遅い想い出
結局、朝食となる物を食べた。
車の形をした屋台でホットドックを売っていて朝食に丁度いいと話し合いの結果決まった。
「シンプルながら美味い、サイコーじゃな」
「パンに具を入れてトーストしたって感じだな。確かにうまい」
ホットドック自体も熱く、ソーセージもパリッとジューシーでパンも外はカリッと中はふんわりしていた。
ありがちな表現だが本当に美味しかったのだ。
それからは、メリーゴーランドやゴーカートと落ち着いたモノに乗ったり、実際落ち着いているはずのコーヒーカップが荒ぶり、それに関しては全員がダウンしていた。
皆、今後は柑奈とは絶対コーヒーカップには乗らないと心から誓った。
気づけば夕暮れ時になっていた。
観覧車に乗るかという話をしていたが、織音がもう帰ろうといった。
織音の寿命はもう一時間も無かった。
遊園地の中で死ぬのは気が引けたのだ。
「そうだな、これ以上いても吐き続ける人が続出しそうだしな」
「そっかー今日は終わりか。にっちーまた来ようねー」
「はい、喜んで」
「その時は我も誘うがよいわ」
「じゃあ皆でコーヒーカップ乗るぞ」
「……やっぱり我はよいわ」
「えー」
彼女たちの笑顔を見る事が出来て満足だった。
冴月が織音に話をかける。
「あとどれくらいだ?」
「もう数十分じゃないかな。詳しくは分からない」
「――本当にすまない。私の力不足だった、将来の事はまかせろと言っておきながら結局何もできなかった」
「いえ、冴月先生がいたからこそ俺は強くいる事が出来ましたよ。じゃないと今も『死者を生き返らせるモノ』を求めていたと思いますから」
「……」
冴月が織音の頭にポンと手を乗せ、出入り口の方へ歩いて行った。
「早く来ないと置いていくぞ」
冴月の後ろを皆が付いて行った。
まっすぐと道を歩き、夕日がその道を彩る。
青色に光る横断歩道を渡ろうとしたところだった。
織音が何かを感じ皆の方を振り返る。
「楽しかった。俺は皆に出会えて支えてもらって本当に幸せ者だな」
「急にどうしたんですか?」
日葉が織音に対して聞く。
他の人たちはもう何が起きるのかを察したらしい。
「さて、私もだ。雪に出会えてよかった、雪には笑わせてもらったりいろいろ教わったり面白かった。サイコーだったよ相棒(雪)」
「俺もだ、相棒(雪音)」
日葉はまだ不思議そうな顔をしていた。
「その雰囲気本当なんだね。雪君、今までありがとね。雪君と知り合えてよかった」
繊月は笑っていたのか泣いていたのか織音には逆光で分からなかった。
ただ、ガンッ!と右から鈍い音が聞こえた。
織音が音のする方を見ると、横転寸前のトラックが向かってきていた。
「楽な死に方ではないな。楽しかった……ただ、最後ぐらいちゃんと兄として生きたかった……な……――――――」
避けたらもっと惨い死に方をするのではないか、そんなことを考えると動かずに死ぬ方がいいと思った。
トラックに撥ねられ電信柱に勢いよくぶつかる。それだけでは死ねなかった。
――痛いな……。
織音は目を開けた瞬間に一瞬の光が真っ黒に染められる。
トラックが織音の真上に倒れてきていたのだ。
避けた方が楽だったのではないか。と後悔するが遅かった。
トラックの倒れる騒音と生々しい音を響かせながら織音は死んだ。
「柑奈ちゃん、日葉ちゃんを頼んだよ」
雪音は半透明に消えながらお願いをする。
「任された」
雪音は柑奈の返答に笑いながら完全に消えた。
日葉がその場に倒れ込んだ。
「いくら覚えてない他人とはいえこれは衝撃が強すぎたようじゃな」
宵が日葉から目を背ける。
「違う……」
「……?」
「…………――お兄ちゃん……雪お兄ちゃん?嘘だ……嘘でしょ?…………私は、最後になんてことを…………」
「まさか思い出したのか」
日葉の言動に陸翔が反応する。
「あり得ない。魔術で消えた記憶は戻ることなど……じゃが実際に――」
日葉が今以上にパニックになる前に冴月が柑奈にお願いをする。
「視力が代償だったか、数時間だけで良い。日葉を眠らせることは出来るか」
「分かった。やってみる」
柑奈が日葉に近づく。
「にっちー、にっちーのお兄さんは恨んでなんかいないよ。だから少し休んで」
「ああ……お兄ちゃ――……」
「出来た。ざっと三時間ほどすれば起きるはずだよ」
「ありがとう」
陸翔は日葉を担ぎ、皆で車へ戻って行った。




