43話 真面目に不器用に
「二人で何してたんだ?」
「ん? 別に何もしてないですよー。たまたま先生を見つけて、からかわれていただけなんですよ。先生にいじめられました。天塚さん、仇をとってください!」
「やだ」
「迷うことなく!?」
ショックを受ける素振りを見せながらも、一式はへこたれず、色羽に絡み続ける。
前々から思っていたが、メンタル強いな。
一式のこういうところを見習えばいいのかもしれないが……
いや……事故る未来図しか見えてこないな。
やはり、やめておこう。
「俺はそろそろ行くぞ」
「あっ、先生! いつもの覚えてんだろうなっ」
「忘れてないさ」
屋上で待ってる、という意味だ。
軽く手を振って応えて、まずは職員室に向かった。
――――――――――
「あむっ、はむっ。んく……はぁあああ、やっぱりごはんの時間は幸せだねぇ♪」
屋上で色羽と合流して、一緒に飯を食べる。
色羽はおいしそうに、満面の笑みで弁当を食べていた。
「んにゃ?」
色羽が俺の視線に気がついて、ちょっとだけ頬を染める。
「ど、どうしたの? さっきから、あたしのことを見て……そんなに見られると、食べずらいんだけど」
「あ……そうだな。悪い」
「んー? 千歳、なんか変だよ? 体調悪い? 風邪引いちゃった? 看病しよっか? ずっと付き添ってあげるよ?」
「近い近い。そんなに顔を近づけるな」
ぐいっと迫ってくる色羽に、ついつい慌ててしまう。
「んー? なんか、千歳、変じゃない? なんで慌ててるの?」
「……別に、いつも通りだが?」
「あっ! 今、答えるまでにラグがあった! ラグだよ、ラグ! なにかやましいことがあるんだっ」
素のモードの色羽は抜けてるように見えるが、なんだかんだで鋭いところがあるな。
「なんで、そんなことに気がつくんだ? いつもは、のんびりしているくせに」
「むっ……反論したくても反論できないぞ」
ぷくーっと、色羽が膨れる。
「彼女のことを悪く言うなんて、千歳はひどい彼氏だ」
「……悪く言ったつもりはない。こんなのは、ただのじゃれ合いのようなものだろう?」
「ま、そうだけどね。この状態のあたしは、のんびりしてるし……でもでも、千歳のことだから、気がついたんだよ? いつも、千歳のことを見ているからね♪」
そういうことを言われると、我慢できなくなってしまいそうだ。
というか、半分くらいは気持ちがあふれてしまっているかもしれない。
色羽の顔を見る度に、心臓が高鳴って仕方がなかった。
自分で言うのもなんだが、今の俺はキモいな。
「ねえ、ホントにどうしたの? 今日の千歳、おかしいよ?」
「……少し聞きたいことがあるんだが」
迷っていても仕方ない。
このまま放置、という選択肢はありえないな。
まずは、軽く踏み込んでみよう。
「一応、俺と色羽は付き合っているわけだろう?」
「そだよ。えへへー、千歳大好き♪」
「……付き合うことで、今後、問題が出てくるとしたらどうする? 後悔しないか?」
「しないけど?」
即答だった。
迷いを一片たりとも抱いていない。
さすがに、この反応は予想外で、少々たじろいでしまう。
「千歳が言いたいのは、アレだよね? あたしが生徒で、千歳が教師だから……っていうことだよね?」
「そ、そうだな」
見事に言い当てられてしまった。
俺が関わることになると、本当に鋭い。
「確かに、バレたら大変なことになるかもね。千歳はクビ……っていうのはいきすぎかな? 他の学校に飛ばされるくらいかな? で、あたしは……うーん、不良やってるからなあ。ここぞとばかりに、退学させられるかもしれないね」
「……驚いた」
「なにが?」
「そこまで正確な予想をしていたんだな」
「あたしと千歳の未来のことだからね。これくらい、ちゃんと考えてくよ。もうっ、千歳、あたしのことバカだと思ってない? いや、まあ、テストの点を持ち出されたら、何も言えなくなっちゃうんだけどね……」
「……そこまで把握しているのなら、俺が言いたいことも理解しているだろう? そんなリスクを犯して、どうするつもりだ? やめたほうがいいとは思わないのか?」
「思わないよ」
再びの即答だった。
色羽は、まっすぐに俺を見つめる。
その表情は凛としていて……
瞳には、誰にも覆すことができないであろう、強い意思が見えた。
「あたしは千歳が好き。大好き。どんなことになろうと、この気持ちが変わることはないよ。そして、あたし自身、この想いから目を背けるようなことはしたくない。きちんと受け入れて、まっすぐに受け止めて……胸を張っていきたいの」
「……」
「こういうのって、理屈じゃないんだよ。損得勘定じゃないんだよ」
「……」
「そりゃね、他の人から見たらバカなことをしてる、って思われるかもしれないよ? でもね、あたしはすっごい真面目なの。大真面目に恋しているの。千歳が好き、っていう気持ちに従って、全力で恋愛しているの」
「……」
「感情に振り回されている、って言えば、そうなのかもしれないね。でも、人間だもん。むしろ、感情に従うことの方が正しいんじゃないかな?」
「……」
「って、まあ……アレコレと言ってみたけど、結局のところ、あたしはあたしの好きなようにしたい、っていうのが結論なんだよね。あたしは千歳が好き。恋してる。だから、ずっとずっと千歳のことを追いかける。なにがあろうと、ね♪」
言葉が出なかった。
まさか、色羽がここまで考えているなんて……
ここまで、想ってくれていたなんて……
どうやら、軽く考えていたのは俺の方らしい。
色羽を子供と決めつけて……自分は大人だと傲慢な姿勢を取り……
深く、相手のことを知ろうとしなかった。
……反省しないといけないな。
「大したヤツだな、色羽は。将来、大物になりそうだ」
「うーん、大物とか、どうでもいいんだよね。それよりも、千歳のお嫁さんになりたいな♪」
「いいぞ」
「ふぇ?」
「さすがに、今すぐってわけにはいかないし、時間が経って気持ちが変わることもあるだろうから、確約はできないが……このまま、うまく付き合っていくことができたら、そういう選択もアリかもな」
「え? え? え? 千歳、それって……」
「返事、遅くなって悪かったな。俺も、色羽が好きだ」
「っ!?」
「試しじゃなくて、正式に俺と付き合ってほしい」




