21話 デート
そして、次の日曜日が訪れた。
ラフな服装を家を出る。
そのまま、徒歩で駅前に向かう。
ドライブや遠出するならともなく、普通のデートに車はかえって邪魔になるからな。
「さて、色羽は……」
駅前についたところで色羽の姿を探す。
待ち合わせは、駅前広場に11時。
今は、10時45分。
少し早かっただろうか?
色羽はまだ来て……
「……いた」
国から寄贈されたという円形のアートの台座に、色羽が寄りかかっていた。
その姿を見て、ついつい目を丸くしてしまう。
不良からは程遠い服装で、落ち着いた雰囲気をまとっていた。
髪は染められたままなのに、服装や仕草のせいか、清楚な感じがする。
あれは、本当に同一人物だろうか?
「……」
色羽はソワソワした様子で、時折、スマホを取り出して時間を確認していた。
どう見ても俺を待っている。
「色羽」
「あっ、千歳!」
声をかけると、色羽の顔がぱあっと明るくなった。
こんな時になんだけど、忠犬を連想した。
「おはようっ、千歳! 今日は良い天気だね♪」
「そうだな。遊ぶには良い日だ」
「えへへ♪ 神さまが、あたしたちのデートを祝福してくれてるんだね」
「そんな大げさな……というか、待たせて悪かったな」
「ううんっ、そんなことないよ。私も今来たところだから」
「それ、ウソだろ」
「……バレた?」
「すごいソワソワしていたからな。少し見ればわかる」
「見ていたの? ぶーっ、千歳のえっち」
「本当は、どれくらい待っていたんだ?」
「……20分かな」
「本当か?」
「……40分」
「で、真実は?」
「……1時間だよ」
観念した様子で、色羽は本当のことを告白した。
「1時間も……すまない。もっと早く来るべきだったな」
「う、ううんっ。千歳が謝ることなんてないよ! あたしが勝手に早く来ただけだからっ」
「でも、1時間も待たせるなんて……」
「あたしは気にしてないよ? 繰り返しになるけど、あたしが勝手にしたことだし……それに、待っている間も楽しかったよ? 今日は千歳とデートなんだ……とか。どこで遊ぶのかな……とか。どんなデートになるのかな……とか。デートのことを考える時間も、すごく楽しいの♪ だから、気にしないで」
「……色羽は良い子だな」
「にゃっ」
ぽんぽんと頭を撫でた。
「んー……千歳、あたしのこと子供扱いしてない?」
「実際、子供だろう?」
「それはそうなんだけど、ちゃんと女の子として見てほしいっていうか……複雑」
「こういうのも変だけど、色羽は立派にかわいい女の子だよ」
「ふぁっ!?」
ぼんっ、と色羽が赤くなる。
顔を赤くしたまま、ぐいぐいと迫る。
「今のもう一回! もう一回聞きたいな!」
「また今度な」
「今度!? またデートしてくれるのっ!?」
そう来たか。
「……色羽が良い子にしているのなら、考えないでもない」
「うんっ、なら、あたし良い子になる!」
「不良、やめるのか?」
「うっ……それは、ちょっと難しいかも。やめようと思ってやめられるものじゃないんだよ?」
不良は不良で、色々と難しいらしい。
そんな風に迷うのならば、不良になんてならなければいいものを。
まあ、今更言っても仕方のないことか。
「って、そんな話は今はどうでもいいの! 今日はデートなんだからねっ」
「それもそうだな。無粋だったか」
「そうそう、無粋だよ。千歳は女の子の心をわかってないんだから」
「そんな俺とデートをしてもつまらないよな。やめるか」
「やめないでぇえええっ!!!」
必死になって色羽がしがみついてきた。
「あたし、今日のデート、すごくすごくすっっっごく楽しみにしてたんだからね!? ここで止めるなんてことになったら、泣くよ? おもいきり泣くよ!?」
「わ、悪い。ただの冗談だ。冗談だから、本気にならないでくれ」
「ホント?」
「本当だ」
「えへへ、よかった♪」
色羽の愛情が重い。
重い、が……
それだけ好かれているのだと思うと、悪い気はしなかった。
俺が色羽のことをどう思っているのか。
それは、まだわからない。答えを出すことはできない。
「……なるべく早く、答えを出さないといけないか」
「ん? なんのこと?」
「なんでもないさ。それよりも、そろそろ行こうか」
「うんっ♪」
千歳がチラチラと俺の顔を見る。
正確に言うと、俺の顔と手を交互に見ていた。
「……手を繋ぎたいのか?」
「な、なんでわかったの!? 千歳、すごいっ」
「わからないでか」
わかりやすい子だ。
ホント、なんでこんな子が不良をやっているんだか。
「せっかくのデートだから、手を繋ぎたいなあ……なんて。ダメ?」
「そう……だな」
学校の最寄りの駅ではないとはいえ、生徒がいないとは限らない。
それに、同僚の先生方と偶然出会う可能性もある。
そのことを考えると、迂闊な行動に出ない方がいいだろう。
ただ……
脳裏に、必死に補習をがんばっていた色羽の姿が思い浮かぶ。
全部、俺とデートをしたいために、あれだけがんばっていたんだ。
「ほら」
手を差し出した。
「いいの?」
「ダメならこんなことしない」
「えへへ……ありがと、千歳♪」
色羽は、笑顔で俺の手を取る。
ハッキリとした答えを出せない今……
少しでも、この子に応えてあげないとな。
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