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32話 秘密のやりとり・1

「やだ」


 昼休み。


 屋上で色羽と昼食をとることが、最近の日課になりつつあった。

 今日も、色羽と一緒だ。


 ごはんを食べながら、今後、校内で過度に接することは控えたほうがいいという話をしたのだけど……

 結果は、ごらんの通りだ。


「なんで、千歳と一緒に過ごしちゃいけないの? わけわからないよ。あたしは、いつでもどこでもどんな時でも千歳と一緒にいたいのっ」

「そう言ってくれるのはうれしいが、周囲の目っていうものがあるだろう? 俺は教師で、色羽は生徒。バレたらどんな問題になるか」

「あたしは気にしないから」

「俺が気にするんだよ」


 やれやれとため息をこぼした。


 初めての恋、だからなのだろうか?

 色羽は周りが見えていないところがある。

 俺たちの関係がバレたら、困るのは俺だけじゃなくて、色羽も同じなんだけどな。


 その辺りのことを、ゆっくり丁寧に説明する。


「いいか? 基本的に、教師と生徒の恋愛は推奨されていない。反対されることはあっても、応援されることはまずないだろう。そこは理解できるな?」

「それは、まあ」

「ウチの校風はそこまで厳しくないとはいえ、バレたらタダじゃ済まない。俺だけじゃなくて、色羽にも何かしらの処分が下る可能性がある」

「恋愛禁止、みたいなのが納得できないんだけどなー」

「禁止じゃない。ただ、相手が俺というのはまずいだけだ」

「生徒に手を出した先生がいますー、っていうことを気にしてるからでしょ? 学校が。そういうところばかり気にしてても、仕方ないと思うんだよね。もっと注意するところは他にあると思うんだけど、千歳はどう思う?」

「むっ」


 色羽の言うことは正しい。


 教師と生徒が恋愛をしてはいけない、正しい理由なんてものはない。

 色々と細かい部分はあるが……

 極論を言えば、誰も彼もが世間体を気にしているからだ。


 時として、教師は必要以上に神聖な存在として見られることが多い。

 そんな教師が教え子に手を出すなんて言語道断……という風潮が世間にはある。


 教師とはいえ、聖人君子っていうわけじゃないのだけどな。

 ただの一人の人間だ。

 間違いもすれば、失敗もする。


 まあ……色羽のことは、少なくとも、間違いでも失敗でもないと思っているが。


「……今は、そういう話をしているんじゃない。それに、ここで話し合っても仕方ないことだと、色羽もわかっているだろう?」

「それは、まあ」

「なら、納得しなさい。理解はでなくても、おとなしくすることだ。それが、この社会で生きるということだ」

「なんか、とんでもなくスケールの大きい話になった……」

「大げさに言ったところはあるが、本質は変わらないさ」

「千歳、大人だねえ」

「事実、大人だからな」

「そんなかっこいいところも好き♪」


 ……不意打ちで、思わず顔が赤くなるところだった。


 色々な意味で、色羽のペースに巻き込まれて、逆らえないようになってきているような気がした。


「とにかく、だ。校内で過度な接触は避けた方がいい。バレたりしたら、付き合うどころの話じゃなくなるぞ」

「むぅ、それはイヤだなぁ……でもでも、寂しいし……うーん」


 色羽が顔を曇らせた。


 この子にそういう顔は似合わない。

 できれば、笑っていてほしいのだが……


「……なら、こっそりとやりとりするか?」


 見かねて、そんなことを口にした。


「え? こっそりって?」

「例えば、そうだな……手紙っていうと大げさになるけど、そんなものをそっと渡すとか。ほら、たまに生徒たちがやっているだろう? アレだ」

「アレかー。最近は、スマホの方が圧倒的多数なんだけどね」

「マジか」


 時代の流れを感じる……


「あとは……二人だけのサインを決めておくとか」

「サイン?」

「例えば、普段の会話にサインを織り交ぜたりするんだ。『わからないところがある』は、二人で会いたい。『相談したいことがある』は、電話してもいい? とか……そんな感じで」

「あー、うんうん、なるほど! それ、いいねっ」


 色羽は乗り気だった。

 さきほどまで膨れていたのがウソみたいに、目をキラキラと輝かせている。


「そういうのいいよね! 二人だけの秘密っていう感じで、すっごいドキドキする♪」

「色々と考えてみないか? そういうことを決めておけば、隠れながらでもコミュニケーションがとれると思うんだ」

「うんっ、考える!」


 元気をだしてくれてよかった。

 やっぱり、色羽はこうでないとな。


「千歳、どうしたの? 早く考えようよ」

「そうだな」


 昼休みが終わるまで、色羽と一緒に二人だけのサインを考えるのだった。

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よろしければこちらもどうぞ→この度、妹が彼女になりました。
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