第13話「縁談、再び」
「ふあ~あ」
「なんですかマルテお嬢様。その大きな欠伸は。はしたないですよ」
「別にい……」
先生がため息をつき、かぶりを振った。
ルゥが去って数か月。私は年を一つ取り、この体になって6年、前世から数えれば23歳になった時。
私は幼児とは思えないほど、やさぐれていた。
勉強には身が入らず、本を読むのも投げやり。
家族の前では一応平静を装っているけど、笑うことは少なくなったと思う。
そして読み書きの先生の前では、あからさまに態度が悪くなった。
「マルテお嬢様……そんなにショックだったのですか? その、近所のお友達のこと」
「別にい……」
「仕方ありませんよ。そこらの木っ端貴族ならいざ知らず、お嬢様はエルフラン家のご令嬢ですからね。たとえ家督の相続には関わらなくとも、おいそれとそこらの馬の骨に嫁に出すことなんてありませんよ」
「別に嫁になんて行くわけじゃないし……ただの友達だし……私だって何の役にも立たない末妹だし……」
「はあ。よっぽど好きだったんですねえ、その子のこと」
「ち、違うし!! あいつは初めての友達で、私の、まほ……もう、先生のバカ! バカバカバカ!! 教えるのへたくそ!! 給料下がれ!!」
「え、ええええええ!?」
あいつが好きだったって?
ふん、バカじゃないの。私は23歳の大人。それに対して、あいつは7歳か8歳のちんちくりんの子供。釣り合うわけがない。結婚なんて、こっちからお断りだ。
”あーらら。後悔してもしらないよ”
私の中のミイス王女が笑った気がする。
なんか腹立つ。
……とにかく!! もう、しばらく男のことは考えたくない!!
今は魔法に集中する!! 見てろよ、あいつなんて足元にも及ばない使い手になってやるんだから……!!
「”闇の精霊よ、顕現せよ!!”」
部屋で一人、魔法の練習を続ける。
しかし、熱意とは裏腹に、結果は出ない。
最後に習得した魔法は、”風の刃”。それから、新しい魔法は一切身についていなかった。
どうやら、完全にスランプのようだ。
「はぁ。ミイス王女はこういうとき、どうしてたのかなぁ……」
ごろりと横になり、本を開く。
読んでいるのは、”ミイス魔導物語・第二巻・秘密の書”だ。
この前ルゥの力を借りてではあるが、ようやく”灼熱の剣”を習得し、読み進めることができた。
このころのミイス王女といったら、完全に王家を手玉に取っており、城を抜け出すのも日常茶飯事となっていた。
そんなことが知れれば大問題になりそうだが、そこも彼女は魔法で解決した。
風と土の合成魔法、”木霊の風”で自分の声を部屋に残したり、風と水の合成魔法、”隠者の風”で姿を消したり……本当にやりたい放題だ。
「うらやましいなぁ。当たり前みたいに合成魔法を使ってる」
私はルゥの体を借りて、ようやく一つの合成魔法だ。
もちろん、”木霊の風”も”隠者の風”も試してはいるが、いまだに成功していない。
はぁ。読んでいる限り、ミイス王女はスランプに陥った様子はない。私はどうすればいいんだか……
”ちょっと、別の方向で進めてみたら? もう一度前の魔法をおさらいしてみるとか”
ふと、ルゥの言葉を思い出した。
そういえば、彼にできて私にできなかったことがある。
風の精霊を使って、周囲の様子を探る……だったか。
認めたくないことだが、魔力の質と量は私が上でも、魔力の制御は彼のほうが上手らしい。この機会に、私も……魔力の制御の練習をしてみるべきか。
「よしっ」
がばっと起き上がり、胡坐を組む。
「”風の精霊よ、顕現せよ”」
風の精霊を、とりあえず三体呼び出した。
それらを周囲に浮かべる。
目を閉じ、意識を集中する。
……目を閉じても、風の精霊の場所はわかる。
彼らと私の間には、魔力的な繋がりがあるからだ。
私からコードのようなものが延び、彼らに魔力を供給し続けることで、精霊は顕現している。
彼らを、もっと深く意識する。
そう、例えば……彼らが、まるで私の体の一部のように。
精霊には、目がある。耳がある。鼻がある。
……聞こえる。彼らを通して、周囲のざわめきが。空気の流れが。
私は、精霊と深くつながっている……
「マルテ、入っていいか?」
「は、はい! お父様?」
急速に現実に引き戻される。
あわてて風の精霊たちを消した。
お父様が部屋に入ってきた。
「読書中、すまんな。急いで知らせたいことがあって」
「え? な、なんでしょう」
お父様はベッドのそばの椅子に腰かけた。
彼はじっくりと私を見た。
「……お前が生まれて、もう6年か」
「な、なに? 改まって……」
「いや、ずいぶん大人になったと思ってな……」
私はぷっ、と噴出した。
「何言ってるの? 私はまだ6歳だよ? まだまだ全然子供」
「いやあ、確かに年はまだ幼いが……お前は言葉も達者で、思考も大人びて見える。それになにより、マリアに似て美しいしな」
「えええ? 何急に、お父様、そんな……照れるよ」
私がもじもじしていると、お父様はニカッと笑った。
「お前を外の人間に見せるのも、そろそろいい頃合いかもしれないな」
「……え?」
嫌な予感がした。
「隣の領地のバルダー侯爵家というのがあるんだけどな」
「は、はい……」
「そこの三男が、今度誕生日を迎えるそうで、大々的にパーティを開くんだ。そこで、お前を紹介しようと思う」
「は……」
いいいいいいいいいいいいいいいいい!?




