六年前の回想 蓄積
六十時間が過ぎた。
リーベルトとエリカが入眠してすぐに、強い揺らぎを感じとり、赴く。
細い路地裏にリビングデッドが二十体ひしめき合っていた。
魔法の射線が取れない為、普通は脅威は減るが、同族を殺すかのような勢いでレイスからの乱れ飛ぶ魔法が避けようのない。
温存していた魔力を使わざるを得なかった。《土壁》という魔法の盾を行使する。
結局屍人二十体の他、レイスが二十、ゴーストが三体の群れを全滅させた。
退きながら戦った為、最期のゴーストは、二人が眠る場所のほんの百mの場所で仕留める事ができた。
魔力も体力も界ギリギリまで減らしたが、なんとかジロは生き残る。
狭かったため、生傷は抑えられたが、壁や地面をすり抜ける死霊族と何度も接触したため、エナジードレインの被害が大きかった。
手に持つ、軽量化されたレイピアが練習用に使っていた剣よりも、重く感じた。
右手は肩以上の上には上がらない。
薬草を食べ、無理矢理脳内麻薬を絞り出し、魔力回復の劇薬ポーションを飲み込むと、少し元気が出る。
非合法の薬草では効果が現れにくくなっている事を知った。
キャンプに戻り、ジロは喀血した。
その後、襲撃はなく、ジロはその二十分間は休む事ができた。
座ったり、目を閉じれば眠ってしまう事が分かっていたため、街道沿いにある建物によりかかるように立ちながら、眠らない事だけを考えて休んだ。
そろそろ起こす時間になった。眠る二人の元へとふらつきながら歩く。
ふと思い立ち、ジロはリーベルトの持つブートガングを鞘から引き抜き、輝く刀身に姿を写す。
喀血したときに乱暴に手で拭った為か、血の線が頬に延びていたので、ジロは水で拭き取り、身だしなみを整える。
死人のような隈ができているのを、ポシェットに入った旅芸人の役者から譲り受けたドーランを塗って隠すと、ジロは、まぁまぁ見れる顔になったと思った。
「おい、起きろ、リーベルト。昼だが、朝だぞ」
ブートガングを鞘に収めながら、足でリーベルトをゆすって起こす。
座るために屈むのが億劫になっていた。
わずかでも腰を落とすと太ももが悲鳴を上げるかのように、ガクガクと震えだす。
暴れる膝に手をついて、ジロは自分の荷物の上に膝をついて片膝立ちで休んだ。
二人はすぐに起きて支度をたったの十分で全てを整えた。
その短時間、ジロは落ちそうになるまぶたを必死で開いていた。
「後ろの壁が追いつくまで二時間以上はかたい。だが、無理はしないで、さらに引き離すぞ」
立ち上がろうとするが、立ち上がれなかった。
数度試みて諦め、どうせならと《疾風光》の詠唱を始める。
リーベルトはジロの言葉を背を向けて聞いていた為、その様子を知らないが、エリカには見られていた。
しかしエリカは痛ましそうにジロを見つめるだけで、何も言わなかった。
ジロが詠唱が完成させると同時に、ズクンと頭の奥に重く鋭い痛みが走る。
鼻の奥に出た剣の訓練中にはよくあった違和感のため、エリカに背を向けて立ち上がる。
魔法の力が体中に行き渡ったので、活力が湧いてくる。
ジロはスッと立ち上がった。
そして、見えないように、右の鼻から流れ落ちてきた血を袖で拭う。
ジロの鮮血は袖についたゾンビなど、死人を数百葬ってきた返り血にすぐに紛れて、どれが自分の血なのかもわからなくなった。




