現世(うつしよ)と隠世(かくりよ)の狭間
明晰夢を文字に起こしてみました。
快晴だった。
雲一つ無い空を仰ぎ、二人の少女はあどけなく笑う。
ここは……田園だ。辺り一面、遮るものもない、ただただ田んぼが広がる光景。
「ここにいる私は、本当に私なのかな?」
「はは、量子力学って怖いねぇ」
何を言っているか、何が言いたいかは掴めない。
田んぼには、脚が八本生えた、蜂とも蜘蛛ともてとれない、何とも奇怪な生物が羽音を青空に響かせていた。
ふと、近くの民間から、幼少の頃から苛めてくる少年が現れる。
「あっ」
「気付いたね」
あちらは少女達を認知したようで、にたにたと下卑た笑みを浮かべながら、早足でこちらに向かってくる。
「まずいね」
「山に登ろうか」
逃げる、逃げる。
後ろは見ない。が、恐らく少年もそろそろ諦めるだろう。
しかし、何故か自分は山を降りる選択はしない。したくない。
少女たちは己の限界? いや、自存? それをぼんやりと考え、無言で山をかけ上がっていく。
その仮の逃避劇は思ったよりも早く終幕を迎えた。
「なんだろ……これ」
「壁かな? 土っぽいねぇ」
恐らく土で出来ているだろう、目測でも相当な高さがあると見てとれる壁が道を塞いでいた。
「うーん」
「あ、見て、動いてる」
少女が指差したのは、土の中に埋もれていたコンクリート。確かに、震え動いているように見えた。
それは遂に土の戒めをとき、中身を露見させる。
美しい少女だった。しかし、同時に儚くもあった。
「あっ」少女が声を上げる。
「どうしたの?」
ふふ、と何が可笑しいのか、その美貌に笑みを浮かべ、
「これ、私だ」
きょとん、とする少女。しかし、すぐに傍らの少女に勝つとも劣らん美貌を歪め、笑った。
日は西に傾いていた。少女達は顔を見合せ、頷き合い、笑い合う。
「帰ろっか」
「そうだね」
少女は、どこから取り出したか木の棒を振り、来た道を引き返していく。
全てが朧気になっていく。
………………………………快晴だった。
お楽しみいただけましたか?
「訳が分からない」と感想を抱いた方はそれが正常だと思います。