賢者の妹は、こうして怪盗をすることになった
『「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品、
「俺の妹は、誰かの心も盗んだ模様…」の、妹視点です。
私の名前はエレイン・アンブローズ。
アンブローズ家は代々賢者の称号を受け継ぐ家系で、その血を引いている私も生まれながらに魔術師の資質が高かった。「ただの小娘が生意気な」と言わんばかりの嫉妬まじりの視線を時折投げかけられたりもするけれど、そういうのは無視するに限るわ。
魔術の基礎を教えてくれたのがこの国の賢者でもあるエリファスお兄様なので、恵まれている環境なのは事実だけど、家柄が良いからって胡座をかいてるわけじゃないし。
だから高度な魔術の勉強をしたいと思い、魔術専門学校へ行きたいと考えたこともあったわ。だけど、アンブローズ家の娘なので人脈作りや社交も兼ねてこの国の寄宿学校に行かないわけにもいかないらしく、昨年の秋に入学して友達も出来た。
友達の一人のアリスには婚約者がいて、最近急に心変わりしたのか、その婚約者はアリスに冷たく当たるようになったみたい。そのせいでアリスは気の毒なほど憔悴していて。
だからアリスの婚約者に何が起こったのか気になって、一つ年上の甥──複雑だけどお兄様の息子よ──のアレイスターに協力してもらい調べてみたら、アレイスターの同級生のヴィヴィアンという女生徒にぞっこんらしかった。
伝聞だけじゃ判断できないので、ヴィヴィアンがどんな人なのか直接見てみたら真っ黒だった。
何が真っ黒なのかと聞かれても説明が難しいのだけど、呪いを発する何かを身につけているような雰囲気、といえばわかるかしら。
身を守る護符とは違う、黒い靄を出す何かがアリスの婚約者にまとわりついているのが見えて驚いたのだけど、アレイスターにも当然見えてると思っていたら全く見えてなかったらしくて、私が靄のことを話したらアレイスターにも視えるようになったみたい。
その後、ヴィヴィアンを観察していたら彼女が身につけている懐中時計から黒い靄が出ていることがわかった。
懐中時計の黒い靄に気付いた頃にはアリスの婚約者だけじゃなく、他の男子生徒数人もヴィヴィアンの虜になっていて、みんなその事に気付いて無いから、アレイスターと一緒にゾッとしたわ。
そのまま放置したらまずい気がしたから、盗むのは良くない事だけど、アレイスターとあの懐中時計を盗んで壊すことにした。
ちょうど学校主催の仮面舞踏会があるからそれを利用して、私達は怪盗として予告状を出し、計画を決行することにしたのだけど、まさかあんな事になるなんて思わなかったわ──。
賢者の妹と甥(賢者の息子)は予告状を出して計画を実行するのですが、その時仮面舞踏会の警備をしていたのが非番だったOBの騎士団長殿でした。