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10話 不良の更生は難しい

 教え子と一緒に登校というのはさすがに問題がある。

 誰かに見られたりしたら、余計な勘違いをされかねない。

 なので、色羽は学校の近くで降ろして、俺は先に学校に入った。


 車を降りて、職員室へ。

 先生方に挨拶をしながら、自分の席に着いた。

 授業の準備を……いや、その前に資料の確認をして……


「おはようございます」

「あっ、おはようございます」


 隣の席の嬉野うれしの由宇ゆう先生が優しい笑顔を浮かべて、挨拶をしてくれた。


 俺と同じ二年のクラスを担当している同期の先生だ。

 綺麗なだけではなくて、グラビアモデルのようなけしからん体型をしている。

 ついつい胸元に目がいってしまいそうになるのは内緒だ。

 まあ、バレてるかもしれないが。


 温厚な性格をしていて、怒ったところを見たことがない。

 その優しい人柄に惹かれる子は多く、生徒たちからの人気は高い。

 うらやましい。

 少しは、その人気を分けてほしいものだ。


 まあ、妬んでも仕方ない。

 そうなれるように、俺自身ががんばらないといけないわけではあるが。


「ふぅ」


 珍しく嬉野先生が疲れたようなため息をこぼした。


「どうかしたんですか?」

「あ、いえ……すみません。恥ずかしいところを見られましたね」

「何か悩み事が?」

「えっと……」

「俺でよければ相談に……って、図々しいですかね」

「そんな。そう言ってもらえて、とてもうれしいです」


 嬉野先生がにっこりと笑う。

 異性を虜にするような、柔らかく、魅力的な笑顔だ。

 ついつい、ドキっとしてしまう。


 落ち着け、俺。

 こんなことでドキドキしてたら、嬉野先生と一緒に仕事をするなんてできないぞ。

 それに、お試しとはいえ、今の俺は彼女がいる。

 そんな気持ちになるわけにはいかない。


「情けない話なのですが、構いませんか?」

「ええ。どのような話であれ、気にしませんよ」

「実は……さきほど、天塚さんに会いまして」


 ……俺、妙な顔になってないよな?

 ついつい意識してしまい、焦りのような感情が出てしまう。


 そんな俺の様子には気づかないで、嬉野先生は話を続ける。


「なにやらとても機嫌が良さそうだったので、少しお話でもできないかと思ったのですが……挨拶をしても、返事をしてくれなくて」

「そ、そうですか……」

「私の顔を見た途端、機嫌悪くなってしまって……私、何かしてしまったのかなあ……と。だとしたら、申し訳なくて……」


 アイツ、何やってるんだ。


 不良からしたら、先生は天敵みたいな相手だろうけど……

 嬉野先生みたいな人にまでケンカを売ろうとするな。

 狂犬か。


 ただ授業に出席させるだけじゃなくて、こういう、日頃の態度も改めさせていかないといけないな。

 厄介そうだ。

 思わず心の中でため息をこぼした。


「ま、まあ、気にすることないんじゃないですか? 天塚は、いつでもそんな感じですし」

「そうでしょうか……?」

「そうですよ。不良からしたら、我々教師はみんな敵です。いちいち天塚の反応を気にしていたら、体が持ちませんよ」

「悪い子ではないと思うから、なんとかしてあげたいんですけどね……」

「どうして、そう思うんですか?」


 俺たち教師の間で、天塚=不良という認識しかない。

 嬉野先生みたいに、悪い子じゃない、なんて思う人はほぼ皆無だ。

 それなのに、どうして?


 嬉野先生は、内緒話をするように、そっと顔を近づけてきた。

 思わずドキドキしてしまう。


「本人には話さないでくださいね?」

「はい」

「実は……天塚さん、猫が好きみたいなんです」

「え?」

「この前の放課後、猫と遊んでいるところを見まして」

「な、なるほど」


 バッチリ見られていたのか。

 意外と抜けているヤツだ。


「かわいらしいところもあるなあ、って……そう思うと、悪い子には見えなくて」

「そうですか……」

「でも、私には心を開いてくれないみたいで」


 嬉野先生は残念そうな顔をした。

 ただの上辺だけではなくて……

 心から天塚のことを考えているらしい。


 珍しい人だ。

 生徒のことを、ここまで考えることができるなんて……

 俺の中で、嬉野先生に対する好感度が上がる。

 まあ、上がったからといって、どうということはないのだが。


「大丈夫ですよ」

「え?」

「すぐには無理かもしれませんけど……天塚も、いつか嬉野先生に心を開いてくれるはずです」

「そうでしょうか……?」

「ええ。俺が約束しますよ」


 なんだかんだで、天塚は良いヤツだからな。


「……森下先生がそう言うのなら、そうなのでしょうね」

「あ、すみません。俺なんかが偉そうに」

「いえ、元気が出ました。ありがとうございます」

「ならよかった」

「さあ、仕事をしないといけませんね」


 机に向き直る嬉野先生は、さきほどと違い、笑顔が戻っていた。


 まったく……

 嬉野先生に迷惑をかけて、天塚は何をしたいんだか。


 急に機嫌が悪くなった、と言ってたが……今朝はそんなことなかったよな?

 俺と別れた後、何かあったんだろうか?

 後で聞いてみることにしよう。


 ……そんなことを思っていたんだが、天塚は朝のショートホームルームの時間になっても顔を見せず、俺が担当する一限目の授業もサボった。

 やはり、不良の更生は難しい。

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