六年前の回想 基幹街道EL
栄光の街道を走破し終え、リーベルトとエリカは、ついに暮れの国からは脱出を果たしていた。
オレンジ色の光景は無くなり、より不安を感じさせる灰色の世界が二人の前に戻ってきた。
行きに踏み越えた道は、完全な悪路となり、疾風光を駆使してでさえ、栄光の街道の二割ほどのスピードとなってしまった。酷い場所だともっと速度が落ちた。
(くそ! 行きは歩きだったし、歩きやすい場所をわざわざ選んで通ってきた。走るとなるとここまで走りにくいとは想定してなかった!)
そして、暮れの国にいた間に雨が盛大に降ったらしく、悪路はさらに酷くなっている。
『死霊の善意』により、方向だけは間違いようがなかったがとにかく走りにくい。
ジロと別れてから丸三日。
襲撃は一度だけあった。
後続から追撃がないというのはわかったが、立ちふさがるようにして狂乱の様相で襲ってきた前方からの襲撃もなくなっていた。
リーベルトもエリカもそれを喜べなかった。
その平穏は、それだけジロが一人で頑張っているという証拠に他ならなかった。
だが、同時に別れて三日経った今でさえ、ジロはまだ生きているのだということも知る事ができた。
一度きりの襲撃も、ジロの生存を感じる事ができた。
最初はリーベルト達を無視して通り過ぎようとした集団内のゾンビとレイス二体ずつが、道幅が狭くなった時、リーベルトはあえて触れるほどにまで近づいた。
すると四体は、初めてそこにエリカを見つけたといった風に、急激に進行方向を変えて襲ってきた。
少数であったため、リーベルトは足を止め、難無く二体を滅ぼした。
そして他は一度はエリカを認めたものの、残りの二体は戦闘中に方向転換して、霧の中へと消えた。
リーベルトはその方向にジロが生きている方向だという事を確信していた。
ただ、想定していなかった事もあった。
ジロが『揺らぎ』と言っていた事前察知能力をリーベルトとエリカは失ったのが、思いの外、二人の精神的負担となった。
事前に察知できたジロの鋭敏な感覚に慣れきっていた旅程だったため、二人は冷気でしか敵の襲撃を事前に知ることができず、さらには走行中、その冷気の判断もあやふやなものとなっている事を一度の襲撃で理解できた。
◆
行きに記憶に鮮明に残った、十数mも地面がえぐれた道までたどり着いた。
行きには皆ではしゃぎ、手を取り合って遊ぶようにして切り抜けたその道は、今や流れの強い川のようになっていた。
リーベルトが魔法の力を借りて勢いよくジャンプし、タイミングを合わせてエリカが《フロー》を唱え重力からの影響を軽減し、川に足を取られることなく障害を乗り越えた。
道はどんどんと悪くなっていく。
だが、今踏み越えた川となった道など、モノの数でもなかった。
田の中にいるような粘泥化した道などよりは大分マシだと思えた。
この場所は暮れの国内と違い、幽界は天候も良くない。
(だけど……)
エリカはもちろん、リーベルトも体力・魔力ともに温存できている。
リーベルトはこの旅路について初めて、自分達二人は生きて人界と幽界の国境を踏み越えられるかもしれないと小さな希望の光が見えつつある事を自覚した。




