表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/34

第17話「修羅場」

 思わぬところで、お父様と遭遇してしまった。

 私はしばし言葉を失ってしまった。


「……全く、仕様がない子だな。逃げ出してきたのか?」


「ち、違う、お父様……あっ!」


 弁解する間もなく、ひょい、と担ぎ上げられてしまった。

 そのまま会場に向かって運ばれてしまう。


「……お前が婚約に後ろ向きなのはわかっている。だが、これは家同士の決め事なのだ。賢いお前なら、わかるだろう?」


「ちが、違うの、お父様……!! 怪しい奴が、上に……」


「聞き分けなさい、マルテ。お前もいつまでも子供ではないのだ」


 取り付く島もない。

 会場に入ると、お父様は扉の近くにいる衛兵に言った。


「この子が、勝手に外に出ないように気を付けてくれ」


「はっ!」


「あ、あの! 聞いて! 上に、怪しい人がいるの! 侯爵様を狙ってるの!」


「ほら、こうやって抜け出そうとするんだ。騙されないようにな」


「お任せを」


 ダメだ。子供の戯言だと思って聞いてもらえない。

 どうしたら、どうしたら……!!


 怪しい声の主は、日が落ちる頃と言っていた。

 もう、外は暗くなりかけている。

 時間が……


「ええー、皆さん。今宵のパーティも終わりの時間が近づいてまいりました……」


 や、やばい!!

 バルダー侯爵、もうスピーチ始めてる!!

 壇上に立ってる!!


 もう、こうなったら……!!

 私は彼の元へ駆けだした。

 彼なら、私の話を聴いてくれるかも……!!


「ダン君!!」


「え、ええ? マルテ?」


 壇上のバルダー侯爵を見つめる、ダンの元へと駆け寄った。


「どうしたんだい? 血相変えて……」


「君のお父さん!! 誰かに狙われてる!! どういう方法か分からないけど、スピーチの途中で殺される!!」


「ええ? そんな、父上は恨みを買うようなことなんて……」


「貴族なら、そんなもんなくても狙われることくらいあるでしょ!! ぼやぼやしてないで、お父さんを止めに行きなさい! 私の言う事が聴けないの!?」


「……! わ、わかった」


 ダンは父の元へと駆けて行った。

 あとは……どこから襲撃があるか……

 私はあたりを見回した。


 ……ない、ない……!! 一体どこからバルダー侯爵を攻撃するの!?

 ええい、よく考えろマルテ、確か声はこう言っていた。


”仕掛けは既に整っている。後は時を待つだけだ……”


 仕掛け。既に準備できている……

 私は壇上の、更にその上を見た。そして、気付いた。


 何かあると知らなければ分からない、ほんのわずかの亀裂が……

 今まさに、天井に備え付けられた、照明が落ちようとしていた。


「危ない!! ダン君!!」


「え」


 彼がこちらを振り向いた。

 ダン君は、バルダー侯爵と共にいる。

 彼は仕掛けの真下にいる。


 私の声で、何が起きているか、彼にもわかったようだ。

 だが、もう間に合わない。

 会場中に悲鳴が響き渡る。

 巨大な照明が、彼を下敷きに――


「”大地の剣よ、切り裂け!!”」


 咄嗟に放った。

 私が使える中で、最も速く、強い魔法を。

 地面から飛び出した巨大な剣は、無力な親子を守る盾となった。


 照明が落ち、轟音と共に鋭利なガラスの刃をまき散らす。

 だが、その全ては、私の大地の剣が防いでいた。


 ダンたちの元にたどり着き、襲撃のあった方角を睨みつける。

 そこに、いた。

 陰に隠れるように、黒い装束を纏った二人の刺客が。


「チッ!! ”風の刃よ、刻め!!”」


 魔法。

 暗殺が失敗したので、直接的な手段に打って出たか。

 でも、この程度の魔法なら……!!


「”水の盾よ、護れ!!”」


 風の刃では切り裂けない、分厚い水のカーテンを作る。

 不可視の刃が水の盾に到達すると、しぶきを上げながら消滅した。


 刺客はそれを見て追撃を諦めたようだった。

 逃げ出そうとしているのが見える。

 どうする? 追うべきか……?


「マルテ、やめなさい!! ギルギスタ、追え!!」


 お父様の声に、弾かれたように会場を見る。

 銀の髪に長身の青年が、矢のように飛び出していった。


(あの人は、私を見ていた男の人……お父様の息のかかった人だったのね)


 ホッと息をつく。

 一先ず、暗殺は防げたようだ。

 良かった……


「ま、マルテ……」


 ふと足元を見ると、腰を抜かして尻餅をついたダンがいた。

 彼は呆然と私を見ていた。

 そこで気付く。

 彼だけではない。会場にいる誰もが、私を注視していた。

 水を打ったような静けさだったのが、徐々にざわつきだす。


「い、今のは……バルダー侯爵の、暗殺……?」


「侯爵をお守りしたのは……もしかして、エルフラン家の御令嬢?」


「魔法を使っていましたよ……あんな小さな子供が」


 私は、少しずつ嫌な予感がしてきた。

 それというのも……私を見るお父様の顔が、どんどん険しくなっていくのが見えたからだ……



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 会場は騒然としたまま、パーティはお開きとなった。

 招待客が続々と帰っていく中、私はバルダー家のお屋敷の一室に残っている。

 私の前には、鋭い眼光で私を睨むお父様がいた。


「どういうことなんだ、これは」


「ど、どういうことって……」


 それは言ったじゃん。怪しい奴がバルダー侯爵を狙ってるって。


「バルダー侯爵の身が危なかったら、私が助けた?」


「そういうことを言ってるんじゃない」


 じゃあ、どういうことよ……

 私が、魔法を使えるって事?


「え、えーと。私ってば、ちょっと魔法の才能があるみたい。だから咄嗟に魔法で助けちゃった」


「なぜ魔法を使えることを隠していたんだ」


「そ、それは……お父様に、止められるかなって……」


「当り前だ! お前はエルフラン家の娘なんだぞ! そんな危ないことをさせられるか!」


「どうして!? 今日のことだって、私がいなきゃバルダー侯爵が危なかったんだよ!?」


「お前が居なくとも、ギルギスタがいれば助けられた! むしろ、お前の魔法が間違ってバルダー侯爵に当たっていたかもしれんぞ!?」


「私、そんなヘマしない!! そこら辺の大人より、私の方が魔法を使えるんだから! ギルギスタって人だって、ギリギリまで気付いてなかったでしょ!?」


 互いに激高し、息をするのも忘れて思いをぶつけ合った。

 息を付けるため、一時の静寂が訪れる。

 呼吸が整った後、幾分冷静になり、ゆっくりと口を開く。


「……お父様。私、今は婚約なんてしたくない。魔法の学校に通って、魔法使いとして一人前になりたいの」


 胸に手を当て、静かに訴える。

 怒りではなく、本心から。

 初めて己の想いを、お父様に伝えた。


 互いの視線が交錯する。

 お父様はジッと私を見ている。

 その時、静かに扉が開いた。


「……ギルギスタ」


 先程の、銀髪の青年だった。


「賊は捕らえました。既に衛兵に引き渡してあります。……恐らく、帝国の間者かと」


「そうか」


 お父様は青年を見つめた後、ゆっくりと私に向き直った。


「……マルテ。お前の願いを聞いてやってもいい」


「え?」


 意外な言葉だった。

 願いを聞く? それは……私を、魔法の学校に行かせてくれるってこと?


「ただし、条件がある。このギルギスタを、お前の魔法で倒して見せろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ