六年前の回想 天秤のバランス
ジロの為の小休止として立ち止まる事になった。
二十時間以上動いていたジロは、即座に眠りに落ちた。
三十分後、深い眠りの中にあったジロをリーベルトが起こし、また疾風光を再開する。
ジロは走りながら、薬草に頼り、残りの疲れを無理矢理に追い出した。
一日で分かったのは、疾風光の全力の三割ほどのスピードが死霊達の限界速度であった。
死霊達が無理をすれば、こちらの全力の八割程度の速度を死霊達も出せたが、それでも、向こうは三十分ほどしかもたない。
ジロ、そしてリーベルトの傷が増えていく。
走りながらジロを治療するエリカの活躍が目立つようになっていた。
同じように、ゴースト・ファントム・レイスによるエナジードレインもジロの体を蝕んでいく。
ドレインに関してはリーベルトは、無傷だった。
塔出発後、四十時間が過ぎた。
ジロは一行の指揮をリーベルトに譲る。口を利くことによる体力でさえ、ジロは惜しんだ。
代わりにリーベルトが色々と指示を飛ばすようになったが、リーベルトの観察力・判断力は、ジロの指揮と遜色なく、行く手を塞ぐように前方から襲撃してくる死霊の群れを時に避け、時に突撃していった。
目標である分岐点までまだ半分以上も残っていた。
睡眠時間はジロにはほぼ無かった。
エリカとリーベルトは休憩中に起こされるという事態は起こらなかった。
気配を感じ取ると、主要街道から外れていようと、先んじてジロが先制攻撃をしかけに出ているためだった。
だが、心配性のジロは、ジロが離れているときに、二人が睡眠中に襲撃されるのに備えを、アーティファクトを常に用いなかった。
揺らぎの気配にカートボルグが必要なほどの揺らぎを感じなかった事も少しは関係した。
ジロが眠るわけにはいかない休憩中には魔力消費を惜しみ、マニーが用意した通常では破格の性能であるが、今は頼りなく感じる二本のレイピアに頼った。
木剣カートボルグは、眠るエリカの盾となるように、常に置いていった。
駆け抜けるだけの場合と違い、休憩中の戦闘は殲滅戦だった為、見える傷と見えない傷の両方が、ジロの体にだんだんと刻まれていく。
絶対に死ねないという重圧の中、ジロの死霊退治の腕は、自分でも驚くほどに向上いていったが、生傷は減らない。ただ、傷を浅くするすべは上がった。
一刻も早く二人の元へ戻れるようにと、防御よりも攻撃に重きを置いている為だった。
元々格上の敵であるのが、ジロの未熟さを目の前に突きつけられ続けているようで、くやしかった。
離れた場所で戦闘を終えた後、《疾風光》用の魔力確保の為、肉体強化の魔法を一つもかけていない状態での戦闘後、エナジードレインに膝が砕けそうになるのを必死に堪えながらも、急いで帰ってみると、たまたま、エリカが起きてしまっていた。
エリカとリーベルトは睡眠中、ジロがアーティファクトを用いていない事を知り、
まずエリカが眠れなくなった。
そしてすぐにリーベルトも眠れなくなった。
エリカは寝ようとしなくなり、リーベルトは寝たくとも睡眠できないようだった。
解決策として、ジロが二人に《昏睡》をかけることにした。
アーティファクトを脱がせ、魔法を受け入れやすい体勢を取り、寝た後にジロが二人にアーティファクトを着させる手間が増えたが、苦にはならなかった。
それは二人を守らねばっと思いを新たにする事ができたためだ。
元々ジロは二人よりも魔力量で劣っているだけでなく魔力も弱かったので、ジロの魔法に抵抗力がある。
そして《昏睡》の効果は薄いのだが、睡眠導入には問題が起きなかった。
ジロへの魔力的負担が増えたことで、ますます二人は眠れなくなるという悪循環が発生しようとしていたが、ジロの頑張りが自分の想定以上に上手くいっていた為、二人の魔力回復に影響は出なかった。
睡眠不足というのは、今の状況ではさしたる問題もなかった。
そしてジロは二人の出発の準備が整い走り出すと考える事を止め、機械的にリーベルトの指示に従うだけの戦闘用ゴーレムごときの存在となる。
走り出した時のジロ自らの判断の放棄。それはエリカとリーベルトに対する信頼の証でもあった。




