略奪者
気が付いた時には、繊月が雪音の胸倉を掴んでいた。
「別に雪の妹さんみたいに短気では無いんで殺そうとはしないけど、――何かな?」
繊月は掴んだまま話を続ける。
「何かな。じゃないわよ。代償が『寿命』って事さっき話してた時に教えたらいいじゃない。それにこれから魔術を使わないようにすればいいだけだった。なのに勝手にあんたが使ってんじゃないわよ」
繊月は、織音の事を思い怒っていた。
雪音も乱暴まではしないが頭に血が上っているようだった。
「怒る相手が違うぞ、私が雪の半月の寿命を削らなければ死んでいたんだ。雪の妹さんのブリガンテを叱るべきじゃないのか」
雪音の言葉は正論だった。
雪音が出てこなければ織音は日葉のブリガンテに殺されていいた。
削られるのは半月どころか、一生だろう。
雪音の言葉に、繊月も反論できずに悔しそうに黙っていた。
「分かったならさっさとこの手を離して」
繊月は手を離し三歩程下がった。
その状況を見かねて鷹中が動く。
「もういいだろ。今日はこれで終わろうぜ、そして後日また話せばいいじゃねえか。今日の事は他人には言わない事。そんじゃ俺は帰るぜ」
そういって鞄を持ち、ポケットから先程よりも二回りほど大きな袋を取り出して床に砂をばらまく。
突然、鷹中がばらまいた砂が宙へ浮かび竜巻のように鷹中を囲む。
砂が床に落ちて消えていく。
そこに鷹中はいなかった。
「今のはテレポートってとこか」
雪音が感心するように口をこぼす。
「私も帰るわ、また明日ね」
繊月は俯きながら玄関から出て行った。
「お兄ちゃん、ごめんなさい」
皆が帰って突然日葉が謝る。
織音も突然の事で動揺を隠せなかった。
なんて声を掛けるべきか迷っていると、日葉が続けて喋る。
「私は魔術を使わないようにはしているので安心してください、あとこれからご飯作りますのでお風呂とか終わらせといてくださいね」
そう言って、日葉は台所へと入っていった。
考え事をしながら湯船に浸かっていた。
すると突然声が聞こえた。
「雪、今大丈夫か」
「――大丈夫なわけないでしょ」
織音は湯船から飛び跳ね、動揺しオカマ口調になる。
雪音の笑い声が聞こえた。
「別に今、実体化しようってんじゃないんだ。話したいことがあってね、あと声に出さなくても会話は出来る」
そういわれ声に出さずに「どうした」と聞いてみる。
すると「さっきの事だよ」と声が聞こえ雪音と会話が出来ていた。
「雪の妹さんの代償は『己の代償』って事はだ、雪は別に自分の寿命じゃなくてもいいって事だよ」
「――そんなこと出来るか!」
また、湯船から立ち上がりつい大声を出してしまった。
「お兄ちゃんどうかしましたか?」
ドアの向こうで日葉の声が聞こえる。
「いや、何でもない」
「声に出さなくていいと言っただろうが」
「誰のせいだ」
おとなしく湯船に浸かる。
「さっきの事だがそれでいい、今他人の寿命と言い出したら今私が殺していた」
シャレにならない。
「にしても、ブリガンテか……」
「雪音は知らなかったのか」
夢の中ではブリガンテとは言わなかった。
「さっき初めて知ったよ」
声に元気がなかった。
「何かあった?」
「ブリガンテ、イタリヤ語で略奪者って意味さ」
勝手に代償を決められ、その代償を使う。だから略奪者なのだろうか。
理由がどうあれ、あまり心地の良いものではない。
「そろそろお風呂出るよ。雪音、また後で」
そこから雪音の声は消えた。