5話 不良生徒を更生させようとしたら、告白された
「……冗談はやめろ」
「冗談じゃねえよ」
「だって……ありえないだろ?」
生徒に告白されるって、どこの少女漫画だ?
そんなこと、あるわけがない。
「ありえないなんて、どうしてそんなこと思うんだよ?」
「惚れる理由がない。俺は猫を助けて、天塚を励ましただけだ。ただ、それだけだ」
「だから、それが理由なんだよ」
さらに天塚が距離を縮める。
ホント、もう、唇が重なってしまいそうだ……
「あたし、ホントにうれしかったんだ……先生に優しくされて、あんなの、初めてだったから……あとはもう、びび、って来たんだよ」
「なんだ、それは?」
「んー……一目惚れ? みたいな」
「そんな安直な……」
「安直言うなし。それでくっついて、結婚までいくカップル、世の中にはたくさんいるぜ? そいつらを否定するのか、先生は」
「うぐ」
こういう時だけ、口が達者になって……
どこの誰に似たんだ?
天塚の両親だろうか?
……一瞬、天塚が三人になったところを想像して、目眩がした。
「好きだ! あたしと付き合ってくれ!」
「却下だ」
「なんで!?」
「教師が生徒と付き合えるわけないだろ」
「いいじゃん。あたしは気にしないぜ? 父さんと母さんも気にしないと思うし、むしろ、応援してくれると思うぞ」
「あのな……そういう問題じゃなくて、世間体の問題で……」
「好きな男女が付き合う、それの何が悪いんだ?」
「そう言われると困るが……そもそも、俺は天塚が好きなわけじゃない」
「そう……なのか」
しゅん、と肩を落とす天塚。
雨に濡れた子犬のような顔をして……
その顔やめてくれ、反則だろ。
「あたし、先生の好みじゃないのか……?」
「好みとか、そういうのは特にないが……」
「なら、生徒だから……?」
「それもあるが……それ以上に、俺は天塚のことをよく知らない。学校の手を焼かせる面倒な不良、っていう程度の認識だ。そして、天塚も俺のことをよく知らないだろう? 教師としての顔だけで、プライベートは何をしているかとか、まったくわからないわけだ。そんな状態で付き合っても、破局する未来しか見えないよ」
「……そっか、それもそうだな」
「納得してくれたか」
「なら、まずはあたしと先生、互いに互いを知るところから始めればいいんじゃないか!?」
ぜんぜん納得してなかった。
まったく凹むことのないガッツは大したものだが……
その情熱、どこか別の方向に活かせないのか?
「な? まずは、試しに付き合ってみようぜ。それでダメなら仕方ない。そん時は、あたしも諦めるからさ……な、いいだろ?」
「そんなことを言われてもな……」
こちらが難色を示し続けると、天塚は考えるような仕草を取る。
ややあって、何か閃いたらしく、ニヤリと笑う。
「先生、あたしを更生させたいんだよな?」
「ん? あ、ああ……まあ、そうだな」
「なら、あたしと付き合うことは、先生にもメリットのある話だぜ」
「どうしてそうなるんだ?」
「恋人の言うことなら、聞くかもしれないだろ? あたし、先生が恋人になれば、うまく更生できる気がするんだ。他にも、付き合えば一緒にいる機会が増えて、あたしを更生させられるチャンスも増えるぜ? あと、恋愛に情熱を傾ければ、不良をやめるかもしれねえし……ほら、メリットがたくさんだ」
「ぐっ……そうきたか」
予想外の攻撃に、思わずたじろいでしまう。
確かに、天塚の提案は魅力的だ。
どう更生させればいいのか?
その手段が思い浮かばなかった俺にとって、魅力的な案だ。
しかし、だからといって、生徒と付き合うなんて……
「やっぱ……ダメか?」
迷う俺を見て、天塚がしゅんとなる。
「自分でもわかってるんだ、無茶言ってる、って。でもさ、あたし、こんな気持ちになるの初めてだから、どうしても先生と付き合いたくて……だから、無茶苦茶言って……先生を困らせてるのはわかるんだけど、どうしようもなくてさ……」
ここでしおらしくなるなんて卑怯だ。
「まずは、試しでもいいからさ……あたし、先生と付き合いたい……」
「……あーもうっ!」
こんなバカなこと、受け入れられない。
更生させるために、お試しとはいえ生徒と付き合うなんて、ありえない。
そのはずなのに……
「……あくまでも、お試しだからな?」
「あっ……そ、それじゃあ!」
「あと、俺は天塚の更生が一番の目的だ。そのために、お前の気持ちを利用するわけだ。それでもいいのか?」
「うんっ、うんっ! ぜんぜんかまわねえよ!」
「負けたよ、お前には」
「じゃあ……!」
「いいよ、付き合おう」
「っーーー!!! 先生っ!!!!!」
「おわっ!?」
がばっ、と天塚が勢い良く胸に飛び込んできた。
そのまま、スリスリと頬を寄せる。
「先生っ、先生っ、先生っ! あたし、すごくうれしいよ! めっちゃ、最高だ!」
「日本語が若干怪しくなってるぞ」
「それくらいうれしいんだよ!」
「まったく……こんな俺のどこがいいんだか」
「全部に決まってるだろ。先生の全部、あたしは好きだ♪」
……やばい。
不覚にも、今のはドキドキしてしまった。
「えへへ、先生♪」
ゴロゴロと猫のように甘える天塚は、正直なところ、かわいい。
不良ではあるものの、その容姿は抜群で、スタイルもよくて……彼女としては、文句のつけようがない。
生徒と教師、という問題は残っているけどな。
「先生……これ、夢じゃないよな?」
「ああ、現実だ」
「そっか……えへへ♪」
奇妙な関係ではあるものの……
この日、俺と天塚は恋人になった。
・予告 次回でおもいきりデレます。
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