第15話「パーティ」
「うわっ、おっきい……お城みたい!」
私は感嘆の声を上げた。
目の前には、家というより、城といった方がいい建物がある。
これがバルダー家のお屋敷なのか。
「バルダー領は帝国との境目にある、国の要衝だからな。その役割も重要なのだ。農地の多い我がエルフラン領よりも、収入は多いかもしれない」
「へええ……」
なんだかよくわかんないけど、すごい家ってことだ。
そういえばこの世界のことってまだ全然知らないな。魔法のことばかりじゃなくて、そういうことも勉強したほうがいいかなぁ。
「さ、私の手をとって。堂々と乗り込もう」
「は、はい。お父様」
緊張してきた。
考えてみれば、こんなに遠出するなんて初めてだ。
しかも、パーティだって。貴族のお歴々がたくさんいるに違いない。
うう~、会いたくない。
華やかな廊下を進むと、徐々に人の数が増えてくる。
通りすがりに、私のことを見る人たち。口々に何かささやいているのが聞こえる。何を言ってるんだろう……
そして私とお父様は、パーティの会場と思しき大広間にたどり着いた。
「うわああああ……」
すごい、キラキラだ。
こんなすごい会場、初めて見るかも……
あれだ。ディズニーのお姫様が出てくる映画とかで見るやつだ。
少し、胸が高鳴っていた。
もしかして、バルダー家って本当にすごい?
「やあ、エルフラン侯爵。お久しぶりです」
「これはどうも、レーン侯爵。ご無沙汰しております」
お父様が誰かと握手している。
その相手は、視線をおろすと、何かに気付いたように目を見開いた。
「侯爵、この子はもしかして……」
「はい。うちの娘です。マルテ、挨拶して」
「は、はい……マルテ・フォン・エルフランです。初めまして」
と、若干ぎこちないが、丁寧に挨拶した。
「おお! この子が例の……いや、これは思った以上の子が来たな。これはバルダー侯爵の御子息もさぞ……」
例の……ってなんだ。「思った以上」ってなんだ。
褒められてんだか、どうなんだか。
大体、バルダー家の御子息が何だって? 一々気になるな。
「まあ、エルフラン侯爵。お久しぶりですわ。この子は……?」
また別の人がやってきた。
丁寧にお辞儀をすると、その人の顔が輝いた。
「わあー、可愛い! 小さい子なのに、良くできてるわねー!」
と、私のことは割と好評のようだ。
次々と人がやってくる。
(つ、疲れる……! これが、貴族の世界……ああ~、幼いころから教育されているとはいえ、元一般市民の私には辛い……!)
機械的に挨拶を繰り返す私。
早くも疲労困憊になって来た時。
ふと……妙な気配を感じた。
(あれ……? なんだろうこの感じ。……どことなく、西の森の洞穴に入った時と似ているような……)
気配は、パーティ会場の奥から来ているように感じた。
私はそちらを見た。
すると……
(……見てる)
こちらをじっと見ている人がいた。
その人は、私と目が合うと、すぐに視線を逸らして人混みに紛れた。
(銀の髪に、長身の男の人……)
知らない人だった。
だが、姿が消えた後も、妙にその人物の事が気になった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はああ~……」
一通りの挨拶を終え、私はため息と共に椅子に腰かけた。
「こら。はしたないぞ、マルテ」
「だって、お父様~……パーティ、とっても疲れるんだもん……」
「そう言うな。これでも、主役に比べればずっと楽な方だ。今の内から慣れておかないでどうする」
「でも、ここに来てから挨拶ばっかり……いつになったら終わるの?」
「主役が登場するまでさ。……ほら、そろそろ出番のようだぞ」
「えっ?」
私は顔を上げた。
会場の視線が一点に集まっている。
一際身なりの良い人物が、壇上に立っている。
「紳士淑女の皆さま、本日はよくお集まりいただきました。本日は我が息子、ダン・フォン・バルダーが8歳を迎える記念日です。これより、ダンの誕生日を祝福するパーティの開幕を宣言します」
盛大な拍手が巻き起こる。
今の発言からすると、あの人がバルダー侯爵か。
「それでは今日の主役、我が息子を紹介します。ダン、前に出て」
ドキリとした。
いよいよ現れる。
おそらく、私の婚約相手となる人が。
以前絵を見たときは、太っちょの男の子だったが……
あれから一年ほど経過している。
月日がたてば、人も変わる。
ましてや、私たちは伸び盛りの子供なのだ。見た目が大きく変わっていてもおかしくない。
これだけの屋敷に、これだけのパーティ。
肩書だけ見れば、とてつもない貴公子だ。私よりも格上と言って良い。
否が応でも期待は高まる。
その姿は、果たして――
「本日はお集まりいただきありがとうございます! 私はバルダー侯爵が三男、ダン・フォン・バルダーであります! 皆様に祝福していただき、私は幸せです!」
堂々とした名乗りだった。
会場の全員が拍手をして祝う中……私は淑女にあるまじき大きさで口を開けてダン・フォン・バルダーを見つめていた。
彼は大きく様変わりしていた。
縦ではなく、横に。
わずかに伸びている身長に対して、横は倍以上伸びている。
つまり、小太りがスーパーデブに変わっている。
……ふざけんな。あの頃より、なんでさらに太ってるのよ!!




