33話 秘密のやりとり・2
午後の最初の授業は、ウチのクラスだった。
生徒たちは難しい顔をして、俺が作成した小テストと向き合っている。
「わからないところは、無理に埋めようとしなくていいからな。まずは、わかるところ、答えを導き出せそうなところを重点的に攻めるように」
時折、軽いアドバイスを送り、生徒たちが問題を解く様子を見守る。
もうすぐ中間考査だ。
そのために、小テストを作成して、生徒たちに発破をかけたのだが……
(苦々しい顔をしているな)
なんで小テストなんか、というような顔をしている生徒が大半だ。
(こういう小テストを積み重ねておくと、後々楽になるんだが……それを説いても仕方ないか)
こういうことは、自分で気が付かないと身にならない。
面倒と思いながらも、がんばってほしいが……さてはて、どうなるか。
そういえば、色羽はちゃんとやっているだろうか?
気になり、後ろの席を見る。
「……」
色羽は真面目な顔をして小テストに取り組んでいた。
渋い顔をして、手を止めている。
それでも、諦観は見られない。
なんとか問題を解いてやろうという意思が見られ、必死になってがんばっているみたいだ。
(良い傾向だな)
本心から勉強を楽しんでいるわけじゃないだろう。
うぬぼれのようなことを言うが……
俺に褒められたいために、がんばっているのだろう。
でも、今はそれでいい。
本心からではなくても、勉強に取り組むことができれば、それは大きな前進だ。
このままの調子で、少しずつ気持ちをスライドさせて、学業に取り組むことができるようになればいい。
言うほど簡単なことではないが、やるだけの価値はある。
色羽は、やればできる子なのだ。
俺はそう思っている。
「……」
ふと、色羽と目が合った。
何かを求めるような視線を向けられる。
俺は生徒の様子を見て回り……
ある程度迂回して、色羽のところまで足を進めた。
そこで、そっと手を差し出す。
「……んっ」
周囲に見られないように注意しながら、色羽が俺の手を握る。
「……えへ」
誰にも見られないところで、こっそりと手を繋ぐ。
二人で決めた秘密のやりとりの一つだ。
ただ手を繋ぐだけ。
それでも、授業中にしているというだけで、特別な行為に感じられる。
それは色羽も同じらしく、うれしさを隠しきれない感じで、ニヤニヤしていた。
「……」
どうして、色羽はこんなにも俺のことを好いてくれるんだろうな?
時々、色羽のことがわからなくなる。
俺はただ、困っている色羽を助けただけだ。
それ以上のことは何もしていない。
それなのに、色羽はたっぷりの好意を与えてくれる。
考えても仕方のないことなのかもしれないが……
それでも、考えずにはいられない。
どうして、この子は俺が好きなんだろう?
(いや……)
色羽がどうこう、という話じゃない。
俺がどうするか、という話だ。
不良だけど、優しい女の子で。
子供だけど、しっかりしていて。
生意気だけど、かわいらしいところもあって。
(案外、惹かれているのかもしれないな)
そんなことを思うと、不思議と、すんなりと納得できた。
相手は生徒なのに。
不良なのに。
抵抗感は一切ない。
むしろ、そうなりたい、という想いが湧き上がってきた。
一時だけの感情かもしれないし、そもそも、勘違いかもしれない。
気の迷いかもしれない。
(それでも……)
もう少し踏み込んでみよう。
そう思った。




