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六年前の回想 基幹街道EL 2


 ジロと別れて五日目の休息中、リーベルトとエリカは、唐突にワイトに襲われた。


 冷気を感じる前に、霧の中から飛び出してきた。


 油断しきっていたリーベルトは、そのワイトに対しなんの反応もできなかった。

 

 視界にはいるやいなや、飛燕の如く接近したワイトは両手を広げ、エリカを抱擁した。

 エリカがエナジードレインによる悲鳴を上げる。


 戦闘態勢を整えたリーベルトだったが、エリカを守るには絶望的なほど遅れを取っていた。


 あわやというところで精霊王の鎧がその能力を発揮し、着用者であるエリカを守るために光り輝くとワイトは《呪詛》を吐きながら、弾かれるようにして距離を取った。

その《呪詛》はエリカが地面に身を投げ出すようにしてギリギリのところで避ける。


 

 そして無限にも似た一瞬の後、リーベルトが駆け寄り、ワイトに斬りかかった。


 完璧なタイミングでの攻撃で、ワイトを滅ぼす事ができなかった。

 その防ぎ方にリーベルトが戦慄と驚愕を覚えたために、連撃となるべき攻撃は単発に終わり、ワイトには距離を取られた。


 知識だけで知っており、ワイトはおろか、出会ったことのあるファントム・ゴーストですら使用例が報告されていない《マテリアル化》と呼ばれる最高位の霊体が用いる、自身の物質化によってカートボルグの必殺の一撃は防がれた。


「ワイトじゃない!?」


 リーベルトと同じ疑問をもったエリカの言葉に、リーベルトは “違う” と結論付けた。


 ワイトはブールトガンクが自分の身に触れる前に、腕に《マテリアル化》を施し、腕を犠牲にその身を守った。

 斬った物質化された腕は消えて無くなり、ワイトの身には新たな腕が現れた。

 

 だが、ブールトガンクによるダメージは残っている様子に見えた。

 握り締めているアーティファクト『ブールトガンク』に頼もしさを感じる。



 リーベルトはエリカを守るように立ちふさがりながら、驚きをもって目の前の敵を見る。


 あらゆる輪郭がぼやけ、目鼻立ちがはっきりしない姿。

 青白く霧に溶けるように弱々しく発光するワイト特有の様子。


 力以外のすべてが目の前の死霊が下級死霊族のワイトである事を物語っていた。


 レイスのように赤くも無く、それら上位の死霊のように輪郭がはっきりしていない。


(だけど……)

 

 これまでの認識ではワイトは、死霊族の中でも下位の下位。


 出会った事のある死霊、ファントム・ゴーストよりも圧倒的に弱く、それら二種が雑兵のように使っていたレイスよりもなお弱く、これよりも弱いのはワイトの器であるとされているゾンビだけである。


 出会ったことのない死霊族、あるいは未発見の死霊族だと思う気持ちをリーベルトは振り払った。


 その根拠は、


(こいつは後ろから、先輩のいるであろう方向からやって来た)


そして全力で相手をしないとまずい敵であると判断する。



「エリカ! 支援を!! 出し惜しみは無しでいこう!」

「うん! わかった!」


 エリカは《聖鎧》と言われる、本来はその身を包むようにして使う防御魔法を壁としてそれぞれ二人のの前へと、高速詠唱を用いて展開させる。


 本来の使い方をするとポーキスと精霊王の鎧が《聖鎧》の性能を遥かに凌駕している為、《聖鎧》が無効化される為だった。


 エリカが旅の中で生み出した魔法の一つであった。


場に使う結界の《聖光》と違い、エリカの開発したオリジナル魔法である《展開型聖鎧》とも呼べそうなこの魔法は、この魔法を受けた者の前に展開され、その者が動けばこの盾のような魔法も自動的に着いてくるという画期的な対死霊用の魔法としてカスタマイズされていた。


 エリカはさらに避難場所として《聖光》も作り出す。


 エリカの判断力・行動力はすでに子供の域をとうに脱し、いっぱしの戦士の風格すら合った。


 リーベルトが斬りかかると同時に、エリカから十を越える数の《聖矢》の魔法が乱れ飛ぶ。


 それら一つですらコントロールが難しい魔法のすべてをエリカは操っていた。



 だが、この上ないほどの連係からのリーベルトの一撃を、ワイトは悠々と避ける。

 

 気を取り直したリーベルトの予想は外れ、ワイトの実力はさらに先をいっていた。

 リーベルトは完全にワイトの力を見誤った。


 体勢を崩すリーベルトを尻目に、ワイトから目視できるほど強力な禍々しい黒い塊が、魔法行使の常識外れの数、百にも届こうかというほどの《呪詛》がさきほどのエリカの《聖矢》の高速詠唱をあざ笑うかのような詠唱速度で紡がれ、連続で放たれる。


 その全てがエリカに向けて飛んでいく。


《展開型聖鎧》が数発の呪詛を受け止めた後に消える。


 エリカの死という、最悪の状況をリーベルトは一瞬幻視する。



 だが、



 乱れ飛ぶ黒い死の塊である《呪詛》をエリカは果敢にカルンウェヌンを振るって、鎧以外の場所に飛んでくる呪詛を打ち消していく。


 本来は音の塊でしかないその呪詛には、このワイトの桁違いの力を物語るように、物理的力も働いているようで、打ち消すたびにエリカの小さな体が弾かれるようにして、後ろに飛ばされる。


 《強化》をしているのにもかかわらず、一発弾くたびに、軽量のエリカの体が後ろに押されていく。



 だが、エリカは体勢を崩されるたびに、歯を食いしばり、目を背ける事なく、次々と呪詛を打ち払う。



 子供のエリカは、ジロとリーベルトとの死を望んでいたエリカが、必死で生きようとしていた。



 リーベルトは吠える。



 子供の身であるがゆえに、短剣ですらうまく扱うことができず、数発がエリカの身へと届くが、ここでもアーティファクトの力が発揮される。


 精霊王の鎧はその効力を存分に発揮し、鎧に当たる呪詛を消滅させていく。


 エリカに《呪詛》が届いている様子はない。



 そこへリーベルトが三たび、強化されたワイトへと斬りかかる。



 自分よりも数段格上の敵であると認め、リーベルトは自己強化の魔法を次々と完成させながらブールトガンクによる攻撃を矢継ぎ早に放つ。


 リーベルトをあしらいながらも、防戦一方のエリカに止めをさすべく攻撃の手を緩めないワイトだったが、だんだんとリーベルトの圧力に押されるようにして、いよいよエリカへの攻撃を中断し、リーベルトと相対した。



 ここにきて、リーベルトはようやく自分もジロに守られていた事を自覚する。



 鈍っていた戦闘の勘を取り戻し、旅程中にジロに守られていた事によって本気を出すまでもなかったがゆえに出し惜しむようにしていた自分の全力を出して、本来格下のワイトへと挑む心構えで剣を振るう。



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