第11話「発覚」
「”灼熱の剣よ、切り裂け!!”」
呪文を唱える。
地面から伸びた赤い剣は、木を切断するかに見えたが……直前で、にょろんと萎えた。
「あれー? もう少しなのにな……」
あれから一か月。
私たちはいつものように魔法の修業をしていた。
あの時成功した合成魔法は、私の中に確かな手ごたえをもたらした。
間違いなくあと一息、というところまで来ている。
「惜しかったね、今の魔法。本当にあと少しで成功するところだった」
ルゥが私にほほ笑む。
変化があったのは私だけではない。いや、むしろ……ルゥのほうが大きいのではないだろうか。
彼はあっという間に、”炎の柱”、”大地の剣”、”水の盾”をマスターした。
それだけではない。
「”闇の精霊よ、顕現せよ”」
彼の手に、影のような球体が現れる。
私が知る限り、”ミイス魔導物語”にもまだ出てきていない魔法だ。
それを彼は、あの時戦ったゴブリンから、学び取って見せたのだ。
「悔しい……私は出来ないのに……」
そうなのだ。
無論、私もやってみた。
だが、どれだけ練習しても、闇の精霊を作り出すことは出来なかった。
私は初めて、彼に魔法で負けてしまった。
「でも、マルテも”風の刃”を覚えたじゃない。僕はまだ使えないよ?」
「そうだけど……そうだけど!」
なんか、もやもやする。私の方が先生なのに。お姉さんなのに。
いや、マルテの体の年齢は、彼より若いんだけど……
「あーんもう、またルゥの体貸して!」
「うわああっ!?」
彼の体に飛びついた。
お腹に顔をうずめる。
日向の匂いがする。
彼の体に触れながら、私と彼の間を行き来する、魔力の道をイメージする。
循環している。
私の魔力が彼へと流れ、少し形を変え、私のところに戻り……
手にした魔力の形は、私の望んだ形になっていた。
「”灼熱の剣よ、切り裂け”」
地面から赤い刃が噴出し、一閃する。
大木は、大きな音を立てながら倒れた。
***
「た、ただいまー……」
その日、私はいつもより神妙に帰宅を告げた。
既に辺りには夜のとばりがおりかけている。
魔法の練習に夢中になりすぎ、時間を忘れてしまった。
この頃は、日の落ちる時間も早い。
子供が帰る時間ではない。
「マルテちゃん! どうしてこんなに帰りが遅くなったの? 心配するでしょう!」
「う……ご、ごめんなさい」
やっぱり怒られた。
外に出たほうが心配されないと思ってやっていたが、やりすぎてしまったらしい。確かに、領主のお嬢様が、少々わんぱく過ぎたか……
私がシュンとしていると、お母様は仕様がないわね、と私の頭を撫でた。
それで終わりだと思った。
……だが、追及はそれだけでは終わらなかった。
「マルテ、ちょっとこっちにきなさい」
翌日、昼食の後、お父様が私を呼び止めた。
「昨日のこと、マリアから聞いたよ」
どきりとした。
私は思わず居住まいをただした。
「は、はい。心配かけて、反省しています……」
「うむ」
お父様は黙って私を見ている。
……え? なに? まだ何かあるの?
沈黙が怖い。
「……マルテ。何か私たちに隠し事をしていないか?」
「えっ」
虚を突かれた。
そのせいで、大げさに反応してしまった気がする。
まずい。これは何かを隠していると言っているようなものだ。
「……何か隠しているんだな。私に話してみなさい」
「う……」
お父様の目つきが鋭くなる。
ど、どうしよう。い、言わなきゃダメ? 魔法の練習してること……
止められないかな? でも、でも……いずれは言うつもりだったし……
私がもごもごしていると、お父様はため息を一つついた。
「……お前が領地の子供と仲良くしていることは知っている。その子が”獣の因子”を発現していることも」
「……え?」
思わぬところに話は転がった。
私は魔法のことを追及されていると思っていたのだが、お父様が考えていたのは別のことだった。
「いいか、お前は貴族の娘なんだ。それもここ一帯の領地を治める、エルフラン家の娘だ。それが、軽々しく平民の子供と接してはいけないこと、お前はわかるね?」
「え、でも、でもお父様……ルゥは、私の初めての友達で……」
「お前にふさわしい友達は、これからいくらでも用意してやれる。だから彼と付き合うのはやめにしなさい」
「そ、そんな……誰がふさわしいかなんて、どうしてお父様が決めるの……? 私には、私の思いが」
「お前が貴族の娘だからだ」
有無を言わさぬお父様の剣幕に、私の言葉はさえぎられた。
私は二の句が継げず、黙り込んでしまった。
「……明日、お別れを言いに行きなさい。既に向こうの家とは話をつけてある」




