余所事の話 小さな恋の出会い
マールが見守る中、ジロが殺した部下九人の所持品を漁り、秘密結社構成員の象徴たる黒い武具をマントに包んで持ち去った。
(なんとみすぼらしい男だろう。あんな男には死んでも抱かれたくない)
マール・ノルズは、そう、強く思った。
致命傷以外、ありとあらゆる傷を受けたターゲットはよろめきながら森の窪地を後にした。
◆
スミシー、……私?、それともゴドウ? リビンスキーだったっけ? が距離を置いてジロの後をつけていく手筈になっている。
マールはその追跡者が手負いのターゲットを殺して、魔法剣を自分の物にしてしまわないか気が気ではないまま、死体の事後処理を進める。
《火球》ですべての死体を燃やし……私が――死体の処理に《火球》を使った? なぜ他部門であり、火の気もない場所で、わざわざ火部門の魔法を?
こんな時はいつも使う水部門の《酸嵐》ではなく? とんだ気まぐれもあったものだ。と自分の行動に呆れた。
どうだったか忘れたが、とにかく私とリビンスキー、スミシーで……スミシーは追跡だったっけ? ゴドウで死体をすべて処理した。
これでターゲットが街道警護を呼んできたとしても、証拠は血溜まりしか残っていない。
……血溜まりが残ってる? 血痕? リビンスキーならば血痕などの処理も容易いが……?
どうだったか? リビンスキー自身がこのまま残そうと言ったんだと思い出した。
秘密結社の厳守な証拠隠滅のマニュアルにはあえて血痕を残すなどという表記は無いが、とにかく今の現場はそういう事になった。
マールは一人残って、現場の監視を行う。
ターゲットの尾行はゴドウ? の役目で、ターゲットが街道警備隊の面々を現場に連れてくるのを見届けた。
ジロは証拠が隠蔽された窪地を見て、監視しているこちらがおかしくなるほど、狼狽して、身振り手振りでここにあった戦闘や死体を、街道警備隊の騎士に向かって、再現しようとしていた。
ターゲットは二日、街道にあった詰め所に留めおかれた。
マールはそれも監視した。
もうマールが監視しだして三日目も経つのに、ターゲットの監視はずっとマールが行った。
秘密結社のマニュアルでは最長でも二日、基本は一日交代となっているのに、マールはこの役目を誰にも譲る気が起きなかったし、周りもそれを推奨していた。
秘密結社の規則こそ、無駄で、ターゲットを監視する今こそが正しいのだと、マールは知っていた。
その間にリビンスキーは本部へと奪還失敗の詳細を、王都駐在員ではなく、わざわざスミシーに託して送り出した。
これもマニュアルとは違う。だが、普通は注意をすべきであるペール駐在員リーダーやその他の八人の駐在員(アレ?なんで駐在員の正確な人数まで知ってるんだっけ?)もリビンスキーのやり方に喝采を送り、本部が異常だと思わないように、駐在員たちからも同じ報告を本部に上げさせた。
緊急時であったので、本部への報告方法が独特であったが、それも有りだとマールは思った。
なぜか、交代制ではなく、マールがずっとジロの見張りにつく事も決められた。
そしてリーダーであるリビンスキーが毎日のように、駐在所にもたらされた全ての報告を、草むらに潜むマール元へとせっせと報告を上げてくる。
おかしな事だなっと思ったが、今のマールには別にどうでも良い事であった。
マールはただただ、『みじめな一世騎士』だけしか、考えたくなく、『丸太小屋の騎士』だけしか、見たくなかった。
マールはたった数日の間に、秘密結社で厳密に定められていた数々の規則が大分変わってきた事を感じ取っていた。
今まではシカリイクッターという組織の力に怯えるように盲目的に従っていたが、それさえもマールはどうでもいいと思った。
それよりも力だった。マールは、ジロの持つ魔法剣から目が離せなくなっていた。
そんな事を考えながら、いつものように藪に偽装した見張りの木陰にいると、トントンと後ろから肩を叩かれる。
叩かれるまで、全く気配がなかった事にマールは戦慄を覚えた。
「動くな」
危機感のない声に聞き覚えのある気がしたが、思い出せない。
思い出せないが、マールの身の内歓喜の感情が迸る。
自慰行為でもこれほどの高ぶりは味わった事がない。
「えっと『ペール騎士は大陸一。秘密結社は弱兵揃い』だっけ? お前んところの誰も言わなそうな言葉だったから、確かこれにしたよな?」
その瞬間、マールは催眠状態に陥った。
マールは無意識の中、好ましい男が自分の視界に入ったことを感じた。
「よし、合い言葉はこれで合ってたな。お前に対する見張りはない。人影が耐えたら小屋に来い。俺以外の誰かに話しかけられたり、人の目があったら小屋には入るな、元の任務に戻れ。カウンターの俺から声をかけられたら、お前はすべてを思い出す」
聞き覚えのある声に対して催眠状態のマールは、
「はい、ジロ様」
と、自発的に返事を返し、頬を赤らめながら、後ろに立っているであろうジロ・ガルニエにうなずいた。




