第18話「VS魔法使い」
思わぬお父様からの提案。
私の願いをかなえてもいいという。その条件は……
「このギルギスタを、お前の魔法で倒して見せろ」
お父様が示したのは、銀髪の青年だった。
初めて見かけた時から不思議な印象だったが……
お父様がこう言うということは、彼も魔法使いなのだろう。
「倒す? 倒すって……」
「なんでもいい。気絶させても、眠らせても、殺しても」
「こ、殺す? それはちょっと……」
「安心しろ。お前程度では絶対にそんなことは出来ん。そうだな、ギルギスタ?」
お父様の問いに、ギルギスタという青年はフッと笑った。
「もちろん。それより、私は……お嬢様を攻撃してもよろしいのですか?」
「ああ。適度にわからせてやってくれ」
「承知しました」
彼らは頷きあった。
その様子を見て、私は……徐々に頭に血が昇っていった。
さっきから聞いていれば、お父様もこの人も……私を随分安く見ているようだ。
ちょっと、それは舐めてるんじゃないの……
これでも私、魔法で命を懸けて戦ったことがあるんだからね……
痛い目見ても、知らないから……
怒りに感情を昂らせながらも、魔力は冷静に引きずり出していく。
空気中に魔力の奔流ができ、練り上げられ……
「”風の刃よ、刻め!!”」
解き放った。
真空の刃は空気を切り裂きながら青年へと向かう。
先程の刺客と同じ魔法だが、私の方は魔力の質的にさらに高められている。
水の盾程度では防げないはずだ。
このままいけば、風の刃は確実に青年を切り刻むだろう。
だが、青年は涼しい顔をしたままだ。
まさか、何もしないで受けるつもりなの――?
風の刃が当たると思われた直前、青年は僅かに右手の指を一本立てた。
「”風よ”」
ただ、一言。
呪文にもなっていない言葉。
それだけのはずなのに、私の放った風の刃は、急速に勢いを失い、ただのそよ風となって青年の髪をなでた。
「えっ……!?」
そんな馬鹿な。
間違いなく魔法は成功していた。そのはずなのに……
「”……炎の柱よ”」
もう、いい。
構うものか。今のは私が手加減していたせいだ。
全力でやってやる。
この部屋ごと、焼き尽くしても構わない。
……どうなっても、知らないからね!!
「”立て!!”」
ゴウ、と音を立てながら、炎の柱が青年の足元から立つ。
そのまま炎は青年を飲み込んで――
「”炎よ”」
渦を巻いた炎が、青年の手に吸い込まれていく。
私が作り出した炎は、数舜後には小さな炎の精霊となって、彼の手の中に納まっていた。
「……な、なんで!?」
こんな、こんなことって……
だって、確かに私は……
そこでハッとした。
以前も、こんなことがあった。
洞穴の主のゴブリン。奴と戦った時も、似たようなことをされたのだ。
これは一体……!?
私の知らない、魔法の使い方……!?
「……この程度ですか」
その時、私は確かに見た。
青年が、落胆するような表情をしたのを。
……許せない。
私はこれまで、誰にも教わることなく、ここまでやってきたのだ。
その努力を、時間を……バカにされたままで、終われるか。
「”……灼熱の剣よ”」
ありったけ。
私の持てる魔力、全てを一回の魔法に込める。
ルゥの体を通してしか成功したことのない合成魔法。
それを自らの体内で練り上げる。
できる。やってやる……!!
「”……きりさ”」
放とうとした瞬間。
目の前にいたはずの青年が、消えていた。
どこだ、と思った時には、耳元で囁かれた。
「いけない子だ」
「いつの間に……!!」
まだ間に合う。
コイツに向けて、魔法を……!!
「”時よ、凍り付け”」
「うっ!?」
私の体の中を、青年の魔力が駆け抜ける感触があった。
それが分かった時には、私の意識は……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
青年の腕の中に、静かに眠る少女の姿があった。
手と足が力なく揺れており、完全に意識を失っている。
「世話をかけるな、ギルギスタ」
「いえ、お気になさらず。エルフラン侯爵」
エルフラン侯爵がゆっくりと近づく。
眠る少女を見る。
彼は小さく息を吐くと、眠る少女の頭を優しく撫でた。
「どうだった? 私の娘……マルテは」
「荒いですね。魔力の練り方も、魔法の選択も。まだまだひよっこですらありません」
エルフラン侯爵は小さく笑った。
「手厳しいな。父親の前でそこまで言うか?」
「申し訳ありません。魔法の事では嘘は言わないようにしているんです。しかし、彼女は粗削りではありますが……」
「が?」
「最後の魔法は、目を見張るものがありました。流石にあれほどの魔力となると、私も一概に封じることは出来ません。結果、黙らせるのに少々手荒な手段を取ってしまいました」
「ほう……では、見込みはあるのかね?」
「最後の魔法が成功していれば、既に”術師”級の使い手と言えるでしょう。それ以上は……努力次第ですね」
「はっはっは……そうでなくては、私も立つ瀬がないな」
「彼女の事は、お任せください」
「うむ。娘の事……よろしく頼む。”導師”ギルギスタ・レーン」




