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生命魔術と想い出  作者: 紗厘
第四章 ~始まりの夜花(はなび)~
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一安心と休息

 車が止まり、窓の外を見渡すとそこには一面に海が広がっていた。

 雨が降っているからか、人影の一つも見えない。


「ちょうどいいな、さっさと回復させて来い」


「ありがとう」


 春望は環奈を抱え、海辺へと向かった。

 死んでいなければ、魔術の代償である『水』だけで腹部の傷の修復、視力の回復は可能だが、もし死んでいれば水だけではどうにも出来ない。

 まだ柑奈に温かみは残っている。


 柑奈を海岸ギリギリに寝かせ、春望は海に足をつけて正座をする。

 春望は柑奈の腹部に両手を揃えて置き、目を瞑る。


 大きく息を吸い、吐き切り目をゆっくりと開く。


 目を開く瞬間に、海水が数多(あまた)の蛍のように飛び交う。

 その光全てが柑奈を覆いつくす。


 気が付けば海水が使っていた足には海水は無く。半歩程後ろに広く広がる海がある。

 決して、潮が引く時間ではない。海水は魔術の代償として消えたのだ。


 前から陸翔が歩いて来る。


「二人とも頑張ったな、ゆっくり休むと良い」


 魔術は代償だけでなく体力も消費する。

 春望にとって今回の魔術は大きなもので、立ち上がる事が出来ないほどに疲れている。


「そうさせてもらうわね……」


 死んでいくかのように春望は倒れて眠った。


 陸翔は一人づつ、さきに環奈を後に春望を車へ運び、廃墟の喫茶店へと戻って行った。



 織音は自室からリビングへと戻ると、日葉は窓の外を眺めていた。


「どうかしたのか?」


 声を掛けると日葉は窓の反射越しに織音を見た。


「明日大丈夫でしょうか……」


 明日は花火があり、皆で一緒に見に行く約束があった。

 今は確かに大雨が降っているが、天気予報では明日は晴れだ。


「そう心配することは無いだろう」


 日葉を見ながら微笑む。


「……だと良いんですけど」


 その不安な気持ちも分からないわけでは無い。

 何せここ最近は天気予報と違う天気の方が多い。

 今日だって予報では晴れだったはずなのに、外は大雨だ。


「そうだ日葉、てるてる坊主でも作ってみるか?」


 織音のてるてる坊主を作ろう、という突然の案に日葉は笑てしまう。


「いいですね、てるてる坊主なんて小学生以来です」


 家にいてもやることも無いので、楽しいかどうかは置いておいて出来そうなことをするしかない。


 早速準備をして、テレビの前のちゃぶ台を二人で挟むように座る。

 ティッシュを丸め白い布で包む。

 首元を赤い紐で結んで顔を描いている時に目の前から替えが聞こえた。


「出来ました」


 日葉のてるてる坊主を見ると、形も良く青色のリボンも綺麗に結べていた。しかし、顔は描かれていなかった。


「顔を書き忘れてるぞ?」


「正しくは描いていないんです。晴れてほしい日の前日に作って後日に顔を描いて捨てるんだそうですよ。知ってから作る事も無かったですし一度くらい作ってみようかと思ったんです」


「物知りだな。俺はもう描いたからこのままいくとするか」


 学校に行かずに家にいる時にテレビでも見て知ったのだろう。


「はい」


 笑顔で織音を見る、

 その何気ない動作がなぜかかわいいと感じ、てるてる坊主に視点を変えた。

 顔を描き終わる。


「よし、吊るすか」


 立ち上がると、日葉が止める。


「あの、昔から吊るす事には抵抗があって……」


 言われて思い出した。

 小学生の時に家族みんなでてるてる坊主を作った時に、


『首を吊るしてるみたいで嫌』


 などと、日葉は小学生にしてはなかなか残酷な事を言っていた。織音は昔の事を思い出し微笑む。


「そこは今も昔も変わらないな」


「良いんですよ、これで」


 二人笑いあいながらカーテン近くの棚の上に二つのてるてる坊主を飾った。

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