もう一つの顔
薄暗い部屋に、数人の男女が集まっていた。
コンクリートの冷たい壁、配線がぐちゃぐちゃになっているケーブル。パソコンやテレビなども置かれていた。
突然、一人の男が音もなく現れた。
「やっと来たか」
無造作に置かれているソファーに座っている男が待ちくたびれていたように言った。
「あぁ、すまない」
先ほど来た男はポケットに手を入れて壁にもたれる。
薄暗い部屋に今は五人いた。
パソコンを使っているカラフルなフードをかぶっている女の子が突然笑う。
「その様子じゃ、新人魔術師の確保は失敗したんだ」
と、続けて笑っている。
「そうだよ、相手魔術師の全員の知り合いらしくてな、しかも一人その中に妹がいて連れ込むのは無理だと判断した」
「そっかー、じゃあ仕方ないねー」
そのフードの女の子はかなり陽気な性格だ。
「それと、新人魔術師の代償は『寿命』らしい、下手に魔術は使えないはずだ」
「だが、それも厄介だな」
そう言いつつもソファーに座っている男は落ち着いているように見える。
「にしても、相手に気づかれずによくそこまで情報を集めたわね。忍びのセンスがあるんじゃないの?」
オカマ口調の男にそんなことを言われ苦笑いを浮かべる。
「生憎と忍者に興味は無いんでね、あとそろそろ帰るわ」
用件だけを済ませてさっさと帰ろうとする。
「それは残念ね」
何が残念なんだか……。
帰ろうとすると、ソファーに座っている男に話し掛けられる。
「鷹中、何かあったらすぐに報告しろよ、いいな?」
「分かってる」
ポケットから巣なの袋を取り出して、テレポートの魔術を使った。
そして、鷹中は薄暗い部屋から姿を消した。
「死ねよマジで、雑魚のくせーによー」
フードの女の子がパソコンのゲームに負けて機嫌を悪くする。
「柑奈、負けたからといって口が悪過ぎよ」
「うっせーな。てかもっちーは私のおかんか何か」
もっちー、というのは柏木柑奈が春望智に勝手につけたあだ名だ。
柑奈は、春望によく八つ当たりもするが、何かあればすぐに春望に相談もする。
本当の母と子の様な関係だ。
「そうだ、柑奈何か飲む?」
機嫌を直すために一つの提案をした。
「ココア!」
喉が渇いていたのか環奈は元気よく言った。
「春望、悪いが俺に珈琲を淹れてくれないか」
ソファーに座っている男が追加で注文した。
「分かったわ」
快く受ける。
そこに続くように先ほどからずっと黙っていた女性も追加注文をする。
「……お茶をください」
「いいわよ。それじゃ確認するけど柑奈はココアで陸翔は珈琲で和香がお茶ね」
三人は頷いた。それを確認し春望は一つ隣の部屋へと行った。