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2話 不良は猫に優しい

 授業中。

 黒板に向かい、数式を書いていると、


 ガラッ。


 後ろの扉が開いて、一人の女子生徒が教室に入ってきた。

 着崩した制服。

 染めた髪。

 不良で有名な、天塚色羽だ。


「天塚、遅刻だぞ」

「……さーせん」


 注意すると、悪びれた様子もなく、形だけの謝罪を口にする天塚。

 まったく、完全に大人を舐めているな。

 反省するまで説教してやりたいところだが……

 それでは授業を中断してしまう。他の生徒に迷惑がかかるし、天塚に余計なヘイトが飛びかねない。


「早く席に座れ。教科書は、24ページだぞ」

「うーい」

「それと、放課後、職員室に来るように」


 二度目の返事はなかった。


 まったく、とため息をこぼさざるをえない。

 しかし、俺は諦めないからな。

 教師生活一年目の若輩者と侮ることなかれ。

 情熱だけは、ドラマの教師以上に持っているつもりだ。


 必ず、更生させてみせるからな。




――――――――――




「で、すっぽかされる……と」


 放課後。


 職員室で天塚を待つものの、一向に現れる気配がない。

 無視された、と考えるのが妥当だろう。


 だがしかし。

 それくらいで諦めると思うなんて甘い。甘すぎる。砂糖に練乳をかけたくらいに甘いぞ、天塚!


「来ないというなら、こちらから押しかけてやるまでだ」


 天塚の家の住所を……


「……調べる前に、一応、確認しておくか」


 教室に移動して、天塚の机を確認する。

 鞄が残されていた。


「ってことは、まだ校内に?」


 遅刻だけで家に押しかけると、家族に余計な心配をさせてしまうかもしれない。できるなら、校内にいるうちに話を済ませておきたい。


 天塚を探し、校内を歩き回り……

 ようやく、その姿を見つけた。


「にゃんにゃん♪」

「ウナァ」

「にゃー、にゃー。にゃん?」

「ニャウ!」


 中庭で、天塚が子猫と戯れていた。


 ……なんだ、あのかわいい生き物は?

 普段の姿とのギャップもあり、思わずフリーズしてしまう。


「うりうり。お前はかわいいな、おい。ほーら、にゃんにゃん」

「ニャー」

「あははっ、舐めるなよ。もう、あたしを食べたいのか? ダメだぞー」

「ニャウッ」


 天塚って、あんな顔で笑うんだな。

 今は四月。

 天塚を受け持つことになって、一ヶ月も経っていないから、当然といえば当然なのかもしれないが……

 あんな顔、初めて見た。


「ほーら、今度は頭を撫でてにゃる……ぞ……?」


 目が合った。


「……」

「……」


 気まずい沈黙。

 子猫だけは状況を理解できない様子で、もっと構ってというように、ニャーニャー鳴いていた。


「あっ……あああ、あんた、いつからそこに!?」

「にゃんにゃん♪ ってところから?」

「ほぼ最初からかよっ!」

「そんなに気にするなにゃん」

「うだあああああっ!!! し、死にてぇ……っていうか、コイツを殺した方が早いんじゃ……?」

「お、落ち着けっ。いたいけな子猫に、バイオレンスな惨状を見せつける気か!?」

「うっ」


 猫を盾にしてみると、天塚が止まる。

 意外とわかりやすいヤツなんだな。


「……何の用だよ?」

「放課後、職員室に来るように言ったにゃ。なのに来ないから、探してみたにゃ」

「本気でヤルぞ、おい」

「わ、悪い」


 さすがに、いたずらが過ぎたみたいだ。

 本気の目で睨まれて、ついつい謝ってしまう。


「ったく……わかったよ。つまらない説教なら受けてやるよ」

「おっ、良い心がけだな」

「ちょっと待て。この子を……って、お、おい? どうしたんだ!?」


 慌てる天塚。

 見ると、さっきまで元気にしてた子猫が、苦しそうにぐったりしてた。


「な、なんで……苦しいのか!? なあ、しっかりしろよっ、おい!」

「待て、天塚! 揺さぶったりするな」

「で、でも……あたし……」


 いつも気丈な天塚が、ひどく儚く見えた。

 子猫のように、すぐに消えてしまいそうだ。


「そいつを連れて、俺の車に乗れ!」

「え? ど、どうするんだよ……?」

「獣医のところに連れて行く! 早くしろっ」

「あ、ああっ!」


 天塚は猫をそっと抱いて、俺の後についてきた。

こちらも、毎日0時に更新します。

当分は、毎日更新をします。


今回から、話がスタートします。

最初は、色羽のツンツン具合を楽しんでもらえれば。

わりと早く付き合い始めます。

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