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 痛みはない。

 皮膚が裂けたわけでもなく、内臓が貫かれたわけでもない。

 その『舌』は心に刺さっている。


 ――あまりにもおぞましい。

 自分の心に知らないモノが――わけのわからない生物の一部が、突き刺さっているのだ。


 四肢を縛り付けられた状態で、どうにか抜こうともがく。

 けれど、もがけばもがくほど、舌はうねり、よりアシュレイの深い場所に刺さろうとその身をねじいれてくる。


 そして――

 ついに、舌の一本、その先端が『心』の大事な部分に刺さった。



「うううううん!?」



 思わず声が出る。

 腰がビクビクと跳ね、四肢をしばった縄がギシギシと揺れた。


 それは快楽だった。

 あるいはそれ以上のものだった。


 わけがわからない。

 頭の中でなにかが弾けて、すべての景色が白んでいくような感覚。



「やめっ……んんんんん!」



 舌が心でうごめくたび、快楽が押し寄せる。

 呼吸もままならない。


 口の端からはよだれがこぼれ、目の端には涙が浮かぶ。

 舌がもぞりと動くたび、アシュレイの腰は跳ね、脚からは力が抜けていく。



「……っ」



 それでもアシュレイは、声だけはこらえようと思った。

 唇と髪を噛んで、ぶるぶると全身が震えるほど力を込めながら、声だけは、どうにかこらえようとする。



「……ふぅ……! ふぅぅぅ……!」



 口の端から荒く息をつく。

 舌の責めは容赦がなかった。


 心の深い場所、それも一番敏感な部分にその細く長い身をねじいれて、うごめき、あるいは先端でこすりあげてくる。

 わずかに身じろぎされるだけで、全身をゾクゾクとした快楽が襲う。

 強く動かれた時には、腰が勝手にガクガクと揺れる。


 でも、声だけは、耐えた。

 耐えてどうなるものでもない。けれど、この快楽に敗北するのだけは絶対に嫌だった。


 ――大丈夫、耐えきれる。

 ――この程度、つらくもなんともない。


 快感に全身がピクピクと痙攣するけれど、耐えて、耐えて、耐えて――

 耐えることで、希望を見出す。

 思考さえままならなかった頭が、この状況を抜け出すためにどうすればいいか、動き出す。


 ――なんだ、ぜんぜん、いける。

 ――どうにかして、妹を、助けないと。


 アシュレイは決意し、状況を確認しようと意識を周囲に向けた。

 ――そして、気付いてしまう。


 ――周囲には無数の『舌』。

 たった一本でアシュレイから思考さえはじき飛ばすほどの快楽を――あるいはもっと怖ろしくおぞましい感覚を与える、その舌が、十や二十ではきかない数、先端を彼女に向けて、



「……あ、あ、あ」



 絶望に震える。

 目の端からこぼれた涙が、シーツに落ちて――


 ざくざく。

 彼女の胸に、たくさんの『舌』が突き刺さり、一斉になにかを吸い出そうと心をまさぐり、敏感な部分に突き刺さり――



「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 彼女は絶叫して、気を失った。




 ――だから、これから起こるのは、彼女のあずかり知らぬこと。

 開かれるホールの扉。


 振り返る狂った青年。

 彼が見たものは――



「こら! あなた、『悪い子』ね!」



 ――母親みたいなことを言う、銀色の体毛を持った、幼い獣人の、大きなリュックを背負った少女だった。

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