六年前の回想 不注意
ジロは泥のように眠っていた所を、リーベルトに起こされる。
エリカがジロを抱えるようにして《治癒》の魔法を施していた。
「……エリカ、もういい。起きた」
話しながらも意識が飛ぼうとする中、ジロは精神力を奮い立たせて、眠気だけとは思えない意識の混濁を払拭する。
「……どのくらい休んだ?」
体が重い。睡眠不足のそれではなく、エナジードレインの影響であるのか、体の芯に力が入らない。
「きっちり、三十分です。襲撃は一回。エリカと僕で退けました」
「そうか、次からは俺を起こせ」
八十時間が過ぎていた。日が落ちようとしている。
理想のペースならば二日前には、もう分岐点についていなければならなかったが、それでもあと少しだとジロは気合いを入れ直す。
ジロは抱きつかれたまま、キョロキョロと辺りを見渡し、目印としていた場所を発見し、このペースだとそこからあと一日ほどペースを保てれば、分岐があることを知った。
「……分かりました。エリカ、もういいよ。先輩を離すんだ」
エリカはそれでもジロを離さなかった。
ジロは無理矢理、だが乱暴ではなくエリカを引きはがす。
傷は完全に癒えていた。
だが、体は経験した事がないほど重かった。
干し肉を喰らい、薬草を噛むが、あまり効果は出ない。
エリカに背中を向け、残り少なくなったポーションの一つを取り出す。
リーベルトが顔を背けた。
ジロは躊躇うことなく、ポーションを飲み込む。
カッと胃が熱くなる。
だんだんと熱気が体全体を満たすが、体の芯には凍えそうな寒さを感じた。
「次の目標は風車跡のある建物だ。リーベルト、後ろの壁との時間差は?」
「たぶん三十分もありません。ここに長居しすぎました」
「そうか、いくぞ」
「待って――」
エリカがハーネスに繋がる前にジロの方へと駆け寄ろうとする。
「――大丈夫だ、エリカ。筋力強化も、ドレイン耐性も必要ない。今は魔力を温存だ」
「…………うん」
◆
《疾風光》中に、ジロの足がもつれる。
エリカの悲鳴と、リーベルトの「ガルニエ先輩!?」と声が聞こえた時にはもう、転んでいた。
栄光の街道の整備の良さのため速度が出ていたジロは激しく転倒した。
ジロは石畳を転がる。
ようやくとまり、血だらけで立ち上がろうとすると、足首に鋭い痛みが生じた。
ジロは自分の愚かさに憤慨し、地面に拳を打ち付け、新たに傷ができる。
そしてリーベルトはエリカにジロの足の治療を頼んだ。
ボーッとしてフラフラとしていた事を、後ろを走っていたリーベルトが目撃していた。
「これも、目安になるな。リーベルトよく覚えておけ」
ジロは体中の痛みに耐えながら、羞恥心を隠すようにしながら、リーベルトに声をかける。
幸いにも、分岐点まではあと少しという地点で起きた、明らかに気が緩んでいた為の無用の怪我だった。
「今はどのくらいの時間だ?」
「塔を出てから百十時間ほどです。霧が濃くとも、昼夜の区別があって、本当によかった」
リーベルトは一息つきながらそう言った。
「先輩、どうですか? 走れそうですか?」
エリカに集中的に骨に異常がありそうな足に治癒をかけ続けてもらってい、包帯で足首を固定した為、走るのには何の支障もなさそうであった。
「いけそうだ、悪かったな」
「足の怪我には充分注意を払ってください、無駄な事に時間を使ってしまった。出発しましょう」
リーベルトの言葉にジロをうなずき立ち上がる。
骨折しかけている方ではない足に力が入らず、ジロは数歩ふらついた。
エリカは《治癒》をかけ続けている。
「なんで……なの」
エリカがうつむいて、そう呟いた。




