15話 ライバル?
その後、色羽は五限目の授業をおとなしく受けて……
聞いた話では、六限目も出席したらしい。
まともに授業を受けていたか、それは怪しいという話ではあるが……
出席しているだけよしとしよう。
今までは、丸一日、サボることも少なくなかったからな。
天塚色羽の更生の第一歩だ。
この調子で、少しずつ、まともな方向に軌道修正できればいいんだが。
「以前、伝えたと思うが、明日は小テストがあるからな」
放課後の一歩手前のショートホームルーム。
ようやく授業が終わるということで、生徒たちはソワソワしてる。
その気持ちはわかるので、なるべく早く話を終わらせよう。
「日頃、ちゃんと授業を受けれいれば、まず落ちることのない難易度だ。もしも赤点をとった場合は、居残り勉強をしてもらうから、覚悟しておくように」
ブーイングが鳴る。
「問答無用で、全員、居残りにしてもいいんだぞ?」
ブーイングが鳴り止んだ。
わかりやすい。
内心で苦笑しながら、話を進める。
「連絡事項はそれくらいだ。寄り道するなとは言わないが、ほどほどにな」
日直が号令をして、ショートホームルームが終了。
放課後になった。
俺は名簿などを脇に抱えて、教室を後にする。
「先生、またねー!」
「ああ、また明日」
「まだ仕事なん? 俺たち、遊びに行くんだ」
「うっさい。さっさと行ってこい」
すれ違う生徒たちと軽口を交わしながら、職員室へ向かう。
「森下先生」
振り返ると、嬉野先生がいた。
「おつかれさまです」
「はい、おつかれさまです」
「ふふっ」
「どうしたんですか?」
俺の顔を見て、嬉野先生が小さく笑う。
なんだろう? ゴミでもついているのだろうか?
ついつい、顔に手をやってしまう。
「あ、すいません。いきなり笑ったりして」
「何かついてますか?」
「いえ、そういうことではなくて……森下先生は人気があるなぁ、と思いまして」
「人気……ですか?」
誰に?
「たくさんの生徒に慕われているじゃないですか」
「そう、ですかね?」
「今も親しげに話をしていましたよね」
「あれは挨拶のようなもので、親しいってほどじゃありませんよ。あるいは、友だち感覚で舐められてるのかもしれませんね」
「そんなことはありませんよ。親しみの現れのように見えますし……私のクラスの子も、森下先生の話をよくしますよ。皆、笑顔で、森下先生のことを信頼していることがわかります」
「そ、そうですか」
そんなことを言われると、照れくさい。
だが、うれしくはある。
良い教師であろうと、日々、前を向いて歩き続けてきた。
その努力が認められたような気がして、気を抜けば笑顔になってしまいそうだ。
周囲に生徒がいるので、そんなだらしないところは見せられないが。
「なあなあ、先生」
ふと、色羽が後を追いかけてきた。
「ちと話したいことが……あん?」
俺を追いかけてきたらしい。
ただ、嬉野先生が一緒にいることに気がついて、敵意たっぷりの視線を向ける。
こらこら。
意味もなくガンを飛ばさないように。
「なに、コイツ? なんで先生と一緒にいるわけ?」
「こらこら。嬉野先生をコイツ呼ばわりするんじゃない」
「嬉野……?」
「えっと……天塚さん、こんにちは」
今にも噛みつきそうな勢いの色羽に、嬉野先生がそっと話しかける。
猛獣に接するような態度だ。
まあ、似たようなものかもしれないな。
猛獣イロハ。
猫科。
普段は凶暴。しかし、飼い主にはデレる。
……そんなデータが思い浮かんだ。
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