12話 ごはん
「なあなあ、今何時?」
「お前は……」
軽い頭痛がした。
何時かわからなくなるくらい、昼寝をしていたなんて……
ホント、どういう風に更生したらいいんだろうな。
今は、コツコツやっていくしかないか。
「今は昼休みだ」
「マジで!? 道理で腹が減るわけだな……うしっ、飯にすっか」
こうなることを予想していたのか、ちゃっかり準備していたらしい。
弁当箱を膝の上に乗せる。
「先生も昼なんだろ?」
「ああ、そうだな」
「なら、一緒にくおーぜ」
「俺が弁当じゃなかったらどうするんだ?」
「あっ、そ、そっか……それは考えてなかったな……」
しょんぼりする色羽。
一喜一憂が激しいな。
まあ、それはそれで『らしい』という気はするが。
「安心しろ。俺も弁当だ」
「おっ、そうなのか?」
色羽はうれしそうな顔をして……
次いで、疑惑たっぷりというような顔をする。
「その弁当、誰が作ったんだ? 先生か? それとも……か、彼女とか……」
「想像力たくましいな。いや、この場合、妄想力というべきか」
「気になるんだよ!」
「安心しろ。色羽の家に行く途中で買ったコンビニ弁当だ」
「そ、そうなのか……ほっ」
「取ってくるから待ってろ」
「い、いいのか!?」
「色羽が言い出したことだろ」
「それはそうなんだけどさ、OKもらえるなんて思わなくて……生徒と一緒なんて、とか言われると思ってたし」
「その気持ちもなくはないが……」
色羽の場合は、目を離さない方がいいからな。
このまま一緒に過ごして、そして、授業に連れて行こう。
それに、屋上なら誰も来ない。
生徒や先生に見られることはないから、問題ないだろう。
「ん? そういえば、どうやってここに入ったんだ?」
「鍵を使ってだが?」
「なんで、色羽が鍵を持っているんだ?」
「作った」
真顔でそんなことを口にする色羽。
いかん、また頭痛が……
「ここ、誰も来ないから良い場所なんだよな。すっげーのんびりできる」
「あのな……」
「あたしのお気に入りだ」
にか、っと笑う色羽。
子供みたいに無邪気で……
「……誰かに見つかるなよ」
鍵を取り上げるのは、なんだかかわいそうな気がして……
ひとまずは、保留にしておくことにした。
――――――――――
コンビニ弁当を手にして、屋上に戻る。
一応、誰にも見られないように注意しておいた。
「おかえりー」
屋上に戻ると、色羽が笑顔で迎えてくれた。
いつもの不良モードではない。
素の、のんびりモードだ。
「今はそっちなのか?」
「うん。よくよく考えてみれば、ここにはあたしと千歳しかいないし。なら、こっちでいいかな、って」
色羽はにこにこと笑いながら、俺の隣に体を寄せてきた。
「おい、近いぞ」
「えー、これくらい普通だよ」
「肩が……」
「普通普通」
笑顔で押し切られてしまう。
押しが強いな……
それとも、俺が甘いだけなのか?
「それじゃ、いただきまーす」
「いただきます」
それぞれ弁当を食べる。
色羽の弁当は……なんていうか、すごかった。
三段重ねのお重。
一段一段が、俺の弁当と同じくらいのサイズだ。
一段目は、おにぎりがびっしりと詰まっている。
二段目は、色々なおかずがたくさん。
三段目は、フルーツがたっぷり。
「それ、全部食べるのか……?」
「あっ……えっと……あはは」
笑ってごまかされた。
「あたし、けっこう食べる方なんだ。これくらいないと物足りなくて……」
「それにしてもすごい量だな……そんなに食べて太らないのか?」
「もうっ! 先生、そういうこと言うの、デリカシーないよ!」
「す、すまん」
今のは、確かに俺が悪かった。
素直に頭を下げる。
「俺が悪かった。軽率な発言だ、許してほしい」
「うむ、よきにはからへ」
「……あまり調子に乗らないように」
「ひゃんっ!?」
軽くデコピンをしておいた。
「えへへ」
「なんで笑う?」
「こういうやりとり、恋人っぽいなー……って」
「そう、か?」
「そうだよー。私の理想の恋人だよ」
「そうなのか……」
意外というべきか。
色羽とのやりとりは、それほど悪い気はしておらず……
これが恋人らしいというのならば、俺たちはお似合いなのかもしれない。
ふと、そんなことを思ってしまった。
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