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六年前の回想 暮れの国を目指して


「それにしても、なんだその荷物の量は?」

 ジロはリーベルトの背後に高く積まれた荷を指さす。

「エリカとガルニエ先輩が行ってから、思いついた品々ですよ」

 そう言ってリーベルトは手近な荷を解いていく。

 中から、厚手の毛布や真冬に使うような防寒着が三着。禁制品の疲れを感じにくくする薬草。腹持ちする携帯食、靴擦れ用だという傷薬に綿。そして単発でコストの悪い魔法が封じ込められたスクロール。雑多な品々が次々と現れる。


 それらの品々を見て、なるほど。とジロは思った。

まず毛布や防寒着。レイスの数が増えると冷気は増した。そして祭壇を出た途端に多くの死霊にまとわり憑かれながら、それを払いのけつつ帰るとしたら、ずっと冷気に晒されるわけだ。

 物理的な防寒はたしかに必須だ。


 ジロは呪物をマニーから受け取った時点で、自分の命を捨てるという事しか考えていなかったので、そんな事すら、考えが及ばなかった。

 だがリーベルトは、合流をはたした後、確実に生還するための方策をずっと考えていたのだろう。


 他の品々のすべてが、エリカとの生還に向けてリーベルトなりに考えて用意された品々であった。



       ◆


 合流後、西進の速度が見違えるほど上がった。

 それによりエリカは自分の死へと向かう時間が短くなる事を恐れたが、三人で生き残るためだと、辛抱強く諭すと、最期にはジロとリーブを信じると言った。


 人間を含め、リーベルトの人生初の実戦経験はなんの問題もなく終わった。

 リーベルトのブートガングは電光のようにゾンビを切り裂き、ワイトやレイスを無に帰した。


 リーベルトの剣の天才性にはジロは驚嘆した。

ジロが十三の頃、リーベルトよりも体格は良かったが、剣技の冴えは圧倒的に劣っていただろう。


 ジロの知るリーベルト・リスマーとは別人のようだった。

 一カ月の間に何があったのかと思うほどの変化だった。

 ジロが学院で練習に付き合っていた頃にわずかに感じていた、リーベルトの剣技の才能が突然開花したとように感じた。


 攻める事への迷いがなくなった。

 突き、縦斬り、横切りを悟らせないようにしていた従来の幻惑するような剣筋が、一本芯が通り、その幻惑する構えに凄みがある。

 ジロとの数え切れないほどの手合わせ中には見せなかった姿だ。

中でも、突き技の冴えが凄まじい。雷電の如しという表現がピッタリであった。

 一段、二段、三段、と際限なく突きが出る。そして軌道も千差万別だ。

 剣が空気を裂いて奏でる音が心地よい。


 そしてその学習能力も、群を抜いている。

 リーベルトが戦闘後に首をひねっていた動きをジロに相談し、ジロが指摘すると、次の戦闘では必ずその欠点が改善される。

 人間用であった剣技はいまや対幽界用として、ますます磨きがかかった。

 そしてブートガンクと余程相性がよかったようで、リーベルト自身も驚いている。

 「経験を積みたいので」とリーベルトが言うので、ジロは一歩下がるように、最前線での戦闘を譲り、リーベルトの戦闘を見ていたが、学院で従者をしていた頃とは比べるべくもないほど、腕が上がっている。


 それとは逆にジロはカートボルクの扱いに困り果てていた。

 横斬り、縦斬り、突きといった初撃は問題ないのだが、その大きさ故に連続で斬るのに手こずった。


 その上、ゾンビ相手にはカートボルクは酷いものだ。

 木剣であるがゆえに肉が斬れない。

 アーティファクトゆえの剣の効力なのか、木とは思えないほどの耐久性を発揮して、ひどく叩いても木剣自体にダメージは内容だったが、死霊を内包するゾンビに対してここまで酷い剣であるとは、ジロは想像さえしなかった。


 休憩時にリーベルトもカートボルクを手に取って素振りをしてみるが、ジロと同じ壁にぶつかった。

 ならばいっその事と、カートボルクは群れに向かって走り、立ち止まることなく大振りに振りに振るうのが最善と結論づけた。


 この手が多少、当たった。

 カートボルクは巨大な剣であるため、その自重を利用して、とにかく暴れ回る。

 防御に関しては、カートボルクはブートガングよりも優秀で、その面積のために囲まれたとしても、死霊のエナジードレインに対し大きな壁となってくれた。


 そして囲いの外から、素早くリーベルトが死霊を駆逐する。

 そういう戦いの型ができあがった。


 幽界での夜の休息も楽になった。

 一日ごとに夜番を替え、夜番をするほうが軽く扱いやすいブートガンクを使って一晩を越す。

 夜番の方も、死霊達が夜に数回襲撃してくる時以外は休めるので、それほどの負担にはならない。

 何より二人いる事で、死ねないという精神的負担が楽になったことが何よりも大きい。


 さらにリーベルトによる魔法の練習をエリカにできる事も大きい。

 《疾風光》は難しいがそれよりも効果の薄い《縮地》を教えたり、死霊の嫌う《聖光》という結界をアレンジするのを手伝ったりしている。

「僕の精霊適性は全てでありますが、信仰魔法においてはエリカには足元にも及びません。魔力の量も凄まじい」

 とリーベルトは年相応に顔を輝かせてエリカの帰還における好材料をジロに報告した。


 何もかもを詰め込むには時間が無かったので、リーベルトが魔法を教え込む事にした。

 ジロが傍目で見た限りでも、リーベルトは厳しい教師だったが、エリカも生き抜くためだと分かっているようなので泣き言を言わずに頑張りに頑張った。


 エリカの睡眠は《昏睡》を使うまでもなく深くなった。訓練が苛烈になっただけの影響ではなく、頼れる存在が増えたことも影響しているだろうとジロは思った。



       ◆


 出国前に提出した日程表にやや遅れる程度の西進は続く。

 いくつもの廃村や朽ちゆく街や、自然に飲まれそうな地方の城下町を三人は進む。


 夜、日課であるマッサージをエリカに施す。

 ただでさえ無理をさせているので、心配事のひとつであったが、エリカはマッサージを好まない。それどころかくすぐったいとキャッキャと笑いながら嫌がる。

 これだけ歩いているのに凝っていないというのは大したものだと感心する。

 リーベルトも、必要ないとジロに言っている。

 若いというのはそれだけで凄いものだと、自身も十七才のジロは苦笑しつつ、力の弱いエリカのマッサージの真似事やリーベルトにのマッサージを年老いた気分になりながら受ける。



 ある時、料理中にうっかりとジロが傷を作った。

 エリカがすぐさま飛んできて、《治癒》をかけたところ、その効果の程に驚いた。小さいとは言え、見た事もない速さで、みるみるうちに傷が塞がっていく。

 他にも、リーベルトが打ち身を作ったときも同様にエリカが傷を治した。

「凄いでしょ! エリカの得意技!」

 そう言ったエリカの足下にリーベルトが大げさに跪き、エリカの魔法を称えた。



 ジロは子供三人だけの旅を続けていて、自分達を悪くないパーティーだと思った。

肉弾派のジロに、剛柔あわせもつリーベルト、そして信仰魔法に才能を示すエリカ。

 幽界においては、隙のない攻防併せ持つパーティーだと思った。


「なかなか悪くないパーティーだな」

 歩きながらジロは思っていた事を口にした。

「驚いたな。エリカ、ガルニエ先輩が僕らを褒めたよ? 今日は幽界で、観測史上初めての晴天になるんじゃないかな」

 芝居っ気を出しながらリーベルトは霧に覆われた空を見上げた。

「パーティーってなぁに? ダンスとかするやつとは違うよね?」

「違うなぁ……。この場合は……なんだろうな? リーベルト答えられるか?」

「う~~~ん。……なんでしょうね」

「なんだろうな。仲間かな?」

「仲間! 知ってる! マニーお爺さまもお仲間がいっぱいいるの!」

「そうだね、エリカ。マニー様に、ポロ様、ガイ様――」

「――ギュンター! ミネバ! カー! アイシャ! ヨーゼフ!」

「こら、エリカ。様って言え。皆がみんな、大物だぞ。爺さまは仲間だから、物語の最中でも、皆さんを呼び捨てしてるんだから」

「それと、エイミーとトシとノボルとオハツ! あっ! コロもいた!」

 エリカはジロの注意を聞いていない。

「エリカ達も仲間なんだね! 三人一緒の仲間だね!」

 エリカが興奮して、そう言った。

 幼いエリカにとって、仲間という言葉がどのように響いたのかは、その年の頃が遠く過ぎたジロには分からなかった。

 だが、

「ああ、そうだ。三人一緒の仲間だな」

「うん、そうですね。……悪くない」

 っとジロも、リーベルトも同意した。


体調悪化が続き通院ペースも増えているため、寄稿ペースが乱れていますが予告無しに寄稿をやめる事は絶対にしませんので、読んでくださっている方は、どうぞ気長にお付き合いください。

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