心の気持ち
「十一年も使ってしまったんですね。私が不甲斐ないせいで……」
「我が話せるのはこれくらいじゃな」
夢の中で、宵は日葉が寝てしまっていた間の事、織音がどんな魔術を使ったのかを、そして明日の事を全て説明した。
「明日は私も行きます。お兄ちゃんに魔術を控えるという約束を壮大に破られましたので、私のわがままくらい許してもらえますよね」
「我は止めはしないが、勧めもしない。話し合いで終わる確率など塩を一粒だけ掴めと言っているようなものだ。命を落とす覚悟、雪の命が落ちる覚悟はあるか?」
「……私は守りと回復は得意なので」
覚悟が出来ているかどうかの答えは濁らされたが、宵は繰り返し質問をしなかった。
宵は、織音の判断に任せる事にした。
ちょうどそこへ、雪音から夢の中で会えるかどうかの呼び出しが来た。
「主、少し待っていてくれ」
日葉は頷いた。
「やあ、宵ちゃん。話すことが少しね。……」
「丁度良い、こちらへ来ると良い」
許可を出した瞬間、宵は日葉に蹴り掛かるが雪音は腕で守った。
「その呼び方を止めろと言ったであろう」
「嫌だ」
もう一度雪音を蹴ろうとしたが、呆れてやめる。
「主、雪が来るそうだ」
「分かりました」
雪音は宵の近くに立ったまま、目を瞑る。
すると、雪音の近くに織音がぼんやりとうかび、時間が経つにつれてハッキリと形になる。
織音にとってはずっと目を瞑っているようにしか感じない。
「雪、もういいぞ」
雪音の合図に織音は目を開く。
「相変わらず、面白くないな」
「こんなものに演出を求めるな」
織音は一つ溜息を吐く。そして続ける。
「宵、この夢の時間だけで俺を強くしてくれ」
「戦う事しか考えておらんのか?どうあれ我は主たちを守るから――」
「待て、主たち(**)ってなんだ」
織音は宵の言葉を遮り、気になった単語を聞き返す。
「そのままじゃ、主に先ほどの事を話しておいた」
「はい、それで私はお兄ちゃんについて行きます」
日葉は織音にもはっきりと行くと口にする。
「駄目に決まってるだろ」
「……何で?」
「何でって危ないからに決ま――」
「何で!」
日葉は織音の言葉を大声で無理やり遮り続ける。
「いっつもそうじゃん。小学校の時から何にも変わってない。一人で全部背負って私たちを頼らない。何で?私たちが邪魔だったの?私は女だし、年下だから頼りないかもしれないけど健お兄ちゃんは違ったでしょ。それでも頼らなかったのは邪魔だったからなんじゃないの?」
「違う」
「違わないよ!家に帰ってくるお兄ちゃんを見る事どれだけ苦しかったか知ってる?傷だらけで服は泥まみれだったのに、それでもお兄ちゃんは笑ってた。その笑顔がどれだけ私にとって苦しかった分からないでしょ。もう、あんなお兄ちゃんを見るのは嫌なの!」
「だって……心配させたくなかった……から」
「心配させたくないって何?その無理してる時の表情を見る方が心配だった。何で分かってくれないの、今だってそう、私との約束を破って一人で背負ってまた無理してる」
「約束を破ったことは謝るよ、ごめん。でも無理はしてない」
「また嘘ついてる。お兄ちゃんだけは失いたくないってなんで分かってくれないの?小学生の時も、いつかいなくなるんじゃないかって怖かった。好きなの、お兄ちゃんが大好きなの。だから……遠くに行かないでよ……」
日葉は最後泣いていた。
袖で何度拭いても流れる涙は止まらなかった。
日葉の言葉を全て織音は受け止めた。
織音は日葉に近づき抱きしめる。
「ごめん本当、馬鹿だな俺は。今まで気づいてやれなかったんだ、昔も今も自分の事ばっかりで何も分かってなかったんだろうな。俺も日葉を失いたくない」
「うん……」
「来ないでほしい。これは本当に日葉を失いたくないから」
「行かないでほしい。私もお兄ちゃんを失いたくないから」
「だったら、俺はお前を守る」
「はい、私はお兄ちゃんを守ります」
織音と日葉は顔を見つめ合う。
「一部だけ切り取ると、お前ら結婚するみたいだな」
「え?」「は?」
織音と日葉は雪音の方を見て、顔を真っ赤に染める。
「え、あ、いや、違いますよ。大好きとは言いましたがそういった意味ではなく」
「失いたくないし、大好きだが妹としてだ。当たり前だろ!」
動揺をして何を言っているのか分からなくなる。
「それは分かってるよ、ただそう見えただけだ」
雪音はそれでもからかい続ける。
「うるせー。宵、さっさと始めんぞ」
意識を違うものに集中させるべく、本来の目的を実行する。
「それでよいのか?我は構わんが」
「頼む。本気で行ってやらぁ!」
織音は叫んで気合いを入れる。
「主もこい。二人で我を殺してみせよ」
「分かりました。お兄ちゃん行きます」
「おう!」
兄妹は宵に本気で殺しにいった。




