聖女としての仮面
「だいたい、私はジロにあれ程嫌だと言っていたじゃないですか」
表情は聖女としての仮面を外したが、口調はまだまだよそいきのままだった。
「………売れ筋商品だったんだ。お前の聖女人気にあやかって出したもんだが、ここまで売れるとは予想外だった。お前と面識あるやつら共も買うし、知らずに憧れてるやつらも諸人こぞりて、買っていく。つまりは国全体で大受けだ。……いや、国境を越えても大陸中で買い求めるだろう。お前を見たことのない国から、先の連中にはいまだに、お前は生き神扱いされてるしな」
「止めてください。そういうのは」
エリカはため息をもらしつつ、よそいきの口調のまま、ジロにそう言った。
「どうしても嫌か?」
ジロの口からも、ため息が出る。
「だとしたら、次世代の商品開発に着手しなくっちゃな。……やらないといけない事が、日増しにどんどんと増えていくっていうのは、どうしてだろう?」
とジロは悲しくなった。
「やらないといけない事? なんなんですか? そっちの方を手伝おうか? ……手伝いましょうか?」
「……言い直すなよ。それにそっちは手伝いは必要じゃない。わざわざ神殿騎士団所属の聖女エリカが出張るほどの案件じゃないんだよ。俺一人でどうとでもなる。
「でも本当にいまだに嫌がってるんだな……聖女呼び。俺はもう、さすがに六年前の事だし、どうでもよくなってるんだがなぁ……ただ、まぁお前は子供の頃に死にかけたし、その気持ちは分からないではないけどなぁ」
「嫌ではないですけど、面はゆいです。生き残った『聖女』なんて……。ましては皆の思う虚像と実像とは違うんだから」
エリカは謙遜しているが、この国どころか、大陸中で聖女と称えられ、村や街ごとに石像や銅像が立ち、一生涯まつられてもおかしくないほどに、相応しい精力的献身的な働きをしていたとジロは心の底から思っている。
聖女と呼ばれるようになってから六年経った今でも、エリカの旅程を公式に発表すれば、行く町行く町でエリカを一目見ようと街道沿いに人垣ができるのもジロにはうなずけた。
そして見た目は六年前の保護欲を訴える幼女からは多少変わったが、今は王国一の美少女との評価を受けているので容姿だけでの人気においても、極めて人気が高かった。
その人気っぷりは、ジロとリーベルトという二人の幼馴染が、見ていて呆れるほどだ。
かくして吟遊詩人は行く先々で聖女エリカとその幼馴染のリーベルト、そして皆を守るために同行した勇者を褒め称え、絵師は、空想と、想像を元にした、その苦難の旅路をこぞってその姿を描きたがる。
そして、時々添え物のように、落ちぶれたジロの事も描かれ、歌われた。
そんな事を考えていると、ジロはひらめいた。
(待てよ? あの事件の事を……、無名でもいいから絵師を一人抱え込んで、また幼馴染特権でエリカ頼み込んで肖像画を描かせて売りさばくってのもよさそうだな! それによって発生しそうな権利や新しく加入しないといけないギルドの納付金なんかの情報を漁ってみるか!)
そこまで考えてから、ジロは少しむなしくなった。
「ギルドにギルド、金に金。まったく嫌になる」
ジロはそう嘆息した。
エリカはジロの突然の独白に、首をひねって「なんの事です?」っと聞いてきた。
応えようとしたところで、ようやくエリカの供回りの二人がやってきた。
エリカがそれを出迎えようと歩き出し、それの様子をジロは見ていた。
二人とエリカは現在神殿騎士団の、布教を省いた広報部部隊に所属しているので、供回りの二人も美しい。
(年は俺と同じくらいか年上だったな、 どのみちエリカからしてみれば、大分上だ)
そしてジロは、エリカの護衛をつとめる従者二人を出迎える為の準備を始めた。