六年前の回想 失われた時間/ 追加時間
明けましておめでとうございます。
新年初の投稿が、暗い話の流れの真っ最中で「なんだかな」と思っていますがお付き合いください。
それでは改めまして、 今年もよろしくお願いいたします。
七十時間が過ぎようとしている時、疾走中に、ジロは自分が狂ったのかと思うほど、ありえない量の揺らぎを前方に感じた。
苦労して二百の群れを抜けた数時間前の経験から察し、それよりも軽く見積もっても数十倍は大きい揺らぎに、ジロは内心うめいた。
「まずいな、前にやばそうな大軍がいる。この感じだとさっきと同程度だろう」
いらぬ心配をかけさせないため、ジロはそう言った。
平静を装い急停止を指示し、急いで地図を広げる。
こうしている内にも前方の大軍が急速に近づいている気配がある。
向かってくる揺らぎの高低差と移動速度を考えると、ジロ達が向かっているルイナス方面から長い時間をかけてこちらに向かって来たのか、屍人はいないように感じられる。
ピンチではあったが、栄光の街道にいる今遭遇できて幸運だったと思い直した。
ジロと別れた後の一本道の荒れた道である『死霊の善意』で出会っていれば、エリカとリーベルトはひとたまりもなかっただろうと、ジロは背筋が凍る思いを味わった。
地図を見ると、横にしたUの字型の迷いそうにない迂回路があり、それは最終的に栄光の街道へと戻っている道を見つけ出した。
「……仕方がない、後続が追いついてくるのはどうしようもないが、前の大軍を引きつけてから迂回しよう」
「了解しましたが……、先輩……大丈夫ですか?」
「ん?」
「ジロ……顔色が……」
うん? と言いながらジロはポシェットを漁る。
そしてジロが探していたポーションとドーランの二つが見つかる。
なぜドーランを探したのかとジロは本気で首をひねり、自分の判断力が鈍っている事に苛立った。
「大丈夫じゃないが、これがあるから平気だ」
ポーションの瓶を振り、一息に飲み干す。
人間が飲んではいけない油を飲んでいるような味がした。
顔が熱くなり、頭が冴えてきた。
無理矢理魔力を引き出す、数十年前に規制されたポーションの一つだった。
顔に赤みが差した事がジロにはわかった。そしてフワフワと気分もいい。
エリカは感心したが、リーベルトはより一層眉をしかめた。
ジロは今までの自分が馬鹿馬鹿しくなった。
(後ろの死霊の壁? 前の死霊の大軍? それがどうした!)
なんの心配も無いように思えた。全ての敵を自分一人で倒せるのは当たり前の事だとさえ普通に思った。
「……リーベルト、これから数時間、任せる」
ジロはなんとか、必死でそう口にした。
リーベルトの肩を叩いて立ち上がる。
「ギリギリ、前の奴等が目視できるようになるまで引きつけよう」
後続の死の壁に対するこれまで七十時間で稼いだ時間的余裕と距離が無になった。




