1話 プロローグ
今度は、教師と生徒の話を書いてみました。
天塚色羽は不良だ。
髪を染めて。
制服を着崩して。
アクセサリーを身につけて。
校則? なにそれ? おいしいの?
そんな感じで、我を貫く不良だ。
そして、俺たち教師陣の間で、一番手のかかる生徒として有名だ。
担任はもちろん、生活指導、学年主任の先生が天塚を更生させようとした。
しかし、ことごとく失敗した。
天塚を更生させるのは、虎に芸を仕込むよりも難しい。
熟練の教師に、そう言わせるほどだ。
だから、誰もが諦めた。
天塚色羽を更生することはできない。
そのうち、大きな問題を起こすかもしれない。
しかし、その方が好都合だ。
問題を起こした責任を取らせて、退学にすればいいのだから。
他の先生方は、みんな、天塚のことを諦めていた。
見捨てていた。
しかし、俺は見捨てたくない。
不良とはいえ、天塚もウチの学校の生徒なのだ。
天塚が二年に進級した時、俺が担任になった。
これも、何かの運命かもしれない。
いつか、わかってくれる日が来る。
そう信じて、指導した。
その結果……
――――――――――
生徒指導室は、教室の半分くらいの広さだ。
簡素な棚がいくつか設置されていて、中央に机二つ分くらいのテーブル。
それと、椅子が四つ。
「……」
ふてくされた感じの天塚が座っていた。
教師である俺、森下千歳は、その対面に座る。
「聞いたぞ、天塚。またケンカをしたそうだな?」
「……」
「相手の学校、親御さんから苦情が来ているぞ」
「……」
「黙ってないで、何か言ったらどうだ?」
「何か」
「あのなあ」
思わず天を仰ぎたくなってしまう。
この跳ね返り娘は、自分の立場がわかっていないのだろうか?
「今、問題を起こしたらまずいんだ。天塚を目の敵にしてる先生は多い。ここぞとばかりに攻撃してきて、下手したら退学させられるぞ」
「別に、学校なんて未練はねえし」
「俺は、天塚にいなくなってほしくない」
「……それって、あたしのことが必要、ってことか?」
「ああ、そうだ」
「……えへへ♪」
「うれしそうにしない」
「だって、うれしいし」
喜ぶ場面じゃないんだけどな、ホント。
「それで、何があったんだ? 理由もなしに天塚が暴力を振るうなんて思えない。理由があったんだろ?」
「信じてくれるのか……?」
「俺は信じる」
「……やっぱり、先生は優しいな」
天塚の肩から力が抜けて、笑顔が戻る。
そして、ゆっくりと語り始めた。
……どうも、ケンカをした相手がウチの生徒をカツアゲしてたらしい。
その場面に出くわした天塚は、カツアゲなんてださいことをしてる連中が気に食わないから、殴り倒した……と。
そんな話を聞いた。
天塚は、なんだかなんだで優しいヤツだ。
俺は、そのことを知っている。
相手を気に食わないとか言っているが、本当は、被害者を助けるための行為だったんだろう。
そう信じている。
いや、確信してる。
「なんだ、そういうことか」
「疑わないの?」
「ウソなのか?」
「そんなことねえけど……」
「さっきも言ったが、俺は天塚を信じてる。天塚の味方だ。だから、よく話してくれた」
「えへへ♪」
うれしそうに笑う天塚。
「そういう事情なら、相手の抗議を受け入れる必要はない。もちろん、暴力はいけないが……今回は、相手に非があるからな。うまいところで話をまとめることができるだろう」
「ありがと、先生。いつも助けてくれて」
「そう思うなら、手のかかるようなことをしないでくれ」
「あいたっ」
ぽこ、と軽くげんこつをして、今回の罰としておく。
「もう帰っていいぞ。後は、俺がなんとかしておく」
「なんとかする、っていうのは、すぐに動くのか?」
「いや。他の先生方が全員残っているとは限らないからな。それに、裏付けもとらないといけないし……後日の職員会議で話をして、それから証言などをまとめる、ってところか」
「なら、今日はもうヒマなのか?」
「ヒマってわけじゃないぞ。テストの採点に授業の準備。雑務に、色々とやることがある」
「ちょっとくらい時間ない?」
「少しくらいなら構わないが……なんだ? 何か話でもあるのか?」
「話っていうか……千歳と一緒にいたいな♪」
突然、名前で呼ばれて、思わずドキッとしてしまう。
天塚は、普段は猛禽類のような雰囲気を発しているくせに、今は、とても穏やかだ。
いや。
穏やかというよりは、女の子らしく、素直にかわいい。
頬を染めて、甘い瞳をして、チラチラとこちらの様子をうかがっている。
もじもじとしてるところが、庇護欲をそそられる。
天下の不良も、今は乙女だった。
「ちょっとだけ、千歳の時間をちょうだい? ね、いいでしょ」
「しかしな……」
「ここなら、あたしたち二人だけだよ。他の人に見られる心配はないよ」
口調も変わる。
変わるというか、元通りになる。
本来の天塚は、こういうかわいらしい女の子なんだ。
「少しの間だけでもいいから、千歳と一緒にいたいな♪ 何をするわけでもなくて、ただ、同じ場所で一緒の時間を過ごして……そうしたいの。ダメ?」
「ダメ、ではないが……しかしだな、教師と女子高生がそういうことは……」
「今更、そんな話をするの? やっぱりナシ、なんて話はダメだからね?」
天塚は笑顔で言う。
「だって、あたしと千歳は恋人なんだから♪」
不良生徒を更生させようとしたら、告白されて付き合うことになった。
なぜこんなことになったのか?
順を追って説明しようと思う。
第一話、読んでいただき、ありがとうございます。
教師と生徒の恋愛話です。
現実になさそうだからこそ、こういう話はいいですよね!
今回はプロローグなので、次回から話がちゃんとスタートします。
プロローグでは、二人の関係を覚えてもらえたらと。