19話 デートがしたい
色羽を車に乗せて、学校を後にした。
そのまま車を走らせること少し。
手頃なファミレスを見つけて、そこに車を停める。
「ファミレスなの?」
「イヤなのか?」
「どうせなら、夜景の見えるレストランとか、雰囲気たっぷりのところがいいな♪」
「俺の給料の明細書を見せてやろうか?」
「あははっ、ごめんごめん。冗談だよ。あたしは、千歳と一緒ならどこでもいいよ♪」
「まったく」
そんな笑顔で言われたら、簡単に許してしまうじゃないか。
なんだかんだで、俺は、色羽のことを気に入っているのかもしれないな。
恋愛対象かどうか、それはまだわからないが……
少なくとも、一緒にいて心地いいと思える相手だ。
「千歳、早く入ろう? あたし、もうお腹ぺこぺこだよ」
「そうだな。俺も腹が減ったよ」
店内に入り、適当な席に座る。
ちなみに、千歳が隣に並んで座ろうとしたので、拒否して対面に座らせた。
「ぶー、千歳の隣が良かったのに」
「いいわけあるか」
千歳は制服で、俺はスーツ。
下手すれば援交現場だ。
そんな目で見られるのは勘弁願いたい。
「でもでも、対面でもいいか。千歳の顔をじっくりと見ることができるからね」
「どっちでもいいなら、素直に俺の言うことに従ってくれ」
「乙女心は複雑なんですぅー」
「色羽は、乙女というより不良だろう」
「あっ、ひどーい!」
「いらっしゃいませ。ご注文、お決まりでしょうか?」
「ハンバーグステーキと、リブロースステーキ。あと、チキングリルな。あと、ドリンクバーで」
店員がやってくると、一瞬で不良モードに切り替わる。
これで乙女というのは無理があるだろう。
「俺はビーフシチューセット。あと、ドリンクバー」
「ハンバーグステーキ、リブロースステーキ、チキングリル。ビーフーシチューセット。それと、ドリンクバーが二つですね? 少々おまちください」
オーダーを繰り返して、店員が立ち去る。
「肉ばかりだな」
「肉はうまいぜ?」
近くの席に新しい客が来たからなのか、色羽の不良モードは継続中だった。
「にしても、食べ過ぎだろ。太るぞ?」
「先生、デリカシーが足りねえぞ。っていうか、太らねーから。肉はそんな問題ないんだぞ? ほら、糖質ダイエットとかあるだろ。あれと同じだよ」
「言いたいことはわかるが、それでも量がな」
「おごりなんだから、きっちり食べないともったいないだろ」
「ちゃっかりしたヤツだ」
「へへ、ありがとな、先生」
しばらくして注文が届いた。
「「いただきます」」
ジューと油が焼ける音が響く。
色羽は子供のように目を輝かせながら、ナイフで肉をカットして、口に運ぶ。
「んんんーーーっ♪」
満面の笑み。
待ちきれないとばかりに、次を食べて、さらに次を食べて……
あっという間に、ハンバーグが消えてなくなった。
「早いな……」
俺なんて、まだ半分も食べてないのに。
「うまいからな。おごりだと思うと、なおさらだし」
「大食いチャレンジに挑戦してみたらどうだ?」
「ありゃダメだな。失敗したら金払うと思うと、調子が出ないや」
「そんなものか」
どうでもいい会話のやりとりをしながら、食事を進める。
ビーフシチューセットはとてもおいしく感じられた。
大好物というわけではないが、なぜか、いつもよりおいしく感じられる。
なんでだろう?
……色羽と一緒にいるから、だろうか?
思えば、最近、食事はいつも一人だったからな。
誰かと一緒に食べる食事は、こんなにもおいしいものなのか。
妙な感動を覚えてしまう。
「あー、うまい♪」
色羽は、ぺろりと二皿目のステーキを片付けてしまう。
驚異の食欲だ。
驚きの視線を向けていると、さすがの色羽も恥ずかしくなったのか、わずかに頬を染めた。
「な、なんだよ。これくらいいいだろ。育ち盛りだから、たくさん栄養が必要なんだよ」
「ふーん」
「あっ、言い訳してやがる、とか思ってんな!?」
「いいえ、別に」
「くーっ、なんかむかつく! 先生、意地悪だな!」
「太るぞ?」
「太らねーし!」
色羽はぶすっとした顔を作りながらも、三皿目のチキングリルにとりかかる。
ごはんを食べていないとはいえ、それだけ食べれば変わらない気がするんだが……
まあ、野暮は言わないでおこう。
「慣れね―ことしたから腹減るんだよ」
「補修のことか?」
「なんで居残りなんてしなくちゃいけねーんだよ?」
「色羽が授業をサボったからだ。ちゃんと授業に出ているなら、補修なんてない」
「む、ぐっ」
正論をぶつけられて、返す言葉がないみたいだ。
やり場のないモヤモヤを食欲に変換したらしく、ガツガツとチキングリルを食べる。
あーあ、女の子がそんな風にものを食べて……
不良モードの色羽は、ホント、色々と変わるなあ。
「なあ、先生。補修っていつまであるんだ?」
「一日に進めるペースにもよるが……今日と同じペースで進めるなら、あと二週間ってところだな」
「げっ、そんなにあるのか。マジかよ」
やる気が失われたらしく、色羽は盛大なため息をこぼした。
これは、まずい傾向だな。
どうにかしてやる気を出させないと、補修すらサボり始めるかもしれない。
そうなると、進級は絶望的だ。
「ちゃんと補修に出ないと、進級できないぞ」
「んなのどうでもいいし」
「いいのかよ。親御さんに何か言われるんじゃないか?」
「何も? ウチ、わりと放任主義だからな」
そりゃそうか。
娘が不良になっているのに、放置してるくらいだからな。
なんとかして、やる気を出してもらわないと……
さて、どうしたものか?
「……補修、ちゃんと乗り越えることができたら、なんでも言うことを聞こう」
「え?」
「残りの補修、全部受けるんだ。そうしたら、色羽の願いを一つ、叶えてやる」
「マジか!?」
「俺にできないことは却下だからな? そこは、あくまでも常識の範囲で頼む」
「わかった! やる! ぜってぇにやる!」
「すごい勢いで食いついてきたな……もしかして、何か俺にしてほしいことがあったのか?」
「あるっ!」
「即答か。それはなんだ?」
「あたし、先生とデートしたいっ!」
ブクマや評価が、毎日更新を続けるモチベーションになります。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、
ブクマや評価をしていただけるとうれしいです。




