楽しむ朝食
「速報です。今朝、住宅街近くのトンネルに女性の遺体が発見されました。その遺体には血液となるものが無くなっていたとの情報です」
「実に奇妙な事件ですね。このトンネルは普段人が通ることが無いトンネルらしいですからね。えー、皆様も人気の無い場所、夜の外出は控えた方がいいかもしれませ――」
朝食を食べていると、目の前に座っていた日葉がテレビのチャンネルを変える。
「女性の変死体という事ですが、実際にこんなことが可能なのでしょうか」
「普通じゃありえませんよ、ですが実際に――」
日葉はまたチャンネルを変える。
「これで三人目なんですよね。犯人はどうやって血液を全て――」
ついに、日葉はテレビの電源を切った。
「同じニュースばっかりですね」
日葉は楽しいテレビを見たいのに、どれも不気味で不吉な同じニュースが流れていることに腹を立てる。
「仕方ないさ、それだけ不可解な事件なんだよ。テレビだけじゃなくて、新聞にも、ほら」
隣に置いてあった新聞紙には大きく一面に『不気味な変死体。』とタイトルが書かれていた。
それを日葉に見せると、日葉は織音から新聞紙を乱暴に奪い取り、隣へ置いた。
ごはんを食べながら、日葉に気づかれないように雪音と話す。
「これ、どう思ってる?」
「九分九厘、魔術師の仕業だろうな。恐らく『血液』が代償になっていると考えられるが……」
雪音は話を止める。
「どうしたんだ?」
なぜ話を止めたのか、何か言えないような理由があるのだろうか。
「お兄ちゃん、どうしたんですか?今日はやっぱり味が薄かったですかね」
日葉は織音が腕を止めていたことが気になり、それが今日のご飯の事だと思ったらしい。
「そんなことないよ、いつも通りおいしい。ただ少し考え事をしてたんだよ」
「……そうですか」
日葉の曖昧な返答を横目に、織音はかぼちゃスープをスプーンいっぱいにすくって口へ運んだ。
「雪、さっきの事だが犯人が魔術師ならば『血液』が代償な事は確実だ。だが二日で三人分の血液となるとよほどの魔術が使用されている。そんな魔術が一体何なのかが気になっただけだ」
血液というのは生命に関わり、使える魔術は強力な魔術になるはずだ。
それを二日のうちに三人分の血液を使う魔術など想像するだけでゾッとしてしまう。
「ごちそうさま」
また考えていると日葉はもう食べ終わっていた。
「体調が悪いなら、無理しないで食べなくてもいいですからね」
あまりにいつもより食べるスピーとが遅い織音を見て、日葉は体調が悪いと考えた。
「大丈夫だ。ありがとう」
あまりに短い時間に大きな出来事が起き過ぎて疲れ気味な事も事実だ。
スープを飲み、食パンをかじる。
食べ終わりキッチンへと食器を持っていく。
「ごちそうさま」
日葉に食器を渡して、ふきんを取って洗った食器を拭く。
「こうやって手伝ってくれるのは久しぶりですね」
嬉しそうに織音を見る。
織音はその嬉しそうな顔を見て笑顔になる。
「最近はご飯を食べたらすぐに学校に行ってたからな」
今日から学校に行くことはもうないだろう。
この魔術師同士の殺し合いがどのようなモノかは分かりもしないし、いつまで続くのかもわからない。
一週間なのか、一か月なのか、はたまた一年を超えるのか何も分からない。たとえ、一週間だとしても高校に戻ることは出来ないだろう。
冴月は今後の人生は保証すると言ってくれた。今はその言葉を信じるしかない。
「お兄ちゃん、そこのソファーに転んでください」
「まだ、食器洗い終わってないぞ」
「いいですから」
日葉は何か覚悟を決めるようにリビングのソファーを指差した。
戸惑いながらも、日葉の言われたようにソファーにうつ伏せに転ぶ。
「これでいいのか?」
日葉に聞くと、急に織音を跨いで座る。
「な、何やってんだよ」
日葉の行動に驚き振り向くように織音は彼女の顔を見る。
「こっちを見ないでください。私だって恥ずかしいので……」
日葉はほっと頬を赤く染め目をそらしてもじもじとする。
「じゃあ、やらなくていいだろぉ」
日葉の言動に織音まで恥ずかしくなってくる。
「何でもいいですから、あっち向いてください」
子供のように腕を振り、頬をより赤くする。
だったらやらなくていいのに、と思いながら織音は言われたように目の前の窓を見る。
じっとしていると、背中に手が置かれる。
マッサージかと思ったが何かが違った。
じんわりと全身が心地よい何かに包まれるような感覚になる。
目を閉じれば外の音は全て消えて広い草原に一つの大樹があり、その下で眠っているとうな風景が浮かぶ。
背中を二度叩かれる。
「お兄ちゃん、起きてください」
気持ちよくて寝ていたらしく、日葉に座られたまま起こされる。
「あ、ごめん」
「いえ、どうですか?疲れは楽になりましたか?」
今のものはやっぱりマッサージだったのだろうか。体を動かそうとするが日葉が背中に乗っているせいで動けない。
「ちょっとどいてもらっていいか」
苦笑い交じりに言うと、彼女は無意識だったらしくあり得ないほどのスピードでどける。
そこまでされると傷ついてしまう。
悲しみを感じながら立ち上がり腕を回してみる。
先程よりも全然軽く、疲れも無くなっていた。
「日葉、何したんだ?」
「ただ背中に手を置いただけですよ」
そんなわけが無い。
何かツボがあるにしても押すなどするはずだ。考えていると、また一つ可能性が出てきた。
魔術ならこれぐらい簡単だろう。
「日葉、まさかとは思うが今乗って魔術か」
「……うん、今のは『リフレッシュ』って魔術です」
怒られると思ったのか、日葉は下を向きはっきりとは答えなかった。
織音は自分のためにやってくれた事だと分かっていたので、怒るつもりは無かった。
元を言えば、疲れている素振り(そぶり)をしている事が悪いのだから。
なんとなく日葉の両頬をつねり左右に引っ張る。
「おひいひゃん(お兄ちゃん)、ひはいへふ(痛いです)」
両頬をつねられて上手く喋れていない日葉がおかしく思え、笑ってしまう。
「わはっへはいへ(笑ってないで)、はへへふははい(やめてください)」
なんとなく織音に伝わり、指を離す。
日葉は分の頬を撫でながらこちらを涙目で睨む。
「何でこんなことするんですか。かなり痛かったんですからね」
「ごめんごめん、でも面白かったから」
笑いながら誤ると、日葉は織音の横腹を本気で蹴った。
「お兄ちゃんが悪いんですからね」
そう言って、気絶気味の織音を置いてキッチンへと皿洗いの続きをやりに行った。




