染まる心
それからの事、焼きそばだけでは飽き足らず、たこ焼きに綿あめ、リンゴ飴とたくさん食べて、金魚すくいをしたりお面を買ったりしていた。
金魚すくいは一匹だけ雪音が獲った。
お面を宵と日葉が頭につけて笑っている。
煙草禁止と言われていたのに、冴月は煙草を吸っている。
「あと五分で花火が上がるってさ」
繊月が皆に伝える。
「それじゃ、駐車場に戻るか」
一人は煙草を吸いながら。
一人は妹と話しながら。
一人はリンゴ飴を食べながら。
一人は空を見上げながら。
一人は綿あめを頬張りながら。
一人は袋に入った金魚を眺めながら。
一人ひとり違う事をしながら歩く。
三分ほどで駐車場に着き、冴月の車の近くで皆が同じように空を見上げていた。
「これは、鷹中お迎えコースだな」
あと二分になっても鷹中から連絡は来なかった。
「もう行くんですか?」
「そうするよ、すぐに帰るからここで綺麗な花火を眺めていると良い」
繊月の問いに笑って答える。
冴月は車に乗り込みエンジンをかける。
「お気をつけて」
繊月が見送ると、冴月は車の中で右手を少し上げて車を走られていった。
冴月の車が見えなくなった時に丁度、身体に響く大きな音が鳴り響く。
見送っていた繊月も空を見上げる。
暗い空にピンクや緑の花が舞う。
花火にはテーマがあり、このテーマは『四月の別れ』だった。
桜をイメージした花火だそうだ。
季節の問題は置いておいて、各自花火を楽しんでいる。
静かに切なく消える花火の後に大きな花火が新しい出会いを思わせる。
車一つひとつに反射している花火もなかなか綺麗なものだ。
「綺麗ですね」
「そうだな」
日葉と織音が一言だけ言葉を交じり合わせる。
花火はまだ続く。
「なぁ、雪。綿あめをもう一つ買ってくれんか」
織音が花火を見る事に浸かっていると、宵が食べ終わった綿あめの棒を持ちながら彼にねだる。
「仕方ないな。……ちょっと行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
織音と宵は屋台の方へと歩いて行った。
二人が屋台の方へ行き少し時間が経った。
「不満そうな顔だな」
雪音が日葉の顔を見て声を掛ける。
「不満と言いますか、宵が私から離れている感じがして悲しくなっていると言いますか……」
「宵ちゃんなら少しは恥ずかしくないからそう言ってるけど、本当は雪が宵ちゃんにとられたように感じて嫉妬しているんだろ」
日葉の頭の上に白い煙が出ているように感じさせるほど、一瞬にして顔を赤くさせた。
「そ、そそ、そんなわけ、無い……です」
駄弁っていると、織音と宵は帰ってくる。
「ん~、この甘さと溶ける感覚が堪らんな」
宵は綿あめを頬張りながら歩いて来る。
「おかえりなさい」
日葉の言葉に宵は反応する。
「主、花火はいいな」
「そうですね」
「一口食べるか?」
宵はずっと日葉に見られて、綿あめが欲しいのだと思い、差し出す。
「じゃあ、一口いただきますね」
本当は違う。
兄である織音雪が宵にとられたと感じ、嫉妬しているだけだ。
宵は、日葉の赤い耳を見て首をかしげていた、
そこに、冴月の車が目の前に止まった。
帰ってきて、ドアを開けてずっと織音たちを見ていた。
いくら待っても鷹中は降りてこない。
よく見るとどこにも乗っていなかった。
「冴月先生、鷹中はまだ用事が終わってなかったんですか?」
「……」
「先生?」
織音の質問にすぐに冴月は答えなかった。
冴月は織音から目をそらす。
「――すまない」
織音と繊月が目を合わせるがお互いに不思議な顔をするだけだった。
「鷹中は、相手の魔術師に……私の弟たちに殺された」
花火の音も何も聞こえなくなった。
日葉は冴月の言葉に力が抜けてその場に座り込む。
繊月が一歩、また一歩と冴月に近づく。
織音は殴る気なのだと思って急いで止めた。
『夢』ただその一文字を織音は口に出し魔術を使った。
それはこの場を落ち着かせる為でもあった。
繊月と日葉は眠らせた。宵と雪音と冴月には掛けずに車の中に全員を乗せた。




