第21話「ハイア大貴族学院」
「お、お目付け役ぅ……? ってどういうこと?」
「……この街はバーデスク領の中心、首都ハイアになります」
彼は私の質問に答えずに言った。
「エルフラン領よりもゼルン諸侯同盟領の中央に位置し、産業も学問も活発。同盟領中から有力な人物が集まってくる場所です」
「そ、それがなんなのよ……」
「あそこに見える一際大きな建物が、ハイア大貴族学院。あなたが明日から通われる学校ですよ」
「はあっ!? 学校!?」
と叫んだところで、ギルギスタにおでこをペシッ、と叩かれた。
「あいたっ!?」
「……もう少しお淑やかに。やれやれ。エルフラン侯爵からは大人しい良い子だと聞いていたのですが……猫をかぶっていましたね、これは」
「う、うるさいなぁ……でも、なんで学校? まだ早いんじゃないの?」
「通常は8歳からですが、あなたは特別です。家庭教師の先生から紹介状をいただき、学院に推薦してもらいました。もう十分に学校に行ける学力はあるとのことです」
「そ、そうなの? そっか……先生、私のこと認めてくれたんだ。給料下がれとか言っちゃって悪かったな……」
「エルフラン侯爵が少々強引に迫ってましたけどね」
「……そうだ、お父様! お父様はどうしてるの? 私の婚約は?」
「婚約は立ち消えになりましたよ。当然ですよね。あんなにパーティをめちゃくちゃにしたら。侯爵は今頃後始末で大忙しです」
ギルギスタはジロリと私を見た。
「うっ……だ、だって……私はバルダー侯爵様が危ないと思ったから、仕方なく……」
「そうですね。結果はともかく、あなたが良かれと思ってやったことはわかります。そこを咎めようとは、私は思いません。エルフラン侯爵はかなりお怒りのようでしたが」
「……で、でも! 学校に通わせてくれるってことは、私のお願いを聞いてくれたってこと!? 私、魔法の勉強ができるのかなぁ!?」
ギルギスタはフッ、と小さく笑った。
「さあ……それはどうでしょう?」
***
扉が開かれた後、空気が張り詰める感触があった。
私は緊張により体がこわばり、若干ぎくしゃくしながら中に入った。
たくさんの人が私を見ている。
うまくやれるかな……
「みなさん、今日から新しい仲間が教室に加わります。じゃ、マルテさん。ご挨拶を」
「は、はい。エルフラン領から来ました、マルテ・フォン・エルフランといいます。エルフラン侯爵の娘で、一番末の妹です。よ、よろしくお願いします」
言った後、貴族風に会釈した。
心臓が破裂しそうだ。
教室のみんなの反応は……なんか意外と薄いな。ぼけっとしている気がする。特に男性陣。
しかし、その中で一人だけ我に返ったように口を開いた者がいた。
「マ、マルテ?」
声のした方をみる。
見覚えのある人物だった。
「あ、バルツ!?」
そうか。彼もこの学校の生徒か。
ということは、彼も貴族らしい。
私たちが知り合いとわかると、周りが俄かにざわついた。
(バルツ、お前知り合いのなのかよ!)
(どこで知り合った? めちゃくちゃ可愛いじゃん)
(い、いや、昨日街で偶然会っただけだから……)
なんか声が小さくてよく聞こえないけど、私のことを話しているのはわかる。
気になるな……
「マルテさんはまだ6歳ですが、非常に優秀ということで特別に入学を認められました。みなさん、妹だと思って可愛がってあげてくださいね」
ううむ、なんかこの紹介は恥ずかしいな……
私はこのお子様たちに妹のように可愛がられるということか……実質23歳なのに……
とにもかくにも、久しぶりの学校だ。
不安もあるが、それ以上に楽しみだったりする。
どんなことやるのかな……
一時間目は算数か。
「今日はテストにします。新しい子もいるので、ちょうどいいので学力を測っておきましょう」
教師がそう告げた途端、ええー、という非難の声が教室上から巻き起こった。
私もその声の一人だ。
こういうことするんだよなぁ。
どこの世界の教師も変わらないや。
はあ。諦めて頑張りますか……
……ふむ? そんなに難しくないかな?
家庭教師の先生の出す問題のほうが難しかった気がする。
まあ、私から無理を言ってレベルの高い教科書を持ってきてもらってたしな。
この分なら、みんな楽勝かな?
「二時間目の国語の授業は、テストにします。ちょうどいい機会なので……」
ええー? またなの?
私も教室の皆もうんざりって感じだった。
結局、午前はテストしかしなかった。
そして迎えたお昼休み。
この学校は給食制らしい。
これは素直に嬉しかった。日本でも給食は好きだったし、義務教育を終えて結構経つから、久しぶりだ。どんなメニューなのかな~?
「ほうほう。焼き立てのパンに、鶏肉のクリーム煮、春野菜のソテー……」
うん。合格。
というか普通に豪華だな。当然か。貴族の学校だもんね。
食堂の席につき、食べ始めようとした時。
隣に人がやってきた。
「こんにちは。隣、いい?」
「あっ……うん」
女の子だった。
まだ覚えきれてないけど、同じ教室にいた気がする。
「大変だったね、マルテちゃん。いきなりテストなんて。難しくなかった?」
「う、うん。結構簡単だったよね。えっと、あの……」
「ああ。私、アルト。アルト・フォン・アーデルベルテ」
彼女はにこやかな笑みを浮かべて言った。
綺麗な金髪で、たれ目でおっとりした、感じのいい子だ。
私は一目で親しみを持った。
「簡単だったって、ほんと? 私たちのクラスって、年少組だけど成績優秀者の集まるクラスなんだよ。マルテちゃん、まだ6歳なんでしょ?」
「うん。でも、家庭教師の先生にはずっと難しい勉強を教えてもらってたから。平気だよ」
「まあ、すごい……ねえ、マルテちゃん。これから、ちょくちょく話しかけてもいい? 友達になろうよ」
「こ、こちらこそ! うれしい。よろしくね、アルト」
初日にして、いきなりうれしい出来事だ。
良かった。これなら新しい土地でもうまくやれるかも……
「午前のテストの結果が出たぞ。全員、心して聞くように」
いきなりか。
早くも心がくじけそうだ。
「まず、算数の結果だが……トップはマルテ・フォン・エルフラン。満点だ」
神様……お願い、ビリだけはやめて……って、え?
思わず目を瞬いた。
教室が一気に騒がしくなった。
「すごいな。マルテ君は国語も満点だ。さすがはエルフラン領を治める大貴族のご令嬢だ」
「すげー……」
「まだ6歳? 本当に?」
「かわいい」
えっ、そんな……まさかの一番?
結構簡単だと思ったんだけど……いやでも、そりゃそうか。
私、本当は23歳だもんな。
これくらい、出来て当然だよね。てへ。
「……だが、歴史と地理はビリに近い。貴族としてはこっちのほうが大事だぞ。しっかり学んでいくように」
その瞬間、賞賛の声はクスクスという含み笑いの声に変わった。
私は全身から火が吹き出しそうになった。
そ、そんなこと……みんなの前で言うことないじゃない。
やっぱり、教師って嫌い!!




