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六年前の回想 開ききった地獄の門


「気づいたな? エリカも攻撃の対象になっている!」

「はい! 大丈夫です。守りきれます!」


 一行は駆ける。塔を出てから一時間が経った。

 《疾風光》による脚力強化によって普段なら全力疾走をである速度を息の乱れもなく保っている。

 広大な旧王都内はまだ石造りの建造物が道の両側を埋め尽くす。


 行きは魔力温存のため、確認できなかったが、三人はそれぞれに《夜目》を発動しているので、霧の奥まで不意をうたれないギリギリまで視界が利いている。

 その横道などから時折猛スピードでリビングデッドやゴーストなどが飛び出してくるが、大抵は置き去りにすることができた。


 そのその一方で一行の後方を、大量の物質的な肉体を持たないファントム・ゴースト・レイスなどの群れが、壁となって同じように苦もなく、追いかけてくる。

 エリカに数えさせたところ、五百を数えた後、無駄だとリーベルトが数えさせるのを止めさせた。


「リーベルト! 平気か?」

「先輩!! 少し速度を落としてください!」


 エリカを抱えるリーベルトがそう注文をつけ、ジロはスピードを弛める。

 全力疾走ほどではないが、トップスピードの六割ほどの速度になった。


「これでどうだ?」

「もう少し落としたい所ですが、それはもっと余裕ができたらにしましょう!」


 横合いから死霊が飛び出し、それを避けながら進むも、速度がまた落ちる。


「エリカ! 今までとメンツは同じでも、今までとは違う! お前は標的になっている! 追いつかれそうなら、迷うことなく、カルンウェヌンを振るえ! ただし魔法はギリギリまで温存しろ!!」

 時々豪速で、まるで自滅するかのようにファントムが近づいてきた為の注意だった。


「後ろのリビングデッドの類の屍人は俺たちの敵じゃない! 奴等はこの速度についてこれない! 怖いのは前から現れる奴だけだ。だが、基本あいつらは無視する! ファントムとゴーストの足止めだけに注意を払え! エリカ!! 恐ろしいだろうが、肩越しにファントムとゴーストの魔法の初動を見逃すな! 可能なら《聖矢》で発動を阻止しろ!!」

 ジロは次々と指示を飛ばしながら走る。


(理論値からだとこれで、ルイナス国境到着が六日になる計算だな)

 ジロは、意味のない、不可能問題の計算にすら、焦っていた。


「ジロ! 狙われてる! 右に一歩避けて! まだだよ!! ……………今!!」


 エリカの声に従ってジロは右に一歩避ける。避けた次の瞬間に鋭利な氷の塊がジロの本来ならば走っていたであろう空間を切り裂き、地面に当たって砕け散った。


 後ろのファントムだかゴーストが《氷槍》を仕掛けてきたようだ。

 更にジロの靴を絡め取ろうとするかのように、砕けた氷槍の欠片から氷が生え伸びる。それをジロは跳ねて避ける。


 ジロは後ろを振り返る。

 二十m背後が青白い死霊の壁のようになっている。そして時折壁が煌き魔法が飛んでくる。

 リーベルトは前を向き、エリカはリーベルトの肩越しに、その壁と対面しながら避ける方向を指示し、避けるのが無理なものは最小限で耐魔法用の防御壁等を展開させながら後方からの攻撃を防いでいた。

 

 旧王都と言うだけあって、直線が短い。そして直角の角が多く、建物に左右されない死霊の壁は一時的に引き離してもすぐに追いついてくる。


 走りながらジロは、死霊の壁の巨大さによって、まるで止まっているかのような錯覚を受ける。

 死霊の壁との距離は今はジワジワと遠ざかっている。


 生のない死霊だが、人と同じように無限には駆ける事ができないと言うのは三十分ほどして分かった。

 それを見て、三人は生きる希望が湧いた。

 その時は、危険であったが、《疾風光》を解き、立ち止まった。

 全力ので引き離した死霊の壁は、立ち止まってから十分後にやって来た。

 物理的なリビングデッドは追いついていないらしく、一体もいないかったのを目視し、再び三人は駆け出した。


 そして今、六割でも引き離せると確信し、

「やったぁ! 死霊が、離れていった!」

 エリカが喜びの声を上げた。

 これで六割の《疾風光》でも奴等が追いつけないことが判明した。


 揺らぎを前方に感じる。


「来るぞ! 前からだ」

 そう言ってジロは絶句する。目にした街道の両脇に――


 スケルトンが、祭りの警備兵のようにびっしりと完全武装で立ち並んでいた。

 進めば進むほど、骨の列は伸びていく。


 ジロはうめいた。

「先輩!? どうしますか!?」

 ほとんど悲鳴のような、絶望的で選択肢が一つしかない問いかけが後方から飛ぶ。

 

「行くしかない。土地鑑が無いし、栄光の街道を見失っては、それこそ絶望的だ。このまま行く以外の方法もない。ただ、スピードを全開にする! スケルトンだって物質だ、ちょっと速いリビングデッドだと思いこもう!」

 だが、揺らぎは骨の列からではなく、道の真ん中から感じる。


 加速を指示して、列の始点に突っ込み――


「――なんでしょうか、これは! 不気味ですね」

「とりあえず、こっちからは絶対に手を出すな! これだけいたら生半可な先制攻撃なんて逆効果だ!」


 道の両端にみっちりと整列していた武装済みのスケルトン達は一体として動き出さなかった。

 まるで祭りの演者を見送る警備兵のように、列を少しも崩さない。

 無数の空洞な眼窩の監視のもと、一行は駆け抜ける。


 別の揺らぎが近づいて来た。

 スケルトンの放つ冷気のため、前方の冷気には気づかなかった。


 前にファントムの群れとリビングデッドが数十体向かってきた。


「リーベルト! 後ろに入れ!」

 リーベルトがジロの後ろに身を寄せる。


 そして突然、前方のリビングデッドの群れが乱れた。

 前方のスケルトン達が道の両脇から、槍を豪速で投擲し、リビングデッドに命中。次々と屍人の群れが乱れていく。

 スケルトンたちが、リビングデッドに攻撃を仕掛けていた。


「止まれ!」


 投擲後、群れに向かってスケルトンが突撃し、死霊の群れを圧倒している。

 暮れの国のリビングデッドは素早く、半分凍ったような状態の良い固体であれば人間が走る速度並みに動ける。そして目の前の群れはその状態の万全の屍人の群れだった。


 だが、スケルトンは一体一体がその速度を嘲笑うかのような動きを見せている。 戦っているスケルトンは左右でたったの四体。

 それだけのスケルトン達の攻勢を死霊の群れは受け止められない。

 リビングデッドがすべて倒れ、スケルトンが――


 ――道の列へと戻っていった。


 街道上にはファントムとレイスの群れだけが残った。それらの魔法攻撃によって列に戻ったスケルトンが吹き飛ぶが、行動を起こさない。

 今度は逆に、スケルトンの列が死霊の魔法によって乱される。

 ファントムとレイスは突撃したスケルトンを破壊し終わっても攻撃の手を緩めず、動く気配のないスケルトンにまで攻撃を仕掛けている。無抵抗のスケルトンが続々と倒れる。


「行くぞ!」

「どういう事になってるんですか!?」

 リーベルトが答えを求めていない質問をする。

「わからん!」


 無抵抗の骨の破壊に飽きたファントム達は、近づくジロ一行に魔法詠唱をし始めた。

 ジロはカートボルグを盾にして突っ込む。

 目の役割はリーベルトが担う。


「行けます。先輩少し左に斜行してください……そこです! 突っ込め!!」

 カートボルグに幾多の精霊魔法が突き刺さり、その効果を打ち消していく。

 受け止め損ねた魔法はリーベルトの刺突が魔法を砕いていく。


 多少の傷を受けながら、群れを抜けた。

 エナジードレインも受けるものの、速度は落ちない。抜けきると、今度はジロがリーベルトの後方を走り、背中を覆うようにカートボルグを盾にする。


 エリカが抜けた群れが反転して追ってきていると、二人に注意を促した。


 同じ状況を幾度も繰り返すと、唐突に道端に整列していたスケルトンが途切れた。

 不可解であったが、いなくなったスケルトンの列と違い、死霊の苛烈な襲撃は間断なく続く。


 そしてついに三人はスケルトンの列の意味を考える余裕がなくなった。



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