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六年前の回想 幼馴染と友と。


「エリカ、いいかい? 先輩にきつい事を僕は言っているけど――」


 ジロとリーベルトは、またエリカが...っと、顔を見合わせる。


 なだめようとするリーベルトに対しエリカはジロに《治癒》をかけ続けながらブンブンと首を振る。


「――違うの、リーブ。違うの!」

 エリカの目に涙が溜まるが、それは流れ落ちなかった。


「私はくやしいの! 私じゃぁ、ジロの、リーブの生命力を回復させられないんだもん! 私ができるのは! 傷だけしか治せない!」


「エリカの《治癒》が治せるのは傷だけなんだもん! ジロが苦しくて泣いてるのに、私はジロの治せないんだもん!!」


「傷があるのに! 目に見えない傷があるのに、今のエリカの《治癒》の力じゃ治せないの!!」


 ジロはリーベルトと再び視線を交わすと、リーベルトがうなずいた。


「大丈夫だ。だんだんお前の《治癒》の腕は上がっている」


 本当の事だった。傷口が塞がるスピードと効果はすでにジロの知るどの神官より速く、効果も高い。

 そしてエリカが一回一回工夫・改善している《治癒》のエナジードレインに対する治癒効果は、少しずつではあったが確実にエナジードレインにも効果を発揮し始めていた。


「だから、エリカ。頑張れ。もうすでに限界なくらいお前は《治癒》を上達させているが、その天井はお前になら破ることができる。信仰魔法はお前に合っている。それは才能があるっていう証拠。才能は新たな魔法を生み出せる。お前の治癒をこの三日で数百は受けた俺だから分かる。お前なら頑張れる。だから、今度はリーベルトの為に、このクソったれなドレインを治してやってくれ」


「エリカは今! 今、治したい!!」


 エリカの慟哭が辺りに響く。


「それは、無理だ。だけど……エリカ、できるな?」


 ジロは震える手を上げ、小指を突き出す。子供の約束事の契約。


 エリカが指をからめる。


 ジロはそれを見て、エリカもジロの死を受け入れたことを知った。


 その指きりは、死者との約束を絶対に果たそうとしているように見えた。



「それにな? エリカ。こんな事いうと、本当に死出の旅になっちまいそうで言いたくないんだが、俺もリーブも充分お前には癒されてるんだ」


「……え? 今――」


「――癒すってのは正しいのかな? リーブ?」

 上半身裸のジロは首を傾げて、リーベルトに問いかける。


「そうですね、正しくはないですね。つまり先輩の言いたいことは――」


「――かっこよさそうなセリフなんだから、俺に言わせろリーブ」

 服を着て、鎧を着ながら、ジロは言葉を選ぶ。


「身勝手で殺伐とした騎士派閥の中に育っていく中、俺はエリカからは充分癒しをもらってきた。その分を今は支払っている段階なんだ」

 その言葉にリーベルトは何度もうなずいている。


 そしてエリカといえば――



――目をまん丸にして、ポカンと口を開いている。

 


 自分のまぎれもない本心が伝わった様子がない事に、ジロは少しがっかりし、笑おうとして、引きつった。


「おい、リーブ。こいつはダメだ。全然伝わら――」


「また! ジロが――リーブって言った」


 エリカが驚きの表情のまま、そう言った。


 ジロとリーベルトは二人同時に首をかしげた。

「エリカ? 君、大丈夫かい? ……先輩、エリカがちょっとおかしいかもしれません」

「おいおい、リーブ! この馬鹿野郎! ちゃんと守れってあれほど――」


「――また!」

 エリカの表情が笑みに変わってきた事にジロは首をひねる。


「あっ!」


 今度はリーベルトが驚きの声を上げる。


「なんだってんだ? おい?」

 ジロは二人と対面しているため、自分の後ろに何かあるのかと首を巡らせるが、そこには霧以外の何もない。


「おい、エリカ、リーブ――」

 

――そう言ってから、ジロは二人の驚きの正体に自ら気づいた。


 そして、首を振ってジロは笑い出す。


 次にリーベルトが笑い出した。


 最期にエリカが笑いの輪に加わった。

 溜っていた涙が、うれし涙に押され、流れ落ちた。


「参ったな、こりゃ……なぁ、『リーブ』よ」

「そうですね。『先輩』」


 そう言って顔を見合わせて二人は爆笑した。


 エリカがリーベルトに近づき、腹にパンチをすると、今度はジロに近づいて同じように腹にパンチをした。


三人は笑った。


時間にすると短いものだったが、今置かれた状況を完全に忘れ去って、心の底から笑った。


「はぁ~~~あ! 丁度いいや。エリカ、リーブ。そろそろお別れの時だ。ここからだと後、三割の速度でも、三十分はかからない。俺のやることが成功すれば別れ、失敗すれば俺達は多分、三人で仲良く並んで死ぬ事になる」


 ジロは晴れ晴れとした顔でそう、宣言した。



 ジロの鼻から、今はお馴染みとなった血が流れる。

 

 格好悪い宣言だなと、ジロは力なく笑う。

 笑うことがまだ、できている。とジロは思った。


 エリカの目から次々と涙が流れる。

 だが、笑顔で笑っている。


「私は嫌で、本当に嫌だけど。ジロに嫌われたくないから、ジロの言う通りにする」


 ジロは地に膝をついて、照れながら両手を広げてエリカが飛びついてくるのを待つ。


 ジロの顔は笑っていたが、エリカと同じように涙がこぼれ落ちそうになるのをジロはグッと堪えた。


 エリカはそこに飛び込んできた。

 二人はギュッと互いに互いを抱きしめた。


 ジロの鼻血エリカの鎧に落ちるが、精霊王の鎧の効果のためか、血は鎧の表面で溶けるように薄くなり、すぐに消えた。


 ジロはリーベルトを見る。

 

 そして抱いていた右手をエリカから離し、広げる。

 

 リーベルトが顔をクシャクシャに歪めながらボロボロと泣きながら歩きながら近づき、ひざまづいてジロとエリカを力一杯抱きしめた。


 ジロも二人を力一杯抱きしめた。



「ジロ、死んじゃダメだからね。みんな一緒だよ?」

 エリカは嘘を口にした。



「エリカ、先輩。僕らは三人で生き残れます」

 リーベルトは嘘を言った。



「そうだな、死ぬ時は三人一緒だ」

 ジロは嘘をついた。



 だが、三人はそれぞれの嘘を気にもしなかった。


気にする必要もなかった。



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