理解者
それから日葉や鷹中、繊月の話を聞いて少しずつ理解をしていった。
本当に魔術師はいるという事。
魔術師にはブリガンテという相方がいる事。
そのブリガンテとは夢の中で突然出会うということ。
魔術師には代償があるという事。
魔術は何でもできるが、同党の代償を払わなければいけないという事。
「そうなると、俺はもう魔術師で魔術が使える」
「そういう事。代償を忘れたってのが不安だけど、……もう学校には来なくていいから」
なぜそうなる。
魔術師でも鷹中や繊月は学校に行っているじゃないか。
「魔術師ってね、魔術師同士で殺し合いをやっているの」
織音の思考を止めたその言葉に警戒をする。
警戒心がもろに出たのか、繊月は誤解を解こうと必死に説明をする。
「別に雪君を殺そうなんてしているんじゃ無いんだ。こっち側へついてほしい」
これから殺す相手ならもうすでに殺されていると考え、話を聞くことにした。
それに今まで一緒にいた時間を嘘だと思いたくない。
「代償を払えは何でも出来るからって、人を殺しているんだ」
力を持てば人は変わる、という事だろうか。
「それを止めるには殺すしかない。殺さないと犠牲者も増えるし私たちも殺される」
「ちょっと待って、よく分からないんだけど」
違う、分かりたくなかっただけだ。
鷹中や繊月が人を殺している可能性があるという事を考えたくは無かった。
それに、話を聞く限りここにいる人は全員魔術師と考えられた。
「日葉、お前は違うよな」
冷汗が額を流れ、目が泳いでいた。
「私は魔術師ですよお兄ちゃん、その証拠にほら」
そういって胸に手を当てる。
繊月がそわそわしていたが誰も気づいていなかった。
いつの間にか日葉の後ろに、浴衣姿の金髪少女が現れた。
「これが私のブリガンテです」
「どうもだ、主の兄よ」
そのブリガンテはニヤっと笑った。
日葉はブリガンテを呼び出した時に代償を支払っていないように見えた。ブリガンテを呼ぶことには代償はいらないらしい。
「代償は無いのか」
「主の兄、主は代償を払っている」
代償は払わなければいけないらしい。だが何を代償にしたのだろうか。
胸に手を当てていたので服などかと思ったが何も変化はない。
繊月が説明をする。
「日葉の代償は『己の記憶』だよ」
記憶を代償に魔術を使うという事だ。
「そんなもの――」
認めるわけがない。
認めていいわけがない。
妹の記憶が消えることをそのままにしておくことは出来ない。
「認めるんだ主の兄よ、我を呼ぶことに関しては朝食は何を食べたかどうかぐらいの記憶だ。気にすることも無いだろう」
だとしても「はい」と頷けるわけがなかった。
「織音、お前の心配は分かる。だが大きな魔術を使わない限りは日葉ちゃんの大きな記憶は消えることは無い」
「何でそんな事を言えるんだよ」
「砂と記憶だと天秤に乗せたらどっちが重いかなんて分かりきった事だろ。小さな記憶でそれなりの魔術を使えるんだ」
どこの記憶を消える事が問題なんじゃない。
記憶が消える事自体が問題なんだ。
「実質主は、かなり大きな魔術を一度使って苗字を忘れた」
日葉のブリガンテの言葉に頭が真っ白になった。
「お兄ちゃん。でも今は皆さんのおかげで分かっています。織音、ですよね。まだ違和感はありますが大丈夫です」
何が大丈夫なんだよ。苗字を忘れる?名前を忘れて大丈夫なわけが無いじゃないか。それにもしかすれば、昔の大切な記憶も、忘れたくない人の事も忘れる可能性だってある。
俺と日葉の記憶だって……。
忘れてしまったら、誰を攻めたらいいのだろうか。そもそも日葉が魔術師になったのは誰のせいなのか、と織音が考えていると目の前に日葉が居た。
感情的になり、日葉のブリガンテの胸倉をつかむ。
この能動は織音が日葉を心配してでもあったが、一番大きく動かしたのは二人で支え合っていた時間を日葉が忘れてしまう事だった。
周りにいた鷹中や繊月が必死に止めるが。織音には届かなかった。
「なんのつもりじゃ」
日葉のブリガンテは冷たい声と共に睨みつける。
そして右手で織音の首を刺すように狙った。
あと少しで当たるという所で誰かが日葉のブリガンテの右腕を抑える。
「――雪音」
覚えている。
夢の中で会ったお姉さんがそこに立っていた。
「ごめんね、雪の寿命を半月削っちゃった」
織音の寿命を半月使い雪音は実体化したという事だ。
「ちょっと待って、寿命を半月ってどういう事よ」
繊月が慌てて雪音に問う。
「雪はさっき言っていなかったけど雪が代償にするものは、『寿命』だよ」