表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/44

44話 そして、恋人に……

 ぽかんとする色羽。

 意識が飛んでいるのか、瞳の焦点が合っていない。


「色羽?」


 目の前で手をヒラヒラと振ると、びくっ、と反応があった。


 色羽が俺を見る。

 信じられないものを目撃したような感じで、すごく驚いていて……

 おかしいな? という様子で、目をごしごしと擦る。


「あれ? なんだろ……今、千歳がとんでもないことを言ったような……あたし、耳がおかしくなっちゃったのかな?」

「耳がおかしいなら、なんで目を擦るんだ?」

「そ、そうだよね……なんか、動揺してて……だって、千歳があたしのこと好きっていう幻聴が聞こえるんだもん」

「幻聴じゃないぞ? 俺は、色羽のことが好きだ」

「っ!?」

「今までは試し、っていうことだったが……それは終わりにして、正式に色羽と付き合いたい」

「……」


 再び、ぽかんとなる色羽。

 ほどなくして、目を擦り……


「って、無限ループか」

「はっ!?」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫……うん、大丈夫。あたしは平気だよ……いつも通り、へっちゃらだよ」

「ぜんぜん平気じゃなさそうだな……」

「だ、だって千歳が……とんでもないことを……すごいことを……」


 色羽の瞳が揺れる。


 不安。

 期待。

 驚き。


 色々な感情が混ざり合い、なんともいえない複雑な色が浮かび上がる。


「千歳が……あたしを好き?」

「ああ、好きだ」

「教師がー、生徒がー、とか言ってたのに……?」

「普通、言うだろう……まあ、そういう気持ちはまだ消えたわけじゃない。ただ、今は、それ以上に、色羽のことが好きになったんだ」

「そ、そうなんだ……千歳が、あたしのことを……」


 色羽がうつむいて、顔ごと視線を逸らした。


 どうしたんだ?

 てっきり、喜んでくれると思っていたんだが……


 予想外の反応に戸惑ってしまう。


「もしかして……迷惑だったか?」

「え?」

「やっぱり気が変わったとか……」

「そ、そんなことないよっ!」


 色羽が顔を上げて、強い口調で言う。

 ただ、俺と目が合うと、再び目を逸らしてしまう。

 その頬は赤く染まっていて……


「……もしかして、照れているのか?」

「……うん」


 小さく、本当に小さく色羽が頷いた。


 いつもの元気な仕草はどこへやら。

 今は、借りてきた猫のようにおとなしい。


「あのね? ずっと、千歳と恋人になりたいな、って思ってて……だから、今、すごくうれしいの。夢みたいで、現実感がないけど……わー、って叫びたいくらいうれしい。でもでも、なんだろう……すごく恥ずかしくて、照れくさくて……千歳の顔がまともに見れないよ……あぅ」

「……色羽はかわいいな」

「ふにゃ!? か、かわ……あうあう」

「いや、すまん。困らせるつもりはなかったんだ。ただ、正直な感想を口にしただけだ」

「そ、そそそ、その台詞の方がよっぽど恥ずかしいよぉ……はうあう……ち、千歳って、たらしだったの……?」

「あのな……こんなことを言うのは、色羽だけだ。他の誰にも言わない」

「あうあう……ま、また恥ずかしいこと言ったぁ……うううぅ……うれしいのに、ダメ……顔が赤くなっちゃう……あたし今、絶対に変な顔してるよ……千歳に見せられるような顔してないよ……」


 普段はあれだけグイグイ押してきたのに、いざとなると引っ込んでしまうなんて……

 年頃の女の子の心は複雑だな。


 って、おっさんみたいなことを考えてる場合じゃない。

 こういう時は……


「これならどうだ?」

「ふにゃ!?」


 おもいきって、色羽を胸に抱きしめた。

 これなら顔は見えない。

 でも、相手を近くに感じることができる。


 良い案だと思ったのだが、色羽はぷるぷると震えていた。


「まだ恥ずかしいか?」

「こ、こここ、こっちの方がよっぽど恥ずかしいってば……」

「それもそうか。なら、やめて……」

「や、やめないでっ!」


 色羽の方から抱きついてきた。


「せっかく、千歳が……す、好きって、言ってくれたんだもん。あ、あたしが逃げるわけには……いかないよ」

「そっか……がんばれ」

「う、うん。がんばる……」


 すーはーと深呼吸を繰り返す色羽。

 やがて、色羽はわずかに離れて、俺を見上げた。


「あっ、あああ、あたしも……千歳のことが、そのっ……す、す……しゅきっ!」


 噛んだ。

 ものすごい残念な告白だった。


「あ、あうううぅ……!?」

「あー……どんまい?」

「慰めないでえええええっ!!!? 余計にみじめになっちゃうから、そんなこと言わないでよぉ!」

「しかし、だな」

「何もいわないで、お願い!」

「わ、わかった」

「うー、うー……いつもなら、すごく簡単に言えるのに……なんで、いざっていう時にあたしは……ちくしょう、気合が足りねえのか?」


 混乱のあまり、不良モードが混ざっていた。


 正直、ちょっとおもしろい。

 このまま、見ていたい気にもなるが、さすがにそれは意地悪がすぎる。


 こういう時は、大人であり、男である俺がリードすべきか。


「なあ、色羽」

「な、にゃに?」


 また噛んでいることはスルーする。


「深く考えなくていい。ただ、思ったままのことを……色羽の想いを聞かせてほしい」

「あたしの想い……」

「俺は、色羽が好きだ。色羽はどうだ?」

「……好き。あたしは、千歳が大好き」

「俺と付き合ってくれないか? 色羽と恋人になりたい」

「……はい」


 色羽は耳まで赤くしながら、コクリと、小さく頷いたのだった。




――――――――――




「ねえねえ、千歳」

「なんだ?」

「あたしのこと好き?」

「ああ、好きだ」

「えへへ♪ そっかそっか、千歳はあたしのことが好きなんだ、えへへ♪ どんなところが好き?」

「明るくて元気で、不良なんかやってるけど優しいところだな」

「そっかそっか。そんなあたしのことが好きなんだ。えへへ♪」


 さっきから、色羽はずっとこんな調子だ。


 時間が経つにつれて落ち着きを取り戻したらしく、当初のように慌ててはいない。

 ニヤニヤと笑い、頬を染めて、時折、にへへと笑う。

 これ以上ないくらいに喜んでいた。


 かわいらしいのだが……

 あまりに人が変わりすぎていて、逆にちょっと心配になる。


「あたしたち、恋人同士なんだよね♪」

「だな」

「試しとかじゃなくて、ホントに付き合ってるんだよね♪」

「ああ」

「ふにゃ~♪」


 喜びのあまり、猫化していた。

 頼むから、野生に帰らないでくれ。


「すっごいうれしいよ……もう死んじゃってもいいくらい」

「大げさだな」

「本気だよ? あたし、それくらいうれしいんだからね。それくらい、千歳のことを想っていたんだから」

「……少し恥ずかしいな」

「あれ? 千歳、照れた? 照れた?」


 小悪魔的に笑う色羽。

 正式に付き合うことになっても、こういうところは変わらない。


 でも、こういうところに惚れたのかもしれないな。


 笑って。

 泣いて。

 怒って。


 色々な感情を見せる色羽は、とても人間くさくて……

 気がつけば、いつも色羽のことを考えるようになっていた。

 それだけ、彼女に夢中になっていた。


 教師?

 生徒?


 もうそんなことは関係ない。

 もしも、俺達の関係が露見して、周囲から非難を浴びせられるようなことがあれば……その時は、俺は教師をやめよう。

 それだけの覚悟があった。


「ねえ、千歳」

「うん?」

「あたし、幸せだよ」

「知ってる」

「なにそれー。俺が幸せにしてやってるんだ、ってこと? 自意識過剰じゃない?」

「それくらいの気持ちがないと、色羽と付き合うことはできないからな。それくらい強く想っている、っていうことだ」

「そっか……えへへ」


 こてん、と色羽が俺の肩に頭を乗せる。


「好きだよ、千歳」

「俺もだ」

「ずっと一緒だからね?」


 ……未来のことはわからない。

 俺なりに覚悟を決めたつもりではあるが……それでも、予想外の出来事に襲われてしまうかもしれない。


 でも。


 色羽と一緒なら、大丈夫な気がした。

 どんなことも乗り越えていけるような気がした。

 これが、人を好きになるパワーというものだろうか。


 恥ずかしいことを考えるが……

 だけど、それはそれで、正しいことのように思えた。


「ずっと、ずーーーっと好きだからね♪」


 にっこりと笑い、不良生徒は改めて告白をするのだった。

 その笑顔は、とても綺麗に輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければこちらもどうぞ→この度、妹が彼女になりました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ