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『第三魔王』とその眷属は『外界より来たりしモノ』と呼ばれた。

 ……同じように、『第二魔王』『第一魔王』と各々の眷属にも、それぞれ異名がある。



『第二魔王』とその眷属は『非生物種』と呼ばれた。

 それは、武器が、鎧が、あるいは鉱石そのものや宝石などが核となり、人類に害を成す存在となったことに起因する。

 生命なきものから生じた生命――それを人類は『非生物種』と呼んだのだ。



 そして『第一魔王』とその眷属は、人類に似ていたという。

 連中は人類のような顔をして、時には人類の誰よりも美しかった。

 けれど、人類とは決定的に違っていた。


 第一魔王には『エルフ』と呼ばれる眷属がいた。

 彼らが人とみなされなかったのは、領地が魔王側であったことと、その長命ゆえの思想の違いであろう。

 二百年三百年を生きるエルフたちは、人類――人間と思考のペースが違いすぎたのだ。

 数人生き残ったエルフも、遠からず征伐され、殺された。

 だから今の世に、エルフはいない。


『フェアリー』と呼ばれる眷属もいた。

 彼らは小さすぎて、そして、思考が子供すぎた。

 イタズラが大好きで、じゃれついた相手を殺してしまうこともあったし、もっとひどいことも日常的にやった。……力は弱かったけれど、操る魔術は強力だったのだ。

 その思考形態と強大な魔力ゆえに人間との共存が不可能だった。

 だから今の世、フェアリーは『第一魔王時代の魔族』として伝わっている。


 他にも、『人のようで人ではない種族』がたくさんいた。

 ……あるいは、それらもまた『人類』だったのかもしれない。


 獣人は生き残った。

 ドワーフもまた、人類の功労者と呼ばれ、生き残った。

 彼らは寿命が人間に近く、そして考え方が人間にも理解できる、あるいは理解せずとも利になる種族であったのだ。


 ――第一魔王の時代。

 なにが基準で『敵』と『味方』が分けられたか、明確な答えを抱く者はいないだろう。


『第一魔王』と今の人類が呼ぶ存在は、脅威ではなく、話し合いにより共存できたはずの異種族だったのかもしれない。

 けれど、寿命や考え方の違い、あるいはシルエットの違いにより、『魔』の名をあたえられ、滅ぼされた、異種族だった。


 人と似た、魔。

 ゆえに、第一魔王とその眷属は、このように呼ばれる。


 ――『魔人』、と。




       ◆




 青年が見る予定だったのは、心を串刺しにされ、精神を絞り尽くされ枯れ果てる少女の姿のはずだった。

 たしかに、神の触手は少女の心に刺さっていた。

 アシュレイたちに刺さっているものとは比べものにならないほどの吸引力を持つ、触手。


 それが――止められている。

 吸引を止められ、さりとて抜くこともできず、少女の心にとどまり続けている。



「なんだ、お前は」



 青年は問う。

 少女はなにかを述べた。

 だけれど、耳をつぶした彼には聞こえない。


 聞こえるのは神の胎動のみ。

 どくんどくんと脈打つ、熱き福音のみ。


 そうだ、この身はすでに恩寵により満たされている。

 なにも怖れることはない。ただ幸福を取り戻すために突き進むだけ。


 そのはずが。

 ――なぜだろう、底知れぬ恐怖を、あの幼い獣人から、感じる。



「……なんだ、お前は!」



 己の声さえ聞こえない。

 だけれど彼は問いかけ続ける。


 ――その答えは。

 視覚によって、もたらされた。


 ――空気が凍り付くような感覚。

 少女の体がにわかに輝きを増す。


 それは夜空に浮かぶあの天体のような。

 さむざむしい白銀の輝き。


 吹き荒れるものはなにか?

 魔力か、あるいは冷気か。


 凍えそうなのはなにか?

 体か、それとも心か。


 わからない。なにもわからない。なにも聞こえない。

 ただ、ここにいてはいけないと思う。今この場所にいるのは間違いなんだという強い焦燥感だけが、彼の体を震わせる。


 でも、立ち去ることができない。

 目を離すことも、できない。



 だって、その化け物は美しすぎたんだ。



 吹き荒れる『なにか』の中心で、神の触手に突き刺されたはずの幼い獣人が動く。

 それは無造作に触手を握り、ばきん、ばきん、と、まだ顕現していないそれを、ツララでも砕くように簡単に折っていく。


 絶大すぎる、腕力。

 強靱すぎる、精神力。

 ――ただ強い。それだけ。


 白銀の獣人。

 一本だけだったはずの尻尾は、いつしか九本に増えていた。


 ……いや、尻尾に見えるだけだ。

 まるで物体のようにたしかな存在感を持っているだけで、あれは、魔力の塊だ。あまりにも膨大な魔力が少女の体のまわりで、尻尾のようなかたちで具現化しているだけ。


 息詰まるほどのプレッシャー。

 おぞましくない。美しい。

 嫌悪感はない。すべてを差し出してしまいたくなるぐらい、魅力的だ。


 にもかかわらず、その強大さに圧倒される。

 あの小さな体に秘められた大きすぎる力を目の前にして、まったく動けない。


 少女のかたちをした力の塊。

 そいつは、いつの間にか目尻に赤い化粧(けわい)のほどこされた瞳で、真っ直ぐに青年を見ていた。


 視線だけで気が狂いそうなほどの色香。

 そいつの姿は――

 神を前に、人に似た、けれど決定的に違うシルエットを持った姿でこちらを見つめる、そいつは――



「……魔人」



 ――その脅威の名を思い出す。

 魔人は口元に蠱惑的な笑みを浮かべ、フッ、となにかを吹きかけてきた。


 それは、宝石の粉。

 発動したのは初歩の初歩、風を起こすだけの魔術――人でも簡単に成せる業。


 ――それに膨大すぎる魔力を上乗せされたものが、彼の崇める『神』を粉々に打ち砕いた。

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