11話 昼休み
他の先生に話を聞いたところ、色羽は三限目になってやっと顔を出したという。
そして、四限目になると、またどこかに姿を消したらしい。
あ・い・つは……!!!
その話を聞いた時は、思わずその場で叫びそうになってしまった。
落ち着け、俺。
相手は、あの天塚色羽。
更生させるなんて、一筋縄ではいかないことは重々承知しているじゃないか。
根気よく、諦めることなく。
長期に渡り、接していかないといけない。
それはともかく、サボったことは説教しないとな。
そんなわけで、昼休み。
色羽を探して、校舎内を歩いて回る。
だが、色羽の姿は見当たらない。
教え子に聞いてみたものの、誰も姿を見ていないらしい。
「どこに行ったんだ?」
気ままにあちこちをうろつく。
猫みたいなヤツだ。
だから、あの子猫にも懐かれたんだろうか?
「……もしかして」
ふと、閃いた。
こういう時の定番、不良がサボる場所と言えば……
――――――――――
「見つけた」
屋上。
普段は立ち入り禁止になっているのだが、そこに色羽がいた。
壁によりかかり、すやすやと寝てる。
まったく……
こんなところでよく眠れるものだ。
「起きろっ!!!」
「ふあっ!?」
大きな声を出すと、ビクッと色羽が震えた。
慌ててキョロキョロと周囲を見回す。
ホント、猫そのものだ。
「って……あんだよ、先生か」
学校だからなのか、今の色羽は不良モードだった。
「あんだよ、じゃない。こんなところで何をしているんだ?」
「昼寝だけど」
「少しも悪びれた様子を見せず……こいつは」
「授業なんてだるくて」
「だるいで済ませるな。今日は、一限しかまともに授業を受けてないだろう」
「いいじゃねーか、減るもんじゃねーし」
「減るからな!? 成績とか、色々なもんが減るぞ!」
「あー、はいはい。サーセン」
まったく反省していないな……
色羽がそういう態度に出るのならば、こちらにも考えがある。
「午後の授業は出ろよ」
「えー、めんどい」
「出ないなら別れる」
「えっ!!!?」
効果てきめんだった。
色羽はみるみるうちに顔を青くする。
「わ、別れる、って……そ、それマジで……?」
「マジだ」
「そ、そんな……」
「俺は、色羽を更生させるのが目的なんだ。それがまともにできないようなら、色羽に……いや。天塚と付き合うことなんて意味がないからな」
「あ……う……」
あえて天塚と呼ぶと、これ以上ないくらいに落ち込んだ。
がっくりと肩を落として、眉尾を落とす。
さらに、顔をくしゃくしゃにして……
え? いや、ちょっとま……
「ひっく……うぇ、えええぇっ……」
泣いた!?
泣いちゃったよ!?
「うっ、えく……ご、ごめっ……ごめん、なさい……謝る、からぁ……そんなこと、言わないでぇ……」
「あっ、いや……!? い、今のはなし、なしだから!」
「……なし?」
「別れない、別れない!」
「……ホント?」
「お試しとはいえ、付き合い始めたばかりだからな。今すぐに、なんてことはしないから。色羽の行動が目にあまるから、ちょっとお灸を据えるために言ったことで……本気じゃないからな? な? だから、落ち着け」
「……うん」
いつの間にかプライベートモードになっていた色羽は、ずずっと鼻をすする。
「じっとしてろ」
「んっ……」
ハンカチを取り、涙を拭いてやる。
「……ねぇ、千歳」
「うん?」
「本当に別れない……?」
「別れないよ」
「……ホント?」
「本当」
「……えへへ、よかったぁ」
涙顔が一転して、笑顔になった。
別れるというと、本気で焦り、泣いてしまうほどに感情を乱して……
そうでないと知ると、安堵して、笑顔を見せる。
若干、不安定なところはあるものの、色羽の強い愛情を感じた。
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