥ以外に魔法を使える子に会えたのは初めてだ。嬉しい。
よし、私も出来るところを見せないと。
「できるよ! ”炎の柱よ、立て!”」
私の炎の柱が、彼女の炎の柱を飲み込む。
校舎よりも高く、炎の柱は空に向かって伸びた。
リーンは目を見開いて空を見上げていた。
「な、なかなかやるようね……あなた……」
「うん! 炎の魔法は、比較的得意かも。土の魔法は、もっと得意なんだけど」
「えっ……? 土? 炎の属性以外も、出来るの?」
「うん。水に、風に、光に……闇属性は出来ないんだけど。あっ、でも、一つ凄いのが使えるよ! 見る?」
「え、ええ……」
私は意識を集中して魔力を練り上げた。
この前のギルギスタとの戦いで、完全にものにした。
もうルゥが居なくても使える。
「”灼熱の剣よ、切り裂け!”」
大気を勢いよく切り裂き、赤熱する鋭い剣が出現した。
やった、出来た……!
私は上機嫌だった。
久しぶりに、思いっきり魔法が使えて、気持ちいい……
どうかな。これなら、認めてもらえる?
「どう!? リーンさん!!」
私は彼女に笑いかけた。
彼女は……呆けた顔で灼熱の剣を見上げていた。
気づくと、周りのギャラリーもシーンとしている。
「え、えへへ……えへ?」
なんだか空気がおかしかった。
私は笑って誤魔化した。
翌日から、大変なことになった。




