死者
冴月からの説明は終わり質問がないかを聞かれた。
無いわけでは無いがここで言っていても大丈夫なのか心配にもなる。しかし、ずっとあやふやにしておいていいモノでもないと思い織音は質問をする。
「人を生き返すことを可能にするものは一つしかないのか?」
一つしかないのであればチームなど組んでも意味がない。
繊月は頭を掻く。
「鋭いね。一つしかないよ」
「じゃあなんでこんな集まりを」
敵対するチームと戦って、次は仲間だった人たちとも殺し合わなければいけないのか。
「それは、私たちが『それ』を求めてないからチームを組んでるだけだよ」
冴月が繊月の代わりに説明する。
「なんでだよ。せっかくもう逢えない奴と会う事が出来るんだぞ」
織音は必死だった。
死んだしまった人とまた会う事が出来る神の道具のような物なのに、なぜ求めないのか。
織音にとっては不思議でしかなかった。
「じゃあさ、その人が本当に生き返っているのか分かる?」
「話せばいいじゃないか」
「ただ、見た目が同じだけで心臓が動いていないかもしれない。ただ喋ることが出来るだけの人形かもしれない。同じ人格である保証は?」
「それは……」
繊月の説明に押しの強さと内容に圧倒され返す言葉が見当たらなかった。
確かに、今までのように生き返ってくる保証も無ければ、いつまで生き返っているのかさえ分からない。もしかすると一時間だけ生き返っているかもしれない。はたまた一生か、それは誰にも分からなかった。
――それでも会いたい。
そう思った。
たとえ一分だけでもいい。
もう一度会って感謝の言葉と謝罪の言葉を、そして別れの言葉を直接伝えたかった。
黙り込んでいると冴月が織音に声を掛ける。
「もし、そいつが生き返ったせいで他人が死んだらどうする。それに生き返りたいと本人が願っていると思うのか」
それこそ分からない。
死人に直接聞けるわけでもない。
他人が死んだって直接は関係しない。
「……」
駄目だ……言葉が何も浮かばない。
「私だったらたとえどんなに悔いが残っていても生き返りたくはないです」
日葉が自分に例えて話す。
「何でだよ。悔いが残ってんだったら――」
「この世には、悔いが残らない人間なんていないと思います。何かしらの悔いは残していくと思うんです。ただ満喫した人生が送れると思っていて、もし満喫して人生を追っていたなら生き返ったら逆に悔いが増えて満喫した人生も送れなくなると思っています」
織音の言葉を遮るように日葉の説明は始まった。
妹の言葉はなぜか心の奥に届いてしまう。
日葉と織音は同じ人を生き返って欲しいと願っていた。
古くから遊んでもらって、二人とも兄のように慕い一緒に寝たりもしていた。
その人は突然死んだ。
それはトラックの居眠り運転に巻き込まれてだった。
二人はそこに居合わせていた。
トラックにぶつかり電柱とトラックにつぶされ、それはもともと人間だったのかさえ分からないほど残酷な姿だった。
二人は無き、苦しみ、悲しみ、憎しみ、不の感情ばかりが芽生えていた。
それを二人で支え合い今でも引き吊りながらも、友人と楽しく生きている。
とても強い兄妹だ。
だからか妹の言葉は心に刺さる。
それでも決心できなかった。
どうしてもあと一度だけ話したいという願いが消えない。
「織音、お前はその生き返って欲しい人に二度死の苦しみを味合わせる気か?またお前を残して死ぬ苦しさ、大切な人を失っていく苦しさを味合わせる気か」
鷹中のその短い言葉が背中を押してくれた。
好きで忘れられなくて大切な人だからこそ、そんなことは出来ないと思った。
「そうだね、分かった『死者を生き返させるモノ(それ)』はもう求めない。ありがとう」
皆のおかげで、織音は非道徳的な事をせずに済んだ。
そして一息ついて冴月から一つの提案が出る。
「明後日花火大会があるだろう、行ってくるといい。魔術師は全員で十人が揃うと本格的に殺し合うようになっているんだ、今は全員で九人。あと一人が出るまでは恐らくまだ余裕はあるだろうから、最後の娯楽を楽しんで来い」
冴月の言葉に緊張が走る。
あと少しで、本当に殺し合いが始まるのだろうか。
不安が高まる一方で繊月はまた何かに苛立ちを見せていた。
「先生、それは反対です。いくら何でも危険すぎますよ」
「それは分かっている。だから私の方でも安全に出来るように工夫はするつもりだ」
冴月はふと織音の方を見て何かを思い出したように話し始める。
「そうだ、明日から学校には来なくてもいい。将来の事は私が何とかしてみせよう」
「何勝手な事を。しかも鷹中や繊月は学校に行ってるじゃないですか」
繊月にだけでなく冴月にまで同じことを言われる。
なぜ。頭の中はこの言葉以外に浮かばなかった。
「鷹中は相手チームに入り込んでもらっているスパイだ。繊月は遠くから敵の動きを見る監視役だ。私の近くにいた方が何かと良いんだ」
そんな重要で危険な事を今までしていたのだろうか。
それは素直にすごいと感じてしまった。
そしてその理由にどこか納得した自分もいた。
「いいじゃねえか、花火皆で見に行こうぜ」
鷹中が楽しそうに笑っていた。
その笑顔を見て織音も花火を見に行きたいと思った。
「俺も行きたい」
「雪っ……。あーもう分かったわよ」
繊月も仕方なさそうに同意した。
「お兄ちゃんが行くなら私も行きます」
「じゃあ決まりだな。ここに集まればいいだろう」
鷹中が勝手に織音家を集合場所にしてきたが、別に良かったので否定は一切しなかった。
すぐにカレンダーに『花火』と、メモを取る。
そしてその日、どんなことをするのかを考えてみる。
皆で最高の思い出を作るために




