居残り補修
家にいると暇なものだ。
鷹中と冴月は相手魔術師の偵察に行くと言い家を出て行ったが、なぜか冴月はまだ家にいる。しかも冴月は家のテレビを勝手に点けてお茶を飲みのんびりとくつろいでいた。
失礼だと思う。いや、失礼だが聞く。
「いつ帰るんですか」
冴月は片手にお茶の入ったコップを持ったままこちらを見る。
「いつ帰ってほしい」
「今すぐです」
迷うことなく即答だった。
「それは流石に悲しいな」
「……」
ただ冴月を黙ったまま見つめていた。すると、冴月はコップをテーブルに置く。
「まず一つ、これは勘違いしていないかの確認だ」
「また授業ですか」
「補修だ」
魔術の事なら知っておいた方がいいので聞くことにした。
その補修の内容は、繊月についてだった。
今日、冴月が急いできたのは繊月の事と察していたらしい。
なせあれほど冴月が必死なのか。それは親を亡くしたことが原因で過度な心配性になっているという事だった。
生死が関わった争いをする上に、織音兄妹は『寿命』と『記憶』だ。寿命はそのまま死に繋がり、記憶は家族を忘れるという繊月の心配と不安を煽ってしまっている。
「だから、勘違いしないでほしい。彼女は君たちを心配しての事なんだ」
「それは分かっていますから大丈夫ですよ」
確かに最初は苛立ちを覚えていた。しかし、今はもう分かっている。
「そうか、ならよかった」
「もう終わりですか」
正直、早く終わってほしかった。
冴月はコップに入っているお茶巣全て飲み干す。
冴月は人差し指を立てる。
「あと一つ」
「……はぁ」
「そう溜息を吐くなよ。日葉お茶頂戴」
「はーい」
キッチンの方から声がして、日葉がお茶の入ったボトルを持ってくる。
冴月のコップにお茶を継いだ後、織音の方を見る。
「お兄ちゃんもどうですか」
「もらうよ。ありがとう」
「はい」
日葉は笑顔を見せて、コップにお茶を継いだ後またキッチンへと戻って行った。
「もう一つは、もしかすると鷹中を殺す事になるかも知れない」
その理由を聞こうとした瞬間後ろから口を誰かに抑えられた。
後ろを見ると宵だった。
「主の兄、そやつがなぜ今言ったかを考えろ」
そう言われ、冷静になり考えてみる。俺にしか話せない内容なのだろうか。
そう思ったが、違う所に意識が飛ぶ。
なぜ、雪音ではなく宵が止めてくれたのか。
雪音を見るとテレビを見て興奮していた。
何をやっているのだろうか……。
頭を抱える。
冴月は話を続けた。
「さっきはスパイをさせているといったな。しかし二重スパイの可能性が無いわけではない」
「それって、鷹中が俺たちを売っているって事ですか」
「その通りだ。そこで魔術を使ってみてはくれないか」
一つの魔術で鷹中が白だと分かればいいだけだ。そう思い、頷こうと思った。だがもしも黒だった時は殺さなければいけないのだろうか。
二つの気持ちが心の中で格闘する。
「あーもう、うるさいな。やったらいいじゃんか、そいつの事信じてみろよ」
頭の中で雪音の声がした。
深く考えすぎて雪音に聞こえていたのかもしれない。
鷹中が黒のはずがない。
そう思って魔術を使おうとする。
「盗聴……。じゃ人聞き悪いから、受信」
頭の中で鷹中の事を思い浮かべ『受信』と口にしたが何も起こらない。
「主の兄には、苦手分野のようじゃな。失敗しても代償は払われる。気を付けるんじゃな」
――――理不尽な!
どれくらい減ったのだろうか。雪音の方をじっと見つめる。
「ん、今のは三ヶ月だ」
かなり減っている。織音は今の失敗はかなり辛いと感じた。
「主の兄とそこの女が許すなら主にやらせてみるがどうする」
反対しようと思ったが少しの記憶ならば、などと考えてしまう。
どこの記憶を代償にするのだろうか……。
「ちなみに符床の記憶を代償にする」
冴月も同じことを気にしていたらしく宵に聞いた。
「今より幼く三人で公園を遊んでいる風景が見える。主の兄なら分かるか?」
「それは、俺と日葉、もう死んだ友人で遊んでいた時のものだと思う」
もしもそうなら、その人の事を忘れさせていいのだろうか。……でも彼との思い出は公園で遊んだことだけじゃない。
そう考え、宵にお願いした。
「織音が良いならよろしく頼む」
冴月も了承する。
キッチンから日葉を呼び出し、状況を説明する。
結局日葉にも知られ、責任を押し付ける状況になってしまった。
「分かった、鷹中さんのためならやってみます」
そういって早速目を瞑る。
すると日葉だけでなく織音や冴月、ブリガンテも鷹中の声が聞こえるようになっていた。
「予想以上だな」
冴月も本人にしか聞こえないと思っていたので驚きを隠せていなかった。
『新しい魔術師がこの戦争の意図を知った』
鷹中の声だ。
鷹中の声に違う男の声が反応した。
『そうか、それでも相手側になると?』
『そうみたいです』
次は女の声が聞こえる。
『残念だねー。ま、普通はあっちに着くかもねー。でもさもでさ、あと一人空きがあるんでしょ?そいつを引き込めばいいだけじゃん』
その声に最初の男が反応する。
『そうだな、記憶と寿命が相手にはいるんだ。どうにかこちらの仲間にしたいものだ』
「日葉もういい。切れ」
繊月が魔術を切らせるように指示をする。
日葉は聞こえていないのか息も止まっているように見えた。
「日葉!」
「は、はい」
名前を叫ぶと、ふと気付きすぐに魔術を切る。
「相手に何か聞かれても適当に返せと言ったはずだが代償の内容まで教えるのはおかしい」
織音も黙り込み考える事をやめてしまった。
「これはどうも、流せる問題ではないみたいだな」
雪音がここに居る皆を逃げなくするように分かり切っている事を口にした。




